第21話 親心

「二人ともどうしたの」




「お医者様から言われたの」




「チセちゃんと遊んであげてって」




「私にはそんなことをしている暇は」




 一体どのようにしてトクシンさんが二人を呼びつけたのか定かではないが、二人が嘘をつけるようなタイプには見えないので、おそらく事実ではあるのだろう。しかし僕にはトクシンさんの狙いが見えない。




「忙しいの」




「遊べないの」




 一応今日の仕事は一通り終わっており、この後しばらくは暇ができる。普段僕は、トクシンさんとくだらない世間話をしていたり、二人はウーと一緒にいろんな話をしているが、今日はなぜかチセと遊びたいと言い出した。普段彼らは木登りや僕が教えた鬼ごっこをしたりして遊んでいることが多い。木登りはともかく、鬼ごっこは人数が増えると楽しくなる遊びだ。




「あなたからも何か言ってあげてください」




「・・・・・いいんじゃない、トクシンさんが言ってるなら」




「・・・・・わかりました。ですが商人さん」




「はい」




「師匠の容体を見ていてください。そしてなにかあったら私に知らせてくださいね」




「任せてよ」




「それじゃあ、何をしますか」




 チセはウッドデッキから降りるとチマとポタに手を引かれ中庭に行く。その様子を見届けた僕はその足でトクシンさんの部屋に向かう。軽く戸をノックすると弱々しい声でどうぞと帰ってきた。




「失礼します」




「これはこれは商人殿、どういった御用で」




「いったいどうして、二人にあんなことを」




「やはりその件でしたか」




 布団に寝そべったままゆっくりと目を開けたトクシンさんは大きく息を吸った




「私は彼女を引き取ってから、ずっと私が教えられることは全てしてきたつもりです。しかし彼女はずっとこの山にいたせいで、友達が出来ませんでした。それはとてもかわいそうじゃないですか、僕のように医術にすべてをささげてきた人間とは違い、彼女はまだまだ子供です。だからいくらでも自分の道を決められる。でもその道を一人きりで歩むことはけっしてできない。あなたなら分かりますね」




「はい」




 きっとトクシンさんは多くの友や師と出会い、そして別れて今に至る。それは僕にも言えることである。僕がこうして生きてこれたのも、あっちの世界で友に恵まれ、そしてこっちの世界では、ウーとチマとポタに出会えたから何とかここまでやってこられたように思える。それはきっとチセにも必要なものなのだ。




「だからこそせめてあなたがどんな決断をしてもいいように、今の間にあの子には子供本来のあるべき姿でいて欲しいのです。ですからあの子たちに協力をお願いしました」




「なるほど、そう言う事でしたか。でもまあ僕らとしても助かります。実は僕子供と接するのがあまりうまくなくて」




「そうですか、かなりお上手に見えましたけど」




「ご冗談を」




「冗談ではありませんよ」




 狭い部屋に弱々しい二人の笑い声が響く。それは息苦しさと皮肉を孕んでいた。




「今日はありがとうございました」




「いえいえこちらこそ、暇な病人には、いい時間潰しになりましたよ」




 話を終え、僕がこの部屋を出ようとすると改めてトクシンさんに引き留められた




「明日はチセをここに連れてきてもらえませんか」




「あの子をですか」




「まあまあ師弟どうしてで、積もる話もありますし」




「分かりました」




 今度こそ僕はこの部屋を後にし戸を閉めた。


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