第15話 二人の夢
「ウー大丈夫なのかい」
「はい、おかげさまで痛みはありません。ですがまだ自由には動けそうにないですね」
あれほどの怪我を乗り越えたばかりだというのにウーの顔はどこか清々しく、落ち着いていた。彼女のそんな顔を見ていると途端に心の奥にしまっていたはずの罪悪感が顔を出し始めた。
「すまない、本当に生きててよかった」
僕は一応彼女たちの主人になったはずなのに、ダラスに捕らえられたあの時足がすくんで何もできなかった。神様にバフをもらっているため、常人よりかはある程度身体能力が優れているはずなのに、それでも心だけは地球にいた時のままだった。
夢ばかり大きくてそのくせ力はなく臆病だ。それはダラスも愛想をつかしたような態度を取り続けるわけだ。今になって山の中で言われた彼女の言葉の意味を、このボロボロのウーの姿を見て理解した気がする。
彼女をここまで傷つけたのは僕だ。・・・・
もしあの場で彼女が死んでいたら、きっと僕は彼女の家族に合わせる顔がないだろう。
「本当は僕が、戦わなくちゃいけなかったんだ。でも僕は僕は・・・・ 」
ついに僕はみっともなく彼女の前で泣き崩れてしまった。僕は誰かに守ってもらう価値のある人間ではない。そんな感情に押しつぶされていた。
「ご主人様、もう少しこちらに来ていただけませんか」
僕は言われるがまま彼女のもとへと歩みを進める、そして彼女の横に座った。
「お手をこちらに」
そう言って彼女は布団から片手を出した。僕はその手に自身の手を重ねる。ウーは僕の手を挟み込むように自らの手を重ねる。
「私たちが出会って初めての夜の事覚えていらっしゃいますか」
忘れるはずはない。僕の夢はそこから始まったのだ。
「ご主人様のお話を聞いて私はたいへん胸が躍りました。もしこのお方のいう世界が現実になったらなんて素敵なことだろうと、そして私はあなた様についていくと決めました」
「最初はこの人は私がいなくてもそのような理想郷が作れる方なのだと思っていました。だからご主人様さえ生きていれば、私の思いは次の人にきっと受け継がれる。だから最悪ここで死んでも構わないと思いました。もちろんチマやポタのことは心配ですが、あの子たちは賢いのでご主人様と一緒ならきっと故郷にたどり着けると思っています」
「ですが、違いました。あの理想郷はご主人様だけの目標じゃない。私、いいえ私達の目標だったんだって今なら理解できます。だからまだ私は死んではいけないのだと、一体何年、何十年先になるかわかりません。でもいつかご主人様の夢の果てを見るまで忠義を尽くす。それがあの場所で命を救われた私の使命なのだと、今では思います、なのでご主人様」
私はずっとあなたのおそばにおります。
僕を包んでくれた彼女の弱々しく震える腕は、その温もりをもって自分自身を責める僕を許してくれた気がした。そんな彼女の優しさに僕はただ泣くことしかできなかった。
「さあ、今夜はここまでにいたしましょう。お恥ずかしい話私も少々疲れてしまいました。なのでそろそろお休みをいただきたいのですが、よろしいでしょうか」
「そうだね、ごめんね体痛いはずなのに」
「いえいえ、これくらい問題ございません」
「あまり無理はしないでね」
「承知しております」
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
彼女のいる部屋を出た時僕の心は少し軽くなっていた。そのせいで危うくチマとポタを寝床に運ぶのを忘れそうになるが何とか踏みとどまり、二人を抱えてチサの案内に従い用意された寝床に横になる。
途中でダラスが帰ったことを知らなかったようで布団が一つ余分にあったが、片付けずに残しておいてもらうことにした。もしウーが回復したらこれまで一緒に居られなかった分より多くの時間を二人のために使ってもらうためにそうするべきだと判断した。
「彼女なんとか大丈夫そうですね」
僕らの部屋を後にする前にチサはそう言った。
「はいおかげさまで」
「それはよかったですね」
「ありがとうございます」
「いいえ、これも仕事ですから。それでは」
その言葉を最後にチサは部屋の戸を静かに閉めた。いろいろと気になるのでもう少し起きていたかったが、流石にここまで登ってきた疲れが一気に体から出てきたため、無駄な抵抗はせず僕は眠りに就いた。
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