第7話 ベッドの上の2人

「シズク! しっかりして! 目を覚まして! お願い!」


 ヒカリの焦った声が、聞こえてくる。

 良かった……私が命懸けで助けようとしたヒカリは無事だったのね…………私は、彼女の声に応じるように静かに目を開いた。


「よ、良かった……生きていてくれて……うわあ~っ!」


 ヒカリは、大粒の涙を私の顔へ落としながら、大声で泣き出してしまった。


「な、何を言っているの! それは、私のセリフだよ! うわあ~っ!」


 私も、ヒカリの泣き声に負けないくらいの大声で泣いてしまった。本当に…………ヒカリが無事で良かった…………。

 私とヒカリの2人は、数分間に渡って泣き続けたが、私の方が先に泣くことを止めた。この場所は、いったい…………。


「ヒカリ……ごめんね。こ、この部屋は……いったい……」


 私は、そう言いながら周囲を見渡した。私は、ベッドの上で布団をかけて寝ていたのだ。そして、その隣にはもう1台のベッドがあり、ヒカリも同じように寝かされていたことが明らかになった。


「うう~ん……わ、私にも、わ、わからないの…………」


 ヒカリは、その可愛い顔の上を流れる涙を両手で拭きながら答えてくれた。私とヒカリが崖から落ちた後に、きっと誰かが私たちをこの部屋に運んできて寝かせてくれたのだろう。


「そう……ヒカリにも、わからないのね…………あれっ、あれれっ?」


 ヒカリに対して頷きながら言った私だけど、予想外の違和感を感じていた。私の体で痛みを感じる箇所が1つも無かったからだ。頭も、両腕も、両足も、おなかも、背中も、そして全ての指にも……あの高い崖から落ちたのに…………?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る