[03]ディアヌ・十八歳

「よからぬことを企んでいるようだなぁ、ディアヌ」


 皇太后の離宮で、離宮の主である皇太后とお茶しております――伏魔殿の中心で陰謀を語らっているようにしか見えませんが。


 こんにちは、皇太子ジェロームの婚約者、伯爵令嬢のディアヌ(十八歳)です……自分で自分のこと令嬢って言うの、なかなか気恥ずかしいなあ――いまさら、だけど。


「わたしが良いことを企んでいたことが、ありましたか?」

「ふふふ。そうだったかもなぁ。年を取ると忘れやすくていかん」


 伏魔殿の主、皇太后。

 伯爵令嬢のわたしを皇太子妃に推した張本人。

 皇太后は救国の女王と呼ばれている――王国と戦争していた頃、皇太后の夫の皇王(現皇王の父)が急死。総崩れしそうになったその時、皇太后が号令をかけ、見事に軍を復活させ、さらに隣国の兵を駆逐するまでに至った。


 最初から皇太后が軍権を握っていれば……と、言ったら「わらわもそう思ったゆえ、夫が急死したのだ」とのこと。


 それ以上深くは聞きませんでした。


「して、首尾は整ったか」

「はい」

「良い返事じゃ。あの戦に、おぬしのような軍師が居てくれたら、もっと容易く勝てたであろうに」


 軍師とはニートが選ぶ自分に相応しい職業、不動のトップスリーの一つですね。わたしは前世の記憶を攫っても、軍師の覚えはないので、それは無理でしょう。


「どうでしょう」

「ふぉふぉふぉ」

「ふふふ」

「ふぉふぉふぉ……」

「ふふふ……」


 控えている侍女は、先年までクラリスに仕えていた――ドレス裂きの実行犯で、処刑されかけていたのを、上手く手を回して回避したあと、皇太后の宮に預けたのだ。

 その後、侍女として更なるランクアップを――皇太后の教育が行き届いているらしい。実際教育したのは、オリヴィエ侯爵夫人かミッテラン侯爵夫人かもしれないけれど。


 オリヴィエ侯爵夫人はラファエルの母親です。ラファエルの母親はこちらに引き込んでいる。

 もともと交流があったから、クラリスの婚約者としてわたしがラファエルの名を上げても、不審に思われなかった。


 わたしの下準備が進む中、この世界を乙女ゲームだと思っている前世の記憶持ちコレットと、父親と兄にすっかりと嫌われてしまったクラリス、物語とは違いクラリスの婚約者になったラファエル、そして宰相の息子ナルシスは十五歳になり学園に入学した。


 物語では嫌われても陰日向なく、健気に頑張り女友達を増やしていったヒロインですが、乙女ゲームのヒロインだと勘違いしているコレットは、男性にしか近づかず。

 コレットはテンプレに従って、騎士団長の嫡男ラファエル、宰相の息子ナルシス、神官職で教員を務めているセザール、そして来年入学するわたしの義弟シメオン、そして異母兄ジェロームの五人を攻略対象に認定した。


 そして逆ハーエンドを迎えて、隠しキャラを出すつもりらしい。


 隠しキャラの存在を教えたのはわたし。

 店舗特典SSの一つに、外国の王子に見初められるというのがあった――結婚した女にちょっかい出してくる男って、最低としか思えないが、実際に存在しているので、写真を入手したところ、なかなかの美男子だった。

 それをわざとコレットの目に付くところに置き――外国の王子だよと教えたら、目がぎらついた。


 知らぬところで隠しキャラ認定された王子ですが、訪問予定はないのでいいだろう。隠しキャラ的にいきなりやってきても、わたしには関係ないので、どうでもいいことだが。


 元来の物語から逸れている状態だが、クラリスだけは物語から外れることなく、コレットを虐め、その姿をラファエルに見られて幻滅されるを繰り返している。

 わたしならもっと上手に虐めるが――クラリスにわざわざ虐めのアドバイスをするつもりはないので放置。


 コレットも虐められて喜んでる。虐めを止めないクラリスは「記憶持ちで、ざまぁ回避にご執心」なキャラには見えないからね。


「ざまぁの最中に記憶を取り戻すこともあるから、そのまま殺処分が絶対……ですか」


 いまも続けているコレットの日記の盗み見――そこに書かれていた一文。

 コレットは、クラリスをざまぁするようだ。その後は殺処分を考えているらしい。

 この世界を乙女ゲームだと思っているのだから、そうなるだろう。

 そしてそこで記憶を取り戻し、巻き返されたら困ると考え、消そうとするのも、乙女ゲーム脳らしくて、じつに分かり易い。


 悪役令嬢に婚約者がいないと不自然だろうなと思って、ラファエルをクラリスの婚約者に仕立ててよかった。


 乙女ゲーム系創作物の断罪は主に卒業式に行われ、それはこの物語でも同じ。婚約破棄からの断罪、そして新たに結ばれる婚約。

 一部をのぞいた在校、卒業生ともに二人に祝辞を送るシーン。


 その場面を成立させるのは、無能だが権力のある皇王が臨席しているから。皇王これがいると、物語がコレットに都合良く進んでしまうが、それでは面白くないので、卒業式に向かうのは皇太子とその婚約者わたしに変わってもらおう――断罪学芸会は、かぶりつきで見たいから。

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