インドゾウに会える日



 (車の中。ラジオから音声が流れている。)

ラジオのナレーション「渋滞情報です。首都高速25号線では、日本全土を騒がせつつあるインドゾウが出現しそうという情報が入っています。これにより、日本全国からの車が殺到しており、一時的な渋滞が発生している見込みです。

 運転手のお父さん「いやあ、混んでるなあ。さっきから全然進まないよ。」

 男の子「おとうさん、本当にゾウさん見られるの?」

 ママ「どうなんだろうね。」

 ラジオのナレーション「インドゾウの出現時刻は、大体午前12時45分ごろの見込みとされています。約70年ぶりに見られる現象とのことで、心待ちにしていた日本国民も多いと考えられています。」

 ママ「70年ぶりですって。」

 男の子「70年ぶりってどのくらい前なの?」

 ママ「お母さんもまだ産まれていない頃よ。」

 男の子「へー。」(男の子は質問しながら、ミニカーを手のひら

の上で遊ばせている。)

 運転手のお父さん「トイレ大丈夫かあ?もうすぐパーキング

エリアがあるけど。」

 ママ「お母さんは大丈夫だけど、一回次のパーキングエリアで

停まりましょう。トオルがトイレに行きたいかもしれないし。」

 (男の子はミニカーに夢中。感触を確かめながら、クルクル

させて眺めている。ぼんやりした表情)

 運転手のお父さん「そうだな。一回降りるか。」

 (お父さん、ウインカーを出して首都高から降りる。パーキングエリアに入るためにウインカー

を出す)

 運転手のお父さん「ちょっと飲み物買ってくるから、トオルのことお願いね。」

 (ママと男の子は、パーキングエリアのトイレへ手をつないで入っていく。

それを見送りつつ、お父さんはパーキングエリアの建物の横のひとけのない場所に立つ。

そして、電話をかける。)

 お父さん「もしもし?今電話大丈夫?」

 電話の相手「おー、お疲れ~!家族旅行、大丈夫そう?インドゾウが見られるってお子さんは

信じてくれたの?」

 

 お父さん「信じてくれたよ。そしたら、インドゾウって何?って話になっちゃって。」

 電話の相手「俺の吹き込んだCD、どう?ちゃんと渋滞情報っぽく聞こえてた?結構頑張って研究したんだけど。」

 お父さん「妻はふふって笑ってたよ。なかなか粋なことする友達だねって。」

 電話の相手「昔そういう勝手な録音していろんな人をビックリさせて遊んでたよな~。放送室に忍び込んで、こっそり録音したCDを流した時があったよな。全員の先生のちょっとした噂を集めて、流したんだ。

 お父さん「あったなあ、そんなこと。」

 電話の相手「あの時の先生たちの反応、面白かったな~。真っ青になっている人から、爆笑している人まで。二度とやるなって言われたけど、振り返ればいい思い出になったよな。」

 お父さん「いたずら小僧だったなあ俺たち。」

 電話の相手「今パーキング?」

 お父さん(飲み物を自販機で買いながら)「そう。これから

ヒョウタンナス動物園に着く。多分、吹き込んでくれた時刻

には着くよ。インドゾウが、そこで見られるんだって。」

 電話の相手「お子さん、喜んでくれるといいな。」

 お父さん「うん。いい誕生日プレゼントになるといいんだけど。そ

ろそろ行くよ。」

 電話の相手「分かった。じゃあな。頑張れよ。」

(お父さん、男の子、ママと合流。男の子、走って駆け寄る。)

 男の子「お父さん、ゾウさん、いた!」

 お父さん「え?ああ、本当だ!」

(ゾウの形のような雲が青い空に浮かんでいる)

 お父さん(ボソッと)「70年ぶりっていうのも嘘じゃなかったのかもしれないなあ。」

 男の子「あえた?」

 お父さん「うん。でもまだ会えるんだよ。」

 ママ「そうよ。ちゃんと、会いに行こうね。」


 (春期休暇、男の子の誕生日。今日は、インドゾウに会える日)



 


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