白狼の少女の生きる理由

第28話 二つ目の街

 僕たちが山を下り、村を抜けると馬車の中でダラスが昼寝をしていた。どうやら僕らが帰るまでずっとこの場から離れないでてくれたようで、中の備品の状態は僕らが旅立った時のママになっていた。ただ・・・




「遅かったな」




「すいません」




「まあいい」




 ダラスは一瞬目を開けたが、会話が終わるとまた目を閉じて昼寝を再開した。僕とウーは手分けして積み荷を確認している間に、チマとポタはチセ用の寝具を制作していた。




「ご主人様、大変です」




「どうしたの」




 ウーが血相を変えて僕のところに、そんな彼女に連れられ彼女が担当していた積み荷の場所に向かうと、そこには空になった箱がいくつか置いてあった。




「えっとこれは」




「はい、どうやら私たちが山で過ごしている間に、ダラスがすべての食料を食べつくしてしまった様で」




「まあ、仕方ないよね」




 元々そんなに多いわけではなかったし、きちんと数えていたわけではないが、僕たちはかなり長い間あの山で過ごしていた。その間ずっとこの馬車を守ってくれた人に対して文句など言えるわけがない。




 しかし困ったことになった。目のまえの村である程度の調達はできるが、そうすると今度はお金が足りなくなりそうだ。どうにか近くに街がないものかと思ったが、あいにくここから先は神様からもらった地図にも記されていない。




 その時ダラスが僕のもとへやってきた。




「何ですか」




「確かこっから二日くらいの場所に、町があったはずだ。まずはそこに行ったらどうだ」




「なるほど、ありがとうございます」




 どうやら僕らが山にいる間、ダラス達はタダここを守っていただけではなく、周辺の調査まで行ってくれていたようで。そこから僕らは一切迷うことなく、二つ目の街ラティーまでたどり着くことが出来た。




 そこは僕が初めて入ったあの町と同等クラスの大きさを誇り、市場は活気で満ちていた。しかしあの町と同様に、ここでも虐げる側と虐げられる側がそれぞれ存在していた。しかしここは前の街よりも圧倒的に奴隷の数が多い気がする。




「いらっしゃいませ」




 そんな中僕は仕事を仲介してくれる。あっちの世界で言うところのハローワークのような場所に来ていた。どうやらここでは奴隷を使った様々な仕事があるようで、彼らの労働力を糧にこの町が成り立っているといっても過言ではないとのことだった。




だけでも皆に過度な重労働をさせるわけには行かないので、適当に畑の草むしりや館の掃除等や野獣の討伐などを受けた。幸い僕らのパーティーには元軍人がいるので、苦戦することなく依頼をこなすことが出来た。だがそれでも人数がそれなりに多いため、あまり多く貯金ができない。それでも何とか仲間たちに食事を出すことが出来るので、まあよしとすることにした。




「それにしても、このままではずっとここに足止めを喰らうことになりますね」




「そうなんだけどさ、でもみんなに重労働をさせるわけには行かないし」




「そうですね、あなたたちの医療顧問の立場から言わせてもらいますが、この町の労働基準ではおそらく一週間も持たずに過労状態になるでしょう」




 この中で唯一の人族であるチセは僕と一緒にハロワークへと赴いていたため、この町の悲惨さを僕とおなじくらい感じ取っていた。そんな彼女の意見だからこそ、僕は一切口出しできなかった。




「過労状態とは何ですか、チセ」




「簡単に言うと働きすぎですね。場合によっては死に至ります」




「それは、よくないですね。はっ、ということはご主人様は私たちを気遣って仕事を選んでいるのですか」




「まあね、皆は大事な仲間だからさ」




「なんというありがたいお言葉・・・・」




「そんな大げさな」




 現状はすこしよくなっただけで、改善には程遠い。それでも今はこの仲間たちといる時間が、場所が何よりも大切だと僕には思えた。


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