仕切り直して五杯目 秘してこそ華
「ということで、答えはクズでした――」
「何だか悪い奴の話みたいだな」
「葛はほとんど使い道がないので、役に立たない邪魔者扱いをされるからね」
「この場合は使い道がある訳だ」
「そう。葛餅があるだろう? あれは葛の根からでんぷんを取って食べられるようにしたものさ」
「キャッサバから採ればタピオカになって、ワラビから採ればわらび餅ができる。葛からは葛餅だね」
「要するにでんぷん、つまり炭水化物な訳だ。当然エネルギー源となる」
「それなら葛をたくさん育てて、でんぷんを取るのに利用したら?」
「でんぷんが採れるのは木に巻き付いて上に伸びたものだけなんだそうだ。作物とするには、収量、効率が悪すぎるんだ」
「何だかもったいない話だ」
「それを利用しようっていうのが、土師氏の伝統さ。何しろ葛城氏っていう一族がいたくらいだからね。葛の性質を知り尽くしている」
「どう使うんだ?」
「冬枯れした後に残った根からだけ、でんぷんが採れる。木に巻き付いた株ね。そういう根は掘り起こして粉砕し、栄養源として床下に埋める」
「硝化バクテリアの餌にするんだな」
「生育中の葛からは葉、茎、そして根を採って、これも粉砕して埋め込む。葉や茎を使うのはカリウム源の意味がある。肝心要は根瘤だ」
「そうか。根瘤には硝化バクテリアが棲んでいる」
「そうだ。培養穴全体が、いまや巨大な根瘤になる訳だ。硝化バクテリアは増殖に時間がかかるデリケートな生物だ。初めにどかんと根瘤を入れてやれば生育環境が形成されやすいだろう」
「それが五箇山、土師氏だけの秘伝か――」
「どこにも書かれちゃいないがね」
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