04 新たな面々
レンゲラン国に新しく加入したジョブ持ちのうち、即戦力になったのは三名だった。
剣士のクバル、弓使いのアイリン、回復魔導士のダモスである。
弓使い以外は、職種がいわゆる「かぶった」形になった。
剣士 クバル 24歳 レベル25
同じ剣士テヘンと同郷のカンナバル出身。歳はテヘンより1歳下。
だが、レベルはテヘンよりも3つ上である。
バランの報告によれば、剣の腕もセンスがあり、流れるような剣さばきを見せるという。
そして、行き会った者がほぼ例外なく思うほどのイケメンだった。
シュッとした体躯に着用している白亜の鎧には、ライトブルーの流線模様があしらわれている。
剣を振り下ろして、さらりとした銀髪が風に揺れた日には、黄色い歓声が鳴り止まないことだろう。
まあ、幸いにもと言うか、現時点の我が国には若い女子がそれほどいないので、その心配はまだないが…。
一つバランが懸念していたのは、クバル自身も自分の剣術にはある程度自信を持っていて、己の剣の腕に頼りすぎるきらいがあるということだった。
いずれにしても、同種同郷のテヘンにとっては、強力なライバルが急遽出現といったところだろうか。
弓使い アイリン 22歳 レベル24
彼女は、元々レンゲラン国の出身で、魔王デスゲイロの侵略の際に、家族で隣国カンナバルに避難した。
カンナバル国内の模擬戦や、レンゲラン、タウロッソの比較的浅い場所で、魔物討伐パーティーに参加してレベルを上げてきたらしい。
普通、隊列の後方は、敵からの物理攻撃の頻度と威力が軽減される代わりに、こちらの物理攻撃の威力も落ちる。
だが弓使いは、後方にいても前線と変わらない攻撃力で、敵を攻撃できるのが特徴だ。
前線2枚でしっかり相手の物理攻撃を受け止められるパーティーでの相性が良く、隊列の3番手として力を発揮する職種である。
アイリンも目鼻立ちが整った顔をしており、いわゆる美人さんである。
切れ長の目で、肌は日焼け気味、はきはきと喋り行動的なので、かわいい、癒し系、色白のルイとは、正反対のタイプと言っていい。
回復魔導士 ダモス 23歳 レベル15
出身は、自然豊かな内陸国のハルホルム。
回復魔導士というと、ルイのような癒し系女子をイメージするが、彼は山のような体格の男である。
どう見ても、盾系の戦士か武闘家にしか見えないが、これで回復系の魔法を専門とするのだから、ギャップが激しい。
顔面偏差値の高い先の二人と比べてはいけないが、かなりいかつい風貌をしている。
レベルはルイとほぼ同等で低めだが、やはり回復魔法を使えるというのは、それだけで戦力だ。
しかも彼の場合、その恵まれた?持て余している?体型から、普通の魔導士では装備できない戦士系の防具もある程度身に着けられるようで、防御力の高い回復魔導士というのが売りである。
こうして新戦力も味方になり、オレはホクホクしていた。
そんなオレの執務室に、初めてキジが出向いて来た。今まで必要最低限の時しか自分の部屋から姿を現さなかったキジにしては、珍しい行為である。
キジが机を挟んで、オレの正面に立った。
軍師に任じられてからは、さすがに新調した衣服を身にまとっている。
「王様、本日は提案があって参りました」
ほう、自ら献策に来るとは、たまには軍師らしいこともするではないか、と心の中で思ったが、上機嫌な表情を崩すことなく声を掛けた。
「それは嬉しい。早速聞こう」
「ようやくこの国も人材が増えてきましたので、この辺りで序列の基準を明確化しておいた方が良いと思います」
「と言うと?」
「この城の三階の部屋を誰が使えるのか、ということです」
三階の部屋は、以前アムルも口にしていたが、この国の中心を担う者が住む、言わばステータスの象徴のようになっている。
それを今までは空いているからという理由で、オレの裁量で自由に使わせてきた。そこをこの機にルール化すべきだという話のようだ。
「現状で考えますと、王様、軍略面トップの私、内政面トップのアムル、軍事面では、第一パーティーを担う四人が良いのではないかと考えます」
「三階には10の部屋がある。それだと3つ空くが…」
「はい。そこは来賓用、もしくは今後ふさわしい者が現れた時のために空けておきます」
ふむう。オレとしては、できればそのような物は設けずに、皆で和気あいあいと進んでいきたいのだが…。
組織が大きくなると、どうしてもそういった物が必要になるのだろうか?
