第2話 怪奇!! 微エロ配信大魔王!!
とどのつまり、この国は大魔王なる超常存在に支配されているのだ。
彼女が指を鳴らせば、半径五メートル以内の生命体は恐怖に溺れて絶命する。
彼女の怒りは天を割り、米軍艦隊を二秒で灰にする。
意思の疎通は可能だが、度を越した気分屋であり人心掌握術等による制御は不可能。
試算では核ミサイル五発ほどで殲滅が可能らしいが、現実的な手段ではないことから実行に移されていない(その気になれば殺せないこともないというのが、かえって厄介事の種になっているらしい)
物理的な都合と各国政府の綱引きにより日本に押し付けられた大魔王は、
古今東西地球上のあらゆる娯楽を以てして丁重にもてなされていた。
そうして長いこと人間に尽くされていた彼女だが、ある日こんなことを言ったらしい。
「わらわもネット配信なるものをやってみたい」
曰く、自らに媚びへつらう無様な男を見て優越感に浸りたいらしい。
「最初は役人が視聴者のふりをしてみたのだが、なにか気にさわったのかネット回線越しに殺されてしまった。どうにも演技がバレていたらしい」
要人の言葉に、俺は鬱陶しく伸びた前髪をかきあげ、率直な疑問を述べた。
「それ俺の手に負える案件なんですか?」
彼は答える。堂々と。
「ネットに出回っている君の赤スパ構文を改変して送りつけたところ、大魔王は非常に満足げな笑みを浮かべていた」
「はあ」
事情はわかった。
要するに俺が彼女の配信にガチ恋構文を送り続ければいいのだろう。
※
「ルーターに細工をして、一度限りだが大魔王の攻撃を遮断できるようにしてある。彼女を相手に二度と同じ手は使えないから、本当に一度きりではあるがね」
要人はそう言うと、腕時計をちらと見やってからパソコンを立ち上げる。最新鋭のゲーミングPCにゴシック体のラベルテープが貼り付けられているのは、なんとも妙な光景であった。
指示された通りにブックマークを開くと、大魔王の配信画面が開かれる。
むすっと、不貞腐れているような……媚びとは正反対とも言えるその表情に、俺は――
『むっつり顔かわいいね』
自然とそう打ち込んでいた。
「……ほう? わらわの美しさにようやく気づく者が現れたか」
『こんなに可愛いのになんでみんな気づかないんだ』
自分でも驚くほど滑らかに指が動いた。
内心不安ではあったのだ。演技が見抜かれてしまうのではないかと。
だが俺はわずか一瞬で大魔王にガチ恋し、テキストを送りつけていた。
自分のチョロさが嫌になる。
「ふふん、人間も捨てたものではない……今日は殺しを控えよう」
そう言いながら、大魔王は羽織っていたマントを脱ぎ捨てる。薄手のキャミソールの細い肩紐が下着の不在を主張した。
『エッッッッッッッッッッッ』
「なんじゃ? 痴れ者め」
言いながら、大魔王は自然(さを精一杯アピールしたよう)な仕草で肩紐をズラした。
こいつ微エロ系配信者かよ!?
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