医者の住む山

第11話 新たな町

洞窟での戦いにかろうじて勝利を収めた僕らは新たにダラスとその仲間数人を連れて日のもとに出た。ダラス曰くここから僕たちをさらった森はそう離れていないらしく、すぐに元居た道に戻ることが出来た。




 しかしだからといって状況がもとに戻ったわけではない。仲間が増えたのはいいことだが、ウーはもう立つこともままならないほどの重傷を負ってしまっていた。かろうじて簡単な止血はできたが、切り傷は開いたままだし、骨は折れたり外れたりしている。そればかりは今いるメンバーではどうにもならなかった。唯一の幸いと言えばダラスが少量ではあるが軍で配布される痛み止めを略奪していたことだった。




 なのでそれが切れないうちに僕らはウーを医者に見せる必要があった。


「ウーお姉ちゃん大丈夫かな? 」




「大丈夫かなー? 」




「大丈夫・・・・かも」




 不安な気持ちを何とか押し殺しながら馬車を操作する僕を尻目に、これをやった張本人であるダラスはしれっと馬車の荷台に乗り込み外の景色を楽しんでいる。ウーとの戦闘の際はあんなに荒々しかったのに今の彼女からはそのかけらすら感じられない。




 しかしまだ打ち解けられていないためどこか浮いて見える。それもそのはず、僕とダラスには明確な主従関係はない。かといって代わりに僕らのつながりを上手く表す言葉があるわけでもない。だから僕の次の課題としては彼女からいかに信頼を勝ち取るか、これだと思う。




 そんなことを考えながら木一つない草原を走っていると、目の前の丘の向こうに丸太づくりの屋根が見えてきた。それは前に進むにつれどんどん家の形を成していった。




「皆、村だ。一旦ここで止まる、僕がお医者さんを探してくるからウーをお願い」




 僕は振り返って指示を出すが、僕がこの場を離れるとここに残るのはチマとポタそれにダラスだけになってしまう。そのことに全く不安がないわけではないが、僕の指示を聞いてダラスが部下にアイコンタクトを取ると部下たちは馬車を囲むように配置についてくれた。




 これでひとまずは安全が確保できたと言えるだろう。僕は馬車を降り徒歩で村に向かう。過去に見た都市に比べるとこの町はやはり小さく見えるが、それでも山の斜面に沿って切り開かれた土地の多くを占めている畑や、子どもが無邪気に走り回るのどかな光景は町で見たそれとは全く違い僕に安心感を抱かせる。




 ひとまずは最初にすれ違った男性に声をかける。




「すいません」




「おやこんなところに旅人なんて珍しいな、どうした」




「いえちょっと医者を探してまして」




「あー、お兄さん運が悪いね。一応この町に医者はいるんだけど、なかなかの変わり者でね。ずっと前にこの山の上に住み着いてからずっと降りてこないんだ。だから悪いことは言わないけど別の街に行った方がいいよ」




「そうですか・・・・ありがとうございます」




 一応彼以外にも話を聞いたが皆同じような返答しか得られなかった。仕方なく一度諦め馬車に戻る。僕がいない間もダラスの部下たちの御かげで特に問題は起こらなかったらしい。全員分の夕食を用意した後改めて薬の在庫を見るが、瓶に入った痛み止めが残り5本だけしか残っておらず、見渡すかぎり何もないこの大草原を進んでいくにはあまりにも心もとない。




 仕方がないので多少目立ってしまうが夜明けを待ってウーを布でくるんで山を登ることにした。しかしながら神様からバフをもらっているとはいえ、元々体力はかなり低い方だった僕がそんなことできるのだろうか。正直成功率は低い、だが全く策がないわけではない。




「ダラスさん、ちょっといいですか」




 食事を終え再び荷台でくつろいでいたダラスに僕は声をかける。これが彼女が僕らに同行するようになって最初の会話だということが正直嘆かわしい。




「・・・・・んだ」




「ちょっと協力して欲しいことがありまして」




 僕はダラスに今日あったこと、そして今後のことについて一通り話して聞かせた。しかしその間彼女と視線が合うことはなかった。




「・・・・・ようは私がボコったあいつを山の上にいる医者のもとまで運ぶ手伝いをすればいいんだな」




「そうです」




「はぁーー、まあいいか」




 ダラスは荷台から降りると部下たちを集め指示を出す。そしてまた荷台に戻ってきた。


「出発は日の出でいいな」




「はい」




「そうか」




 それだけ言うとダラスは荷物にもたれかかりながら瞳を閉じて動かなくなった。そして次の瞬間にはスースーと寝息を立て始めた。その姿はとてもおちついていて僕よりも頼もしく見えたが、それと同時に彼女との信頼関係が築けていないため、何を考えているのか分からないという不安も抱えていた。それでも今は彼女に頼るしかないのだ。それにもしかするとこれを機に彼女の心理も少しくらいは分かるかもしれない。ただそう信じるしかなかった。


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