03 決戦 後編

レンゲラン国とカンナバル国との決戦は、レンゲラン国が先に攻撃魔導士ダガを倒したが、すぐさま剣聖エラクレスが気迫の反撃に出て、アイリンを落とした。


現状は三人対三人。パーティーの編成も俊敏性のバフも同等という、まったくの互角の状態である。


とはいえ、そもそもレベルが違うので、正確に優劣を付けるとしたら、カンナバル国側が優勢なのだが、それは決戦が始まる前からの元々の話である。


レンゲラン国としては、互角の状態で食らい付いているとも言えるし、一瞬有理になりかけただけに、互角の状態に戻されたという思いでもある。


カンナバル国:エラクレス(剣聖 lev88)、ルンメニ(戦士 lev80)、ファフィー(回復魔導士 lev70)。


レンゲラン国:テヘン(剣士 lev62)、クバル(剣士 lev60)、ダモス(回復魔導士 lev52)。




第4ターン。


再び五分の緊迫した局面で、剣聖エラクレスと対峙することになったクバルは、明らかに普段よりも体を固く強張こわばらせていた。


それを隣で見てとったテヘンが、クバルに声を掛けた。


「クバル将軍、君がエラクレスを剣聖として畏怖してしまう気持ちは分からなくはないが、それは良い結果には繋がらない」


クバルは、そんな道理を今さら言われても困る、無意識にそうなってしまうのだから…。そういった思いを表情に出した。


「僕は、ジーグ老師の指導で、何が自分の弱みで、何が自分の本当の強みかを正確に知るようになって、覚醒できた気がするんだ」


クバルは、いつゲージが溜まって飛び込んでくるか分からない相手と、そんな中でも世間話のような気楽さで話しかけてくるテヘンの顔と、何度も交互に視線を送った。


「僕が思うに、君の強みは、技の多彩さだ。その場面に応じて最適の技を冷静に選択できれば、君は最高のアタッカーになれる。それに、剣のセンスは本来、僕なんかよりも君の方がずっと上だよ」


