第2章 八岐大蛇を肴にする。

一杯目 本日のお薦め。

 早めに仕事を片付け、いつもの居酒屋を覗いてみた。夕方五時だというのに、もうあの男が呑み始めている。


「よう、先生。こっちでやってるよ」


 別に待ち合わせた訳ではないので合流する必要はない。この店に入る必要も、もちろんない。


「ほら、隣にどうぞ」


 といって、逆らう必要もない。流されるままに、示された席に腰を下ろす。


「オヤジ、生中一つ! とりあえず」


 その男、須佐が勝手にこちらの分の酒を注文する。


「まずは駆けつけ三杯ってね。二杯目はもう駆けつけじゃないけど」


 この男はいつも無駄口が多い。私の分まで喋ってくれるので、こちらは楽ができる。


 私のビールが来たところで、形だけジョッキを合わせた。


「クーっ! 何がうまいって、明るいうちから呑む酒ほどうまいものはないね」


 須佐はうまそうに酒を喉に流し込む。この男はいつでもうまそうに酒を呑む。


「ふう。落ち着いた――」


 呑み込んだビールが胃に収まり、酒毒が回ってくる感覚を味わいながら、ようやく私は酒呑みモードに切り替えた。


「で、今日は何を肴にする?」


 肴といっても料理のことではない。この二人が顔を合わせると、いつも歴史だの伝説だのの話になる。他の話をすることもあるが、どうせ記憶に残らない。なので、もっぱら伝説を肴に酒を呑む。


「本日のお題は『八岐大蛇』ってのはどう?」


 須佐が返事を寄こした。


 ベタだけど悪くはない。オーソドックスな肴も捨てがたい。安心と信頼の定番メニューだ。


「いいんじゃないか? 今夜は蛇料理で一杯やろう」

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