第16話 お手伝い

翌日から僕らはここに滞在させてもらう代わりに、医師とチサの手伝いをすることにした。チサの話曰く医師の名はトクシンというらしく、かなり前からここに住み着き特別な医療を施しているとのことだった。その医療行為はあまりに奇怪すぎるため、その存在を知っている人間はそう多くはないそうだ。そんな話を山で食材を集めながら僕らは聞かせてもらった。




 慣れない山での作業は普段以上に疲労を伴う物だったが、僕とチサそれにチマとポタも手伝ってくれたおかげで思いのほか早く終わった。診療所に戻ってすぐチマとポタは山菜の入った籠を置くとまっすぐにウーのいる部屋へと向かった。




 あまり無理をさせてはいけないので僕は慌てて止めようとするが、出遅れ過ぎた僕の足では二人に追いつけず僕が追い付いた時には大広間の扉は開けはなたれ、ウッドデッキの下には二人の靴が投げられていた。




「ウーお姉ちゃん大丈夫? 」




「大丈夫? 」




「私は大丈夫ですよ、それよりも二人とも今日は山菜を取りに行くのでは? 」




「ばっちりお仕事終わったよ、あとで食べさせてあげるね」




「大量~」




「それは楽しみですね」




 どうやら医師から処方された鎮痛剤が利いているようでウーはその顔を一切歪ませることなく彼女のために働いた二人をいたわっていた。その姿は一見すると親子のようにも見えるが、僕的にはそれよりも仲の良い姉妹という言葉を当てはめた方が納得がいった。その様子を微笑ましく見ていると僕の背中をつつく者がいた。




「あのすいませんが、籠を中に運ぶのを手伝ってくれませんか、流石に私一人で四人分は・・・」




「ああ、すいません。今行きます」




 チサに呼ばれ僕はできるだけ音がしないように戸を閉めると、置いてあった籠を背負うとともに両手に持つ。




「いえ、二つ持っていただければ十分ですので」




「いえいえお世話になってるんですからこれくらいしないと」




 チサは一瞬目をギョッとさせたが、すぐに僕を台所に案内してくれた。荷降ろしを終えると今度は薪割りを頼まれた。一応神様バフのおかげでこれもスムーズにこなすことが出来た。しかしいつまでたっても二人が大広間から出てこないことが少々気になった。




 処方された鎮痛剤だっていつまでも利き続けるわけではないため、あまりウーに無理をさせるわけには行かないのだが、果たして二人がそのことを理解しているのか、いささか不安である。




「あなたって変わってますよね」




 突然チセに話しかけられたことで思わず斧を空振りしそうになるが何とか食い止めた。




「そうかな」




「あなたって一応奴隷商人ですよね。服に紋章がついてましたから」




 ここに来てから正体を一切隠さずに生活していたので、いつかはばれると思っていたのでチセの質問に対しあまり動揺はなかった。




「うん、一応ねいろいろとあってね」




「やはりそうだったんですね、昔先生が教えてくれたのでもしかしてって思ったんですが」




 彼女は次の木を台に置いた。




「それで、僕が他の人と比べて変わってるって言うのはどういうことなのかな」




「だって今大広間にいる人、あなたの奴隷ですよね。そうでなければここに獣人がいるなんてありえませんから」




「そうだよ、まあ一応そういうことにしてるってだけだけどね」




「それがおかしいんです。あなたは本の中の人たちとは全く違う。あれではまるで旅の仲間じゃないですか」




「そうだよ」




 僕にとってあの三人、と一応ダラスも仲間であると思っている。そこに種族がどうのこうのということは僕は考えないようにしていた。きっとそれは他の奴隷商人たちから、あるいはこの世界の常識からすると異質なのかもしれない。それでも僕はこの在り方をまだ疑ったことはない。




「ウーもチマもポタも、あともう一人いるんだけど。皆僕にとっては大切な仲間だよ。だから必ず故郷に送り届ける。僕がしているのはそういう旅なんだ。もちろんその先もあるんだけどね」




 僕の話を一通り聞いてチセはぽかんとしたが、すぐに興味が失せたのかまた木を置き始めた。その時後ろの戸が開き二人が飛び出してきた。




「ご主人様お手伝いする」




「手伝う~」




「おう頼んだ。ところでウーは」




「寝ちゃいました」




「そっか、ならいいや」




 前にやったことがあるのか、割れた薪を見るや否やチマとポタはひもでくくりだした。このままいけばどうやら日が落ちるよりも前に今日のお手伝いは終わりそうだなと一人僕は思っていた。


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