Revenge Fox Ⅳ

 目を開けると警備員の帽子と顔があり、それを背景に白い天井が見えた。


「あんた、なんてことしてんの」


 その問いに答えるには意識が朦朧としすぎていた。

 けれど、どうやらどこかに横たわっているらしいとは気がついて体を起こそうとすると途端に酷い眩暈と頭痛に見舞われる。


「いてて……。えっと、ここ、どこですか」


 こめかみを押さえ、なんとか上半身を起こすと目前に信じられない光景があった。

 それはあられもない下着姿の佐々木さんがぺたりと両膝をつけて床にうずくまっている姿。


「え、どうしたんですか」


 驚いて立ちあがろうとすると警備員に肩を押さえつけられた。


「動かないでよ。今から警察呼ぶんだから」

「警察? なにがあったんですか」


 そう聞くと警備員はこれみよがしにため息をつく。


「なにが、じゃないよ。見回り中に悲鳴が聞こえて駆けつけたらこうなってたんじゃないの。とぼけても無駄だよ、ねえ」


 彼の言葉に嗚咽を漏らしながら佐々木さんがおもむろに俺を指差した。


「そうです。私が忘れ物を取りに戻ったらいきなり後ろから抱きつかれて」


 はあ……?


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。自分はただ残業してプレゼン資料を……」


 動揺して声が震えた。

 全く記憶がない。

 それに俺はなぜ床で眠っていたのだ。

 さっぱり状況が分からず、激しく首を振ると佐々木さんが涙声で警備員に訴える。


「私、怖くて。動けなくなって服を脱がされて。でも、やっぱり逃げようと思って抵抗したら顔を殴られて。で、悲鳴を上げたんです。そうしたら岡部くんが口を押さえようとして、とっさに指を噛んだらその人、転んでデスクの角に頭をぶつけたみたいで」


 はあっ?

 なに言ってるんだ、この人は。


「い、いや、嘘です。冗談ですよね、佐々木さん。だって俺はなにも……」


 そのとき女性警備員が駆けつけてきた。

 彼女は佐々木さんに薄い毛布を掛けてから、蔑むような視線を俺に向けた。

 そしてわずかな沈黙が訪れ、佐々木さんの咽び声だけがしばらく続いた。

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