第6話 五

 意を決してリビングのドアを開けた瞬間、味噌汁の香りが莉々香の鼻腔を刺激した。昨日の夕食はボロネーゼだったので、味噌汁はもちろん作っていない。

 急いで食卓へと向かいその上を見ると、二人分の朝食が用意されていた。そこには、炊き立てのご飯に味噌汁、出し巻き卵と鮭の塩焼き。南瓜の煮物というメニューが並べられていた。

「あれ? 私が当番だよね?」

 そう尋ねながら、莉々香は兄に抱きつき、おはようのキスをする。悠杜から同じようにキスが返って来ると、莉々香は悠杜の身体に回した腕を下ろした。

「起きてこないから作った」

 そう言いながら、悠杜は席についた。莉々香も続いて席につく。

「ごめんなさい……」

 莉々香が起きてこないからといって、すぐに作れるメニューではなかった。時間ギリギリまで、寝かせてくれたのだと思い、莉々香は悠杜への感謝でいっぱいになり、礼を述べようとした。

「風呂掃除と交代な」

 悠杜へ感謝をし、礼を述べようとしたとたん発せられた言葉に、莉々香は少しガックリとする。親切心ではなく、風呂掃除が嫌だったからなのだろうかと莉々香は考えた。。

「うん……」

 それでも、食事当番を出来なかったのは事実のため、莉々香はそれを了承する。

 莉々香の返事を聞くと悠杜は、手を合わせた。続けて莉々香も手を合わす。そして、二人同時にいただきますと言い、箸を持った。

「おいしー」

 莉々香は先ほどの事など忘れて、上機嫌で朝食を頬張る。

「お兄ちゃんの料理は美味しいね」

「毎日、作ってやろうか?」

 悠杜の言葉に、莉々香は箸を止めた。

「いいの?」

「別に構わない」

 莉々香は、悠杜の言葉に不振そうな顔をする。先ほどの事を思い出したのだ。

「ただし、掃除は全部リリがやる」

「そんなのやだー」

 悠杜の言葉に、莉々香はふくれて見せた。やはり今日の朝食も、風呂掃除をしたくなかったからなのかと、莉々香は納得をしてしまった。

「ほら、あまりゆっくりしてる時間ないぞ」

 ふくれている妹に、悠杜は声をかける。

「はーい」

 莉々香は返事をすると、箸を動かし始めた。先に食事を終えた悠杜は、自分の食器を片付け始める。

「準備してガレージに行くから、ヘルメット忘れてくるなよ」

 悠杜はそう言い残し、リビングから出て行った。

 バリ島のリゾートホテルを思わせるような部屋に、携帯の着信音が鳴り響いた。

 広いダブルベッドのシーツの中から手が伸び、小さなサイドテーブルの上の携帯を掴んだ。すぐに携帯がシーツの中に引き込まれ、着信音が消える。

「……はい……」


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