第4話 最悪な第一印象
「あ、ありがとうございます」
男子に礼を言った。しかし、その男子は、どういたしまして、とも、身体は大丈夫か、とも言わず、
不良たちが逃げていってから、1分もしないうちにパトカーが来る。
男子は、不良たちの身体的特徴、服装や
アタシは恐怖のあまり、車のナンバーを覚える意識が働かなかった。そもそも、記憶力が壊滅的だから、覚えることすらできないだろうけど。
さらには、「これ、通報してからにはなりますが、不良たちの音声です」と録音データを聞かせていた。
本来なら、被害者であるアタシたちがいろいろと事情聴取されると思うのだが、それが不要なくらいに、この男子は必要な情報を提供している。アタシは正直なところ、この男子にめちゃめちゃ感心していた。アタシは、思い出すだけでも身がすくむほど怖かった。警察の事情聴取を受けると、恐怖がぶり返される。この男子は、配慮してかすべて自分で対応することで、恐怖からアタシを守っているのだ。
改めて、アタシと澄佳は男子に礼を言う。すると、チラリとこちらに鋭い目つきを向けた。
「特に、感謝されるようなことはしていないはずだが」
謙遜なのか。謙遜にしては、無表情で怒っているようにも見えるし、態度もどこか横柄だ。
「いや、アタシたちを助けてくれたじゃないですか」
「助けた、か。結果的にはそう捉えられてもやむ無しだが、小生は自らにある道義心に従ったまで。なので、君たちがあの男たちから開放されたのは結果であって、動機そのものではない」
一人称が『小生』の人なんて漫画でしか見たことがない。格好を付けているのか分からないが、男子高校生が使うようなものではない。話し方も妙に大人ぶっている。正義感は強いのだろうが、変わり者には違いない。
「よく分からない……。とにかくサンキュって言ってんの。感謝してるんだから、素直に受け止めなよ!」
「だから、その感謝をされるような行動はとっていないと言っている。あと、1つ忠告がある。いまのような
「な!?」
この男子の言っていることは分かりづらかったが、『派手な化粧』という言葉が聞き取れて、バカにされていることは分かった。当然、イラッとする。
「何なの!? 感謝したと思ったら、素直に受け取ればいいじゃないの? それに、メイクをバカにしないでくれる。アタシだって自分磨きに頑張ってるんだから! それに、伝えたいことがあるなら、分かりにくい変な言葉使わないでよ!」
「こんな初歩的な言葉も理解できないなど、
「はぁん!?」
その瞬間、感謝の気持ちなんて綺麗さっぱりなくなった。いくら助けたからと言って、見ず知らずの異性にこんなデリカシーのない言葉をかけられる筋合いはない。
「り、璃乃、もうやめよ。この人と絡むの」
隣にいた澄佳がアタシを止めた。澄佳がいなかったら、食ってかかっていたかもしれない。
こんないかにも勉強しか取り柄のなさそうな、冴えない見た目の男子にバカにされて、アタシの怒りは収まらないが、澄佳の言うとおりだ。絡むだけ労力の無駄だ。
「あんた、そんな歪んだ性格じゃ、誰にも見向きもされないよ!」
捨て台詞のように忠告をひとつ男子にぶつけて、ようやく改札を通った。
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