限界メンヘラ大魔王VSガチ恋長文勇者

抜きあざらし

第1話 恐怖!! オタクに土下座する男!!

 せめて冗談であってくれ。

 しかし政府の要人(ネットニュースで見たことあるしSNSもフォローしている)は、理不尽にもこう続けた。

「これを見てくれ」

 官品であろう野暮ったいタブレットには、実写と見紛うほどの精巧なCGが映し出されている。

 濡羽色の髪から生える、捻れた鋭い二本の角。向かって右側は少しばかり短く、紫色のグラデーションがかかっている。

 二次元のキャラクターを思わせる金色の大きな瞳は、しかし実写と言われてもギリギリ信用できる絶妙なバランスで存在し、画面越しに俺の青い恋心に揺さぶりをかける。

 どこか大人びていながらも、同時に醸し出されるやんちゃな気性。

 はっきり言ってかなり可愛いしマントの隙間から覗くおっぱいもかなり大きい。

 要人は続けてこう言った。

「彼女はこの国を裏から牛耳る大魔王だ。今はネットで配信活動をしている」

 冷静に考えれば、彼は偽物で俺を騙そうとしている可能性が高い。

 だが、同時にこうも思った。俺にそこまでして騙す価値があるのかと。

 かなり綿密な仕込みだ。

 まず、こんなキャラクターモデルを用意するには、莫大な資金と時間がかかる。俺は詳しいんだ。

 要人も、変装にしてはクオリティが高すぎる。喋り方もネット番組に出てきた時と同じだし。

 更に俺はネット上に個人情報を一切出していない。串を刺していないので然るべき手段での特定は可能だが、訴訟リスクも極力廃している。キモいだけで害はない。

 だから、もしかして、もしかすると、彼は本当に困っていて、俺に本気で世界を救って欲しいと思っているんじゃないかと、心の片隅では思っていた。



 俺がリアクションに困っていると、要人はチン毛の散った床に膝をつき――深々と頭を下げ、床に額を擦り付けた。


「信じられない話をしているし、君の名誉を傷つけ侮辱する要望であることもわかっている。だがこの通りだ、どうか私の話を信じて、我々に手を貸して欲しい……!!」



 俺はあんたのそういう真摯なところが、この国のためになると思っているんだ。

 だからネトウヨと馬鹿にされても、あんたの公式アカウントをフォローして、おじさん構文をタイムラインに垂れ流しているんだよ。

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