第2話 異世界転生したら奴隷商人だった(中編)

 いつの間にか青い光のまばゆさに目を閉じてしまった様で、いったいどのようにして異世界まで来たのかわからないが、僕が目を開くと先ほどまであたり一面にあった空ははるか頭上まで離れていた。そして腕を動かすと河川敷に生えているような背丈の短い草の感触が伝わってくる。




 僕はゆっくり体を起こすと目の前には神様が用意してくれた馬車が止まっていた。とりあえず道のど真ん中に停めては邪魔になると思い馬を誘導して道から外れた場所に停め直す。荷台に上がってみるとそこには大小さまざまなサイズの箱があった。一つずつ中身を確認してみると、そこには確かに神様に言われた通り、食べ物にお金、衣類などの必需品と地図が入っていた。ご丁寧に現在地にバッテンが付いているためなんとか場所の確認が取れるが本当にこれがなければ異世界に来ていきなり迷子になるところだった。いったいどこで教わったのかわからないが慣れた手つきで馬車を操作し、道を走っていると前方で横転している馬車を見つけた。僕は思わず足を止め状況の確認に向かう。




「大丈夫ですか」




 僕が駆け寄ると馬車の周りを三人の女性が囲んでいた。




「ああ旅のお方どうかおねがいします。ご主人様をお助けください」




 彼女たちが指さす先には倒れた馬車の下敷きになったまま動けない中年太りの男性がいた。僕の力では到底荷物の乗った馬車を持ち上げることはできないが、かろうじて首から上には何とか触ることが出来たので僕は男性に駆け寄り、首元に手を当てる。生きている人間なら脈が通っているはずだ。




「あのもしかしてあなた様は医術をお持ちなのですか」




「いいえ、ただ多少の心得はあります」




 とは言っても僕の持ってる知識など保健体育で習った程度のことしか知らない。それでも教科書に載っている通りの手順で確認を行う。不安そうな眼差しでこちらを見つめる彼女たちのためにもできることはしてあげたい。そう僕は願っていたが事態はそううまくはいかない。




 脈はない、意識もない。息もしていない。念のためドラマで見た目を開いてみるやつもやってみたが、瞳は一切動くことはなかった。まさか異世界に来て最初に直面する事態がこれなのかと認めたくはなかったが、もう認めざるを得なかった。




 僕は立ち上がりずっとそばで見ていた三人の女性たちに向き合う。




「残念ですがあなたたちのご主人はすでに亡くなっています」




「そんな」




 三人のうち一番年上の女性が泣き崩れ、残りの二人を抱き締める。彼女たちとこの男性に一体どのような関係があるのかわからないが、きっと悪いものではないに違いない。




「ねえウー姉ちゃん、私達どうなるの」




「大丈夫よチマ、ポタ、あなたたちは私が絶対におうちに帰してあげるから」




 男性のことに集中しすぎて女性たちのことをあまり気にかけていなかったことに気が付いた。そこで僕は自らのスキル人材鑑定を起動する。起動して早々もっと早く起動すべきだったと後悔した。改めて例の男性を見ると彼のプロフィール欄にしっかりと死亡の文字が出ていた。その文字に恐怖を覚えた僕は直ぐに目を逸らし彼女たちに向き直る。




彼女たちの名前は確かにお互いが呼び合っていたようにウー、チマ、ポタとなっていた。しかし種族という欄がそれぞれ、ウーが狼人族、チマが犬人族、ポタが猫人族となっていた、そして彼女たちの頭には確かにそれぞれの特徴を表す特徴的な耳が備わっていた。そして三人ともボロボロでつぎはぎだらけの服を着ていた。


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