[02]ディアヌ・十七歳
クラリスの性格もあるが、愛のない政略結婚をした皇妃との間に打算と強欲で産ませたクラリスよりも、真実の愛の結晶であるコレットのほうを優先する皇王。
為政者としてどうなんだ? と思うが、無能なのは知っているので、いまさら驚きはしない。鬱陶しくはあるが――
こんばんは、伯爵令嬢にして皇太子の婚約者ディアヌ(十七歳)です。
コレットが王宮にやってきて一年ほど経ちますが、みごとにクラリスは悪役に――もともと分かり易い傲慢さを振りかざしていたので、当たり前といえば当たり前。
クラリスは実兄で皇太子のジェロームと同じく短絡的。
例えば侍女にコレットのドレスを引き裂くように命じ、すぐにバレて、皇王に言いつけられて叱責されるという――もう少し頭を使えと。
黙ってやられるコレットではないので「皇女にドレスを裂かれた」と泣いて皇王に訴え完全勝利。
あとドレスを引き裂いた実行犯は、クラリス付の侍女です――実行犯の侍女には、処刑が言い渡されました。
まあ、そうなるのを知っていたから、手を回して助けたんだけどねえ。もちろん善意ではなく、駒が欲しかったので。
侍女と言えば、コレットのほうにも動きがあった。
皇王の愛人でもある母親亡き後、コレットが働いていた商会。そこで仲が良かった女の子をメイドとして採用したいと希望したので、取り計らっておいた。
この世界を知らないが、乙女ゲームと信じて疑っていないコレットは、仲の良かった女の子をお助けキャラと判断して侍女に抜擢したらしい。
たしかにゴシップ大好きな侍女で、色々有意義な情報をコレットにもたらしている。
主人のために情報を集める侍女なんて、珍しいものではないけど。
そんな仲間も手に入れたコレットは、必殺技「平民だから……ぐすん」を、頻繁に繰り出して同情を買い溺愛され、反対に父親の皇王や兄の皇太子と疎遠になりつつあるクラリス。
ちなみにわたしもコレットから「わたしが悪いんですね……くすん」攻撃をくらいました――礼儀作法を厳しく教えたら、すぐに皇太子に言いつけられ、
「コレットは平民生活が長かったし、可哀想な子だから、もう少し優しくしてやってくれ」
と、注意されました。
わたしはクラリスとは違い、自ら食らいに行ったんですけど――正直言って、コレットに礼儀作法なんて教えたくないから。
皇太子が言質を取り、あとは放置することに。他の宮中女官という、有爵貴族のご夫人方にも、今回のやり取りを伝えて、誰も礼儀作法を教えない方向に持っていきました。
礼儀作法が身につかなくて困るのは、わたしじゃない。
売られた喧嘩は買う主義ですし、物語本来の耐えて、自ら努力して、頑張るようなヒロインじゃないので、潰してもいいよね――もっとも本来のヒロインタイプも、好きじゃないので、そっちで居た場合も排除するけどさ。
わたし、性格悪いんで
そんなコレットに嵌められ続けているクラリスはというと、相変わらず我が儘――なので良心の呵責などなく、わたしの駒として使えます。
父は「お前に良心の呵責なんてないだろう」と言うでしょう。本当に父はわたしのことを、よく知っています。そんな父も罪悪感とは無縁の生き物ですが。
「クラリスとオリヴィエ侯の息子ラファエルをか」
ただいまわたし、クラリスとラファエルの婚約を皇王に提案しております。
なんで婚約者でしかない伯爵令嬢のわたしが、国政に関わることに口だししているのかと言いますと、皇太子のジェロームが政務に全く向かない性質だからです。
一応みなさん、頑張って皇太子を教育したのですが、短絡的というか……悪役令嬢物語的に言いますと、ヒロインの証言だけで、悪役令嬢を断罪しちゃうタイプ。
これはもう性格なので矯正は無理ということで、皇太子を補佐できる「才媛」を后にすることにし、選定した結果、伯爵という身分低めなわたしが選ばれた。
わたしは国内でも有名な才媛なので、みんなが納得しましたけれど。
皇太子妃に選ばれなければ、外国の大学で学び直すつもりだったんですけどね。
「はい。皇妃陛下が持参した領地のことを考えれば、国内貴族が最良。さらにオリヴィエ将軍の嫡男ラファエルは、軍人としても優れていらっしゃいますので…………」
適度に語尾を濁しておいた。
皇王と皇妃は、完璧な政略結婚――わたしの母国と隣接する皇妃の母国は、長らくいがみ合っていて、なんどか戦争もしていました。
ですがある時、ちょっと遠いところで、勢いのあるヤツが即位したことで、戦争している場合じゃなくなり「停戦」することに。その停戦協定の一環として皇王と皇妃は婚姻を結んだ。
皇妃は結婚する際に、化粧領も持参した。
この化粧領、皇妃の娘しか相続できず、皇妃の直系女児がいなくなったら、速やかに隣国に返されることになっている。
なので――皇太子が生まれた後、皇妃を疎んじ、恋人と逢瀬を重ねていた皇王だったが、皇女が産まれないと化粧領が王国に返還されてしまうので……ということで、寝所に通った。
皇妃としては化粧領を故国に返したかったようだが――色々攻防があったらしく、クラリスが生まれてからは、一切関係はなし。
皇王は真実の愛ことコレットの母親を思い、空閨を託つ。
もちろん真実の愛ことクラリスの母親はもう亡くなってしまったので、死ぬまでどうぞお好きに……って感じですが。
あ、クラリスとラファエルは無事婚約に至りました。クラリスにお礼とは到底思えないようなお礼を言われましたが。
なにせわたしは伯爵の娘でしかないので、クラリスからすると身分の低い女扱いなので、礼なんて言いたくない相手の一人。
はいはい、感謝しなくていいよ、だってコレット用に張った罠だから。獲物が掛かった罠は、壊れる設定なので――あしからず。
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