クバルは、テヘンの顔だけをじっと見つめた。


「相手が剣聖エラクレスではなく、最初に決闘した時の僕だと思ってよ。あの時の君は、脱帽するくらい強かった」


クバルは、フッと笑った。


「ありがとう、テヘン将軍。おかげで少しは肩の力が抜けたような気がするよ」


それを聞いたテヘンは、今までのひそめていた声から、一気に相手の陣営にも聞こえるように声を張った。


「それは良かった。それに、今までの動きを見ている限り、エラクレスという剣聖も大したことはないと思う」


テヘンが相手を挑発するとは、珍しいというか、初めてだった。


当然、その声はエラクレス本人の耳にも届く。


「ほお、テヘンとかいったな。お前にオレの技を受け止める自信があるのか?」


その言葉を合図とするかのように、エラクレスのゲージが溜まった。


「では、その身でしかと確かめてみるがいい。オレの技の威力をな」


言うが早いか、エラクレスは剣を振りかぶる。


白聖超破壊ホーリーブレイク!」


白い光を帯同させた剣が、まさに光の速さでテヘンを襲う。


「僕の強みは優しさと、もう一つある。それは、臆病さだ。誰よりも臆病がゆえに、太刀筋を見切って相手の攻撃をける。その能力では、僕の方が上だ」


テヘンは振り掛かった光の剣を見事にかわした。


空を切ったエラクレスの剣が大地に突き刺さる。


「これをかわすか」


さすがのエラクレスも、驚きの声を上げた。


次いでゲージが溜まったテヘンが、反撃に移る。


エラクレスは直前の攻撃が空振りに終わり、大きくバランスを崩したところだったが、それでもテヘンは慎重に相手との距離を詰めていく。


充分距離が詰まったところで、スキルを解放した。


近接超打撃ソードストライク!」


分かっていてもかわせない。それがテヘンが持つ唯一のスキルである。


エラクレスは後ろに吹き飛び、大きなダメージを負う。


だが、さすがは剣聖。まだまだといった様子ですぐに立ち上がる。


「クバル将軍、次は君の番だよ」


言われたクバルに手番が回った。




行動権を手にしたクバルに、今までの自分に対する及び腰を見てきたエラクレスは、相手を呑んでかかった。


「お前にオレが倒せるか」


更にプレッシャーを掛けてくる。


クバルは冷静にエラクレスの様子を見た。


体力はまだ半分近く残っているように見える。


自分が持っているスキルのうち、高速突きハイパースラスト剣の舞いサーベルダンスでは、おそらく一撃で仕留めることはできない。


であれば、やはり剣撃超嵐雨ソードレインか。


いや、それは一度かわされているだけに、太刀筋も見られているし、自信がない。


ならば、一番可能性が高いのは、新スキルだ。


クバルは、剣を持っている右手と空いている左手を胸の前で合わせて、祈るようなポーズをとった。


そのまま何かを剣に念じていく。


カッと目を見開くと、エラクレスの正面から突っ込み、真上から剣を振り下ろした。


明鏡止水剣クリティカルカット!」


クバルのスキルの中では一番派手さはないが、集中力を高め、それが高まった分だけクリティカルヒットの確率が増す技だ。


エラクレスは、真正面からの斬撃に、剣を合わせて軽々防げると思っていたが、クリティカルヒットによってクバルの剣のスピードが一気に上がった。


エラクレスの剣は間に合わず、クバルのスキルが直撃した。


不殺ころさずの腕輪が発動し、エラクレスが前のめりに倒れた。


「剣聖、討ち取ったり」


クバルがガッツポーズを見せた。テヘンも笑顔で応える。ダモスが雄叫びを上げた。


同時に、この戦闘が始まって以来、最大の盛り上がりを見せるレンゲラン陣営。控えの席に戻っていたアイリンも、クバルに向けてガッツポーズを返した。


一方、まさかの事態に、カンナバル陣営は言葉をくした。


「まずいことになったわね」


回復魔導士ファフィーも意気消沈ぎみだ。


その中で一人、戦士ルンメニだけは諦めていなかった。


「敵のあのずんぐりむっくりの回復魔導士を落とせば、まだ逆転の目はある。落ち込んでいないで、オレのフォロー頼むぜ」


ファフィーを鼓舞する。


楽天的な彼は、剣聖エラクレスが倒れた今、ここから逆転勝利すればオレの株は爆上がりだ、ぐらいに思っていた。




次に行動権を得たのは、そのルンメニ。


新たなスキルを発動させる。


乾坤一擲斬フォーススラッシュ!」


自らの防御力を下げる代わりに攻撃力にバフ(数値上昇)をかけるという、言わば捨て身技である。


狙いをダモスに定め、一撃で倒しにかかる。


バフの乗った渾身の斬撃で、ダモスは特大ダメージを負ったが、ギリギリのところで体力をわずかに残した。


次に回ってきた自分のターンで、ダモスは自身の体力を回復する。


一人の体力なら完全回復できる魔法を、ダモスは習得していた。


「くそっ、魔導士とは思えない耐久力だ」


戦士ルンメニが舌打ちして悔しがった。




最後にターンが回ったファフィーは、別の補助魔法を唱えた。


レンゲラン国三人の防御力が一斉に下げられる。


「これで、同じ攻撃で今度は倒せるわよ」


ファフィーの的確な判断に、ルンメニは笑顔で大きくうなずいた。


「これは気を付けないといけないね」


「次は防御していないと、一撃でやられちまうぞ」


テヘンとクバルが、振り返ってダモスに忠告した。




第5ターン。


一番に先制したのはダモスだった。


先ほどのやり取りから防御姿勢に徹すると思われたが、ダモスは果敢に前に出て、ルンメニに対して通常攻撃を見舞った。


攻撃を受けたルンメニも含めて、そこにいる誰もが驚いた。


「おい、ダモス」


クバルが心配と呆れの入り混じった声を投げかけた。


ダモスはクバルに笑い返す。


「三人が防御力を下げられたということは、君たち二人も一撃で倒される可能性があるということだ」


クバルは、ハッとした顔になった。


「オレが防御していることが分かったら、きっとヤツは君たちのどちらかを狙う。君たちのどちらかがやられたら、状況は再び互角どころか、圧倒的不利になるだろう。だから、有利な状況の今のうちに、オレは攻撃を選んだ」


そして、巨漢のダモスが片方の口角をぐいと上げる。


「肉を切らせて骨を断つ、さ。オレはやられちまうかも知れないけど、大丈夫、君たちならルンメニを倒してくれる」




次にターンが回ったのは、戦士ルンメニ。


ダモスが自分に攻撃を仕掛けてきたということは、防御姿勢を取っていない証しだ。


「もらったな。乾坤一擲斬フォーススラッシュ!」


ルンメニは予想をたがえず、ダモスを一刀のもとに沈めた。


カンナバル陣営に歓声が響く。


これで、二人対二人となった。


次にゲージが溜まったのは、クバルだった。


クバルは、四つのスキルのうち、どれを選択するかを考えた。


ルンメニは防御力の高い戦士ではあるが、今回は既にダモスが幾分ダメージを与えている。それに、ルンメニは諸刃の剣のスキルで、自らの防御力を下げている。ここは、無理に高ダメージを狙っていく場面ではない。


今回の自分の役割は、確実にダメージを加算することだ。


クバルは、攻撃力と確実性の両面を考慮して結論を出した。


剣の舞いサーベルダンス!」


クバルのスキルによって、ルンメニのダメージが蓄積する。


次にファフィーに手番が回れば、これまでのダメージはリセットされる。テヘンに手番が回れば、ルンメニを倒す好機だ。




果たして動き出したのは、テヘンだった。


ルンメニは、わざと両手をだらりと下げて無防備な姿勢をとった。


少しでも油断を誘って、スキルをけるチャンスをうかがう。


だが、それに乗るテヘンではなかった。


一歩一歩慎重に足を前に運びながら、確実にルンメニを追い詰めていく。


そして、間合いに入った瞬間、スキルを発動させた。


近接超打撃ソードストライク!」


グフッという声と共に、ルンメニは後ろに吹き飛び、そのまま大の字に倒れた。


回復魔法を施しているのは、ファフィーではなく、カンナバル陣営の控えの魔導士だった。


カンナバル側は、これで攻撃手段を失った。


ゲージが溜まったファフィーも、両手を上げるしかなかった。


「お手上げです」


そう言って、自ら戦闘場を降りた。




レンゲラン国の勝利が決定した。


テヘンとクバルも戦闘場を降りて、こちらに歩み寄ってきた。


オレを中心に輪ができる。


「勝ちどきをあげましょう」


何もしていないアムルが、なぜか先導した。


アムルの「えい、えい」という言葉の後に、オレたちが声の限りに「おー」と応えた。


真っ青な空の下、オレたちの勝ち鬨が何度もこだました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る