第5話
後日、網田さんが殺されるとかはなかった。念のため検査を行った方がいいと福路先輩は言い、網田さんはその助言に従って精密検査を受けに行った。
謎は依然として残ったままだ。
どうして、福路先輩は悲鳴が聞こえないと嘘をついたのか。網田さんは、何を知っているのか。
福路先輩は何かを隠している。隠そうとしている。
それはいったい何なのだろう。
考えてもわからなかった。課題に追われているわけではなかったけど、賢くもない僕の頭では何も思いつかないらしい。
大きく伸びをすると安っぽい椅子が軋んだ。時刻は午後十時を回ったところ。必死こいて書き上げた課題はすでに提出済みで、一仕事を終えた達成感が僕を満たしている。段ボールを片付け、先輩のことを考えるだけの余裕があった。
福路先輩。
ミステリアスな人でどこかつかめないところがある。僕を茶化してくるかと思ったら、手料理をおすそ分けしてくれたりしてくるよくわからない人。あの人は僕の反応を見て楽しんでいるのだろうか。
僕は先輩のせいでドキドキしっぱなしだ。意味深な行動が多すぎる。僕に気があるような行動しかり、悲鳴が聞こえないと嘘をついたことしかり……。
福路耀という女性に、僕は興味を持っている。いや、これは正確ではない。先輩が隠していることが気になっているのだ。
同時に恐怖もしていた。何に――網田さんの恐怖にゆがんだ顔が思い出される。自分もあのような顔をするだけのものを垣間見てしまうのではないか。
そう考えると鳥肌が立ってくる。窓の外へと目を向けると、涼しくなり始めた九月の空をカラスが飛んでいた。そいつから発せられた鳴き声は不気味に響き、より一層恐怖は増した。
「よし」
僕はスマホを手に取る。SNSで連絡しようかとも思ったけどやめた。何となく、声を聴いた方が安心できるような気がした。
電話帳を開き、『福路先輩』をタップ。
三回のコール音ののちに、ガチャリと音がした。どうしたの、という声に僕は。
「今からお邪魔してもいいですか」
スピーカー越しに息を飲む声が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます