14 覚醒者

アロー砦からの、タウロッソ領への魔物討伐が再開された。


その目的は二つ。


一つは、敵の本拠地を突くことによって、魔物共闘勢力に少しでも揺さぶりをかけること。

もう一つは、ジーグ老師に特訓を受けた成果を、実戦で確認することである。


こちらの戦力をわずかでも減らすわけにはいかないので、民間の兵士を動員した大規模な軍事行動ではない。


出撃するのは、第一パーティーのみである。


バランのいない新生第一パーティーは、クバル、テヘンのダブル剣士と、弓使いのアイリン、回復魔導士のダモス。


若いメンバーの四人だった。


パーティーには、圧倒的大黒柱のバランがいた頃とはまた違った、新鮮な雰囲気が漂っていた。


情熱と活気がある中に、絶えずうっすらとした緊張感がある。


リーダーのクバルが、出撃前の最終確認を行った。


「今回は、上級魔物が一匹、もしくは二匹出てくるエリアでの討伐を行う。新たに手に入れたスキルがある場合は、積極的に試していこう」


他の三人が一斉にコクリとうなずいた。




この四人のパーティーなら、上級魔物がいない魔物の群れであれば、まったく問題ない。


上級魔物がいても一匹であればピンチに陥るようなことはなかった。


その日、初めて姿を現した上級魔物はソードマンだった。


中級魔物二体と一緒の群れで登場した。




先行したテヘンが、中級魔物の一体を通常攻撃であっさり倒すと、次に手番が回ったクバルがスキルを発動させた。


剣撃超嵐雨ソードレイン


クバルは既に、高速突きハイパースラスト剣の舞いサーベルダンスという二つのスキルを習得していたが、これが新たな三つ目のスキルである。


クバルはソードマンに向かって突進すると、高らかに剣を振り上げる。


そのまま、まさしく嵐の雨のような連続の剣撃が相手を襲う。


剣の舞いサーベルダンスが華麗な技ならば、それは、有無を言わさない豪快な技だった。


ソードマンも剣技に優れた魔物だったが、為す術なく撃ち込まれ、瀕死の大ダメージを食らう。


そこに、アイリンの通常射撃が、いともたやすくとどめを刺した。


戦闘が終わると、早速ダモスがクバルに声を掛けた。


「上級魔物に一撃であれだけのダメージを与えるとは。バラン将軍をも超えているのではないか?」


「さすがね、クバル」


アイリンも夫の成長を素直に褒める。


「お見事」


最後に、テヘンが拍手をしながらたたえた。




続く戦闘では、上級魔物のシビレドラゴンが登場した。


かつての魔物管理所での戦闘では、先ほどのソードマンと共に、当時の第一パーティーを全滅に追いやった難敵である。


今回先行したダモスが、回復魔法ではない補助系の魔法を唱えた。


味方全員の敏捷性が上がる。


「おーー」という他の三人の歓声を受けて、


「オレも新しい魔法を覚えたんだ」


と、厚い胸板を張ってみせる。


敏捷性が上がってすぐにターンが回ったアイリンが、スキルを発動させる。


「私も新しいスキルをお見舞いするわ。火焔華弾射ブレイズシュート!」


シビレドラゴンに向かって真っ直ぐ放たれた矢は、命中してから花火のように火焔が広がり、敵に追加ダメージを与えた。


次に手番となったクバルが、今度は通常攻撃の袈裟斬りで、シビレドラゴンを仕留めた。


次々と新たなスキルが披露されて、パーティーのムードはおのずと盛り上がる。


「次はテヘンの番だな」


クバルがテヘンに声を掛ける。


名指しされたテヘンは、顔を赤くした。


「いや、ボクは新しいスキルを覚えていないんだ」


「そ、そうか」


クバルは嫌味なく、爽やかに笑った。




それまでより少し先に進んだ地点で、また戦闘が始まった。


今度は、二体の上級魔物が出現した。


二つの竜の頭を持つダブルヘッドドラゴンと、下半身が四つ足の魔物、上半身が騎士の姿をしたケンタウルスナイトである。


二体の上級魔物相手だが、今の第一パーティーには勢いがあった。


先行したダモスが、今回も敏捷性アップの魔法をパーティー全体にかける。


続いてクバルが、ダブルヘッドドラゴンに向けて、先ほどと同じ最新のスキルを発動させた。


剣撃超嵐雨ソードレイン!」


剣を高らかに振りかざし、今回も敵に大ダメージを与えるかと思ったが、この技は見た目の派手さと引き換えに、大振りになる短所もあった。


初めの斬撃をするりとかわされ、スキルは不発に終わる。


その反撃として、ダブルヘッドドラゴンに二回連続の噛み付き攻撃を食らい、クバルは大ダメージを受けてしまう。


前掛かりになっていたことが裏目に出て、形勢は一気に不利になった。


次に手番となったのはテヘンだった。


テヘンは、まだターンが回っていないケンタウルスナイトに向けて慎重に距離を詰めていき、スキルを発動させた。


近接超打撃ソードストライク!」


テヘンが唯一持っている、今までと変わらないスキルだったが、その威力は以前よりはるかに増していた。


衝撃波をまともに受けたケンタウルスナイトは、断末魔の悲鳴を残すと、黒い煙となって消え去った。


「まさか、上級魔物を一撃?」


それをの当たりにした他の三人は、歓声よりも驚きの声を漏らした。


最後に行動権を得たアイリンは、攻撃ではなく、道具の回復薬を使ってクバルの体力を回復することを選んだ。




第二ターン。


誰よりも先にターンが回ったテヘンは、回避能力の高いダブルヘッドドラゴンに対して、先ほどよりも更に慎重に歩を詰めた。


そして、相手が決して避けられない間合いに入った瞬間、スキルを発動させる。


近接超打撃ソードストライク!」


今回も一撃だった。


ダブルヘッドドラゴンは、二つの頭で同時に悲鳴をあげると、跡形もなく姿を消した。


「テヘン、凄いな」


クバルがテヘンの顔をまじまじと見つめた。




その後、数日間続いた魔物討伐戦でも、テヘンのスキルは、ほぼ毎回、上級魔物を一撃で仕留めた。


上級魔物を倒せば倒すほど、レベルはぐんぐん上がり、生前のバラン将軍をしのぐレベル60に到達した。


かつて一騎打ちで負けたクバルにも、「今はテヘンの方が強い」と言わしめるまでになった。


優しすぎるところが足かせになっていると思われたテヘンだったが、ジーグ老師の指導のもと、その優しさが実は自分の強みであることを知り、彼の強さが覚醒したのである。




バラン亡き後、将軍空位だった我が国に、若き二人の将軍が誕生した。


テヘンとクバルである。


爵位授与の式典で、初めに名前が呼ばれたのはテヘンだった。


それは同じ将軍位だが、テヘンの方が上位であることを意味している。


また、かつてバラン将軍がいたオレの隣の部屋、つまり第一パーティー筆頭の部屋に、テヘンが住むことが正式に決定した。




式典が終わった後、アムルがテヘンのもとに駆け付けた。


「テヘン将軍、テヘン将軍」


アムルは何度もそう呼んだ。


前は冗談で言っていたのが、本気で呼べる時が遂に来たのだ。


アムルの目はもうぐじゅぐじゅだった。


何度も呼びかけられたテヘンは照れながらも、アムルを強く抱き締めた。


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