Revenge Fox Ⅵ

 コンビニから戻ると白狐は前置きもなく喋り始めた。


「復讐にはいくつか不文律ってもんがある。なんだか分かるかい、あんた」


 そう問われて、俺はカップラーメンを啜りながら首を横に振る。

 すると狐は床から真横の座席に跳び上がり、そこで綺麗に前足をそろえて座った。


「いいか、まずはできるだけ自分の手を汚さねえってことだ」


 首を傾げた。 

 口の中のものを飲み込み、問いを向けようとするとその矢先、狐はふわりと尻尾を振った。


「そんなことができるのかって顔だな。まあ、それは大丈夫だ。安心しな」


 よく分からないけれど、俺は曖昧にうなずいておく。


「次に大事なのは天秤を平行に戻す加減だ」


 狐が鼻をふんと突き出す。


「天秤を平行に?」

「ああ、そうだ。復讐の真髄はやられた分だけをやり返すことさ。つまり、やり過ぎは良くない。倍返しなんてのは御法度だ」


 どうしてだろう。

 相手を自分以上に悲惨な目に遭わせてやりたいというのがリベンジャーの心情ではないだろうか。

 再び首を傾けると狐は言う。


「バランスは大切だぜ。何事もほどほどにしておくことだ。もし、その不文律を破れば……」


 俺はコーヒーを啜りながら言葉尻をそのまま返す。


「破れば?」

「それなりの代価を払ってもらうことになる」

「代価。それって金ってことか?」


 すると狐は呆れたように耳を寝かせた。


「あのな。あんたオレがうつつの狐にでも見えるのかよ」


 ゆるゆると首を横に振った。

 多分、幻覚だろう。

 あるいは乖離した自分の人格かもしれない。

 どちらにしても俺の精神はよほどやられていることに相違はない。


「ま、分からねえのは仕方がねえけどよ。こっちじゃ金なんて砂粒ほどの値打ちもねえよ」

「じゃあ、なにを」

「そりゃあその時々だな」


 その軽薄な声色に俺は軽く肩をすくめ、それからダッシュボードの時計を見遣った。

 いつのまにか午前三時を過ぎていた。

 交代まで小一時間。

 とりあえず俺は少し眠ろうと車内灯を消し、背もたれを倒した。

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