第87話 皆で遊ぶ日、当日②

「さーて、どこから回る?」


 店内を見回してから、藤城君が俺たちの方を振り返る。


「俺は初めて来るし、よく分からないから皆に付いて行くよ」

「私も」

「順番的にカラオケは最後くらいでいいよね?」

「だね。あ、でも乃愛ちが運動苦手ぷらす筋肉痛の身だからなるべく身体を動かさない系の方がいいかも」

「……それは皆がするところを見学させてもらいたい」

「ま、歓迎と親睦を兼ねてるのに人の嫌がってることさせたら意味ねえからな。皆も疲れたら別に休憩とかしていいからな」


 藤城君が皆に向かって声をかける。

 普段はグループ内ではイジられ役みたいなところがあるけど、こうやって率先して意見をまとめる姿は皆のリーダーって感じがしてカッコいい。

 

 そんな会話がありながら、俺たちはひとまずゲームが出来るフロアに移動した。


「ふぉぉ……!」


 フロア内に足を踏み入れた途端に、乃愛の眠そうな瞳がきらりと輝いた。

 どうやら、ゲーム大好きな彼女の琴線に触れるものだったらしい。


「乃愛ってゲームセンターとか行ったことない感じ?」

「ん。行ってみたかったけど、引きこもりには縁遠い場所だった。優陽くんはあるの?」

「あるにはあるけど……あまり遊んだことはない、かな」

「? どういうこと?」

「ほら、格ゲーの筐体とか興味があって、触ろうとするんだけどさ、ああいうのって対面の人と対戦になるようになってるからさ。中々手が出しづらくて」


 誰もいないタイミングを見計らって遊んだりするんだけど、結局人が来て、筐体には触れずに撤退するみたいなことを繰り返した結果、ゲームセンターに足を運ばなくなり、ゲームが好きなのに縁遠い場所になってしまっていたわけだ。


 極端な人見知りってわけじゃないけど、さすがに見知らぬ他人と顔を付き合わせてゲームをするのは落ち着かないんだよねぇ……。


「なるほど。よく分かる。ぼっちにはゲームセンター厳しい」

「まあ、家で出来るゲームだけで足りてたから特に来れなくて困るようなことはなかったけどね」

「まったくもって、その通り。顔を合わせずに自分の落ち着いた環境でゲームが出来る家ゲーこそ至高」


 元ぼっち同士、シンパシーを感じて頷き合う。

 やっぱり乃愛とはとても気が合うなぁ。


「今ここでそれ言っても来れなかった負け惜しみにしか聞こえないんだけど、それはいいの? 2人とも」

「あ、乃愛! あのゲーム一緒にやってみない?」

「ちょうど私もそう言おうと思ってたとこ。負けない」


 芹沢さんが横で刺すようなことを言っていたような気がするけど、店内の喧騒で聞こえなかったってことにして、俺と乃愛は格ゲーの筐体に向かった。


「じゃあ、まずは軽く1戦やってみようよ。そのあと3戦やって、2戦勝ったら勝ちでどう?」

「ん」


 俺も乃愛もいつもコントローラー派だし、アーケードコントローラーは持ってないから、この1戦でどこまで慣れられるかがこのあとの戦績に影響してくるだろう。


 フロアに入るなり、すぐに格ゲーの対戦を初めて、苦笑する皆を横に、俺たちは対戦を始めた。


 それから、時間が経過して、対戦が終了し、


「………………もう1回」


 乃愛が拗ねたような顔で、俺を見上げてきた。

 結果は3戦目までもつれ込んだ上での俺の勝ちだった。

 

「ダメだよ。これ以上皆を待たせるのは悪いし、ここは俺の勝ち」

「………………んぅ」


 もの凄く不服そうだったけど、お金もかかるし、こればかりは仕方ない。

 

「ごめん皆、いきなり時間使わせちゃって」

「気にすんなよ。お前ら上手くて実力も拮抗してたから、見てるこっちもすげえ面白かったし」

「それ。途中からギャラリーも集まってきちゃうくらいいい試合だったよ」

「え、そんなことになってたの?」


 集中し過ぎて全然気が付かなかった。

 じゃあ、この周りにいる人たちってそこのモニターで俺と乃愛対戦眺めてた人たちってこと?

 うわぁ、なんか恐縮です……。


 対戦を申し込まれたりもしたけど、俺と乃愛はその誘いを断って、会釈をしながら皆と一緒にその場を去る。


 筐体の前から離れると、乃愛が俺の袖を軽く引いてきた。


「……帰ったら、今日の続きする」

「はいはい」


 これは長くなるかもな、と負けず嫌いな乃愛に苦笑を漏らしていると、


「あ、梨央。ちょっとこれやってみない?」

「ん? ああ、ダンスゲーム?」

「うん。どうせならスコアで勝負しようよ。負けた方がジュース奢りでどう?」

「もしかして鳴宮たちに触発されちゃった?」

「まあね。で、どうする?」

「もち、乗った。けどいいの? 捻挫しててしばらく運動なんてしてなかったのに、身体鈍ってるんじゃないの?」

「ちょうどいいハンデじゃないの?」

「ふうん、言うじゃん。負けても文句言わないでよ」


 お互いに好戦的な笑みを浮かべ、芹沢さんと和泉さんがダンスゲームで勝負を始める。

 

(2人とも運動神経いいし、いい勝負になりそうだなぁ)


 そんなことを思う俺をよそに、2人は踊り始める。

 スコアは拮抗していて、どっちが勝ってもおかしくない感じだ。


 そこで、芹沢さんがターンを決め、俺たちに向かってウィンクを飛ばしてくる。

 ファンサをする余裕まであるらしい。


(テスト終わってから体育も参加してるくらいだし、治ってるっていうのは知ってたけど)


 改めてこうやって元気いっぱいに身体を動かしている芹沢さんを見れて、凄く安心する。

 まあ、結果としては芹沢さんが僅差で負けてしまったんだけど。


 それから、俺たちは複数のゲームで遊び、スポーツが出来るフロアへと移動したのだった。

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