第12話 山登り

翌朝、ウーの全身を布で包み彼女が獣人であるとばれないようして担架に乗せる。一方のダラスは自主的にヘルムを被り頭の角を隠した。そしてなぜかついていくと言ってきかなかったチマとポタに全身を覆えるほどのマントを着せ、僕らは町に入った。




 夜が明けてすぐに出発したこともあり、住人の大半はまだベッドの中にいるようで、昨日のような活気はない。時折畑仕事をしている人と出会うが彼らは僕らよりも目の前の田畑に集中しているようで、挨拶の一つも交わすことなく黙々と作業をこなしていた。そして町の中をしばらく歩いていると、前日に教えてもらった山道の入り口へ着いた。




「皆行くよ」




「はい」




「行きます」




「・・・・・」




 一応最後の同意を得た僕らは山道へと足を踏み出そうとしたとき




「ちょっと君たち」




 後ろからいきなり声をかけられ、思わず踏みだした足を元に戻す。




「その先は一応村の所有する土地だから、勝手に入られると困るんだけど」




 僕は恐る恐る振り返る。




「驚かせてしまいすいません。ですが我々はけっしてやましいものではありません。ただこの怪我人を山の上にいるお医者様に見てもらおうと思っているだけです。用が済めばすぐに立ち去ります」




 僕の横でダラスが拳を握り今にも襲い掛かろうとしているのを制止しながら、僕は恐る恐る言葉を紡ぐ。もしこのことがばれたら、僕はきっと軽い罰で済むが、他の皆はそうはいかない。最悪の場合僕のもとから離れていってしまう事にもなりかねない。そうなってはいけないのだ。これは誰一人として欠けてはいけない旅なのだ。




「でもどんな人か誰も知らないんだ。だからあんまりお勧めできないよ」




「それは分かっているのですが、でも容体は急を要するので。もはや我々に選り好みしている余裕はないんです」




「そっか」




 もうこれ以上僕らに開示できる情報はない。それにここで足踏みをしている場合でもない。なのでできるだけ急いでここを抜けたいのだが、それにそろそろダラスの我慢も限界を超えようとしていた。




「それは引き留めて悪かったね。気を付けていくといい」




「ありがとうございます」




 そう言って男性は踵を返して僕らのもとを去った。こうして何とか危機を乗り切った僕らは改めて山に向けて一歩を踏み出した。




 山道は確かに険しいが断崖絶壁というわけではなく、蛇のように蛇行した坂がどこまでも続いていた。そのおかげでここまでウーを安全に運ぶことが出来ていた。一方のダラスというと山に入ってから再びだんまりを貫いていた。文句を言わずについてきてくれることは大変頼もしいのだが、それでもコミュニケーションのたびにいつも緊張してしまう。それでも僕はもっと彼女について知らなければならないのだ。




「ねえ、ダラスさんはどうしてついてきてくれたんですか」




 僕の問いに対しダラスはすこし考えているような視線の動きを見せた後その口を開いた。




「こいつは強い、だから死ぬには惜しい。だが私は怪我は治せない。だからそのために今山を登ってんだろ」




「そっかありがとう」




「だがお前は弱い。だから私はお前を認めない。弱い奴は何も成せない。だから私は弱者が嫌いだ」




 それは確かにそうだ。僕が神から与えられた能力はけっして戦闘向きとは言えない。誰かがいないとなんの意味もないスキル。それを活かすためには仲間との信頼が必要なのだ。それゆえに虎の威を借りる狐状態になることは避けては通れないことである。だがそれは見る人によっては卑怯者になるのだろう。




「・・・・・そうですね。でもいつかは認められるように頑張ります」




「勝手にしろ。だが私はお前の指示は聞かないぞ。私が必要だと思った時だけ力を貸してやる」




 それ以降はダラスと会話することはなかった。代わりにチマとポタは初めて登る山に興味津々のようでいろいろな植物をつつきながらまるでピクニックに来ているかのように楽しみながら進んでいる。それでもペースを乱すことがないのはきっとこの子たちもどうしてここに来ているのか理解しているためであろう。




 今はウーの状態は安定しているし、食事もとれるようになっていた。だがまだ体をすこし動かすだけでも激痛が走るため、完全回復とは程遠い。それでも今までずっと馬車の荷台を覆っている布しか見てこなかったウーにとっては山の木々はいい目の保養になったらしく、これまでよりも表情は朗らかだった。




「二人とももう少しで到着するかもしれないから、何か見えたら教えてね」




「りょうかい」




「あーい」




 一応チマとポタの二人には一応先の状況確認という任務を与えてはいる。だがそれはあくまで二人についてきてもらうための名目であったが、この先は真の意味でこの子たちの使命になった。




 時折僕らの進むペースを見ながら一定の距離を保ちつつ先行し、障害物になるであろう岩などをどけながら進んでいく。しかしそんな二人の足が傾斜を超えたあたりでピタッと止まった。




「ご主人、おうちが見える」




「ついた~」




 二人に何とか僕らが追い付いた時、目の前には一軒の木造住宅があった。

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