人間関係がギスギスしないか心配である。
第一パーティーということは、ジョブ持ちの中でも明確に順位を付けるということか。
「第一パーティーの選定は、私が素案を立て、王様が決裁するというのはいかがでしょう?」
オレが今一つ浮かない顔をしているのを察したキジは、言葉を重ねて説得に入った。
「王様がそのようなことが好きではないことは、これまでの状況を見れば分かります。ですが、これは、今後無駄な問題を引き起こさないために行うのです。それに、第一パーティーという明確な目標があれば、皆それを目指して、切磋琢磨し合うというものです」
確かに現代でも、スポーツや勝負を争う世界では、一軍・二軍、レギュラー・控えといった区別は必ずある。そして皆、一軍やレギュラーを目指して頑張るからこそ、チーム全体のレベルも上がっていくものだ。
オレは小さく頷いて、キジに同意を示した。
キジもうんうんと頷いてから、
「では、第一パーティーの私の素案は…」と言って、四人の名前を挙げた。
「バラン、クバル、アイリン、ルイです」
一つのパーティーに同じ職種を二人入れても構わないが、やはり剣士枠と回復魔導士枠に一人ずつ入れた方が、パーティーとしてのバランスは良さそうだ。
そうなると、テヘンとクバルのどちらか、ルイとダモスのどちらかを選ぶことになる。
キジが選択の理由を述べた。
「まず剣士枠ですが、テヘンよりもクバルの方がレベルが高く、剣の腕前も上と見ました。テヘンがクバルを上回っている要素は見当たりません。
続いて、回復魔導士枠ですが、レベルは同等。防御力はダモスが上ですが、回復魔法の他に、ルイがステータス異常解除の魔法を覚えたことを評価しました」
ルイが選ばれたことに異議はない。問題は、剣士枠だ。そこがテヘンでないことが、どうしても気になる。
石板の着信音が鳴った。
第一パーティーの一人として、どちらを選びますか?
①テヘン ②クバル
制限時間:10分
能力の面でクバルの方が一枚上というのは、バランの報告からも、キジが認めていることからも、おそらく間違いのないことだろう。だが、テヘンもダンジョン戦などを経て、戦闘の立ち回りも上達しているし、大きな差はないのではないか。
そうであれば、やはりテヘンのこれまでの功績を評価してやるべきだ。
だが、これはオレが情に流されているということなのだろうか?
これまでの功績は関係なく、少しでも能力の高い者を評価すべきなのか?
分からない。
人は感情が絡むと、途端に判断力が鈍る生き物らしい。
今回は、特に自分の判断に自信が持てない。
時間だけが過ぎていった。
残り1分
オレはようやく決断した。
「剣士枠だが、二人の能力に大差はないと思う。よって、これまでの働きを評価して、テヘンとしたい」
そう言って、①のテヘンをタップした。
キジは少し驚いた目でオレを見た。
「王様、情に負けては正しい判断はできませぬぞ」
やや厳しい口調で言った。
「王様の判断であれば、それに従いますが、クバルが黙っていますまい。何か面倒が起こらなければ良いのですが」
「だが、それを言ったら、選ばれなかった者は誰でも不満を漏らすことになるではないか」
「それはそうですが…」
その時、執務室の扉を叩く音が聞こえた。
「入れ」
というオレの声の後に入室してきたのは、クバルだった。
クバルはツカツカとこちらに歩いて来ると、キジに軽く一礼して、キジの横に並んだ。
「王様、本日はお願いしたい儀があって参りました」
「何か?」
「第一パーティー加入の権利を賭けて、テヘンと勝負させてください」
決闘で優劣を決めようと言うのか。
オレはキジの顔を見た。
キジはわずかに肩をすぼめながら、クバルの方に向き直った。
「テヘンが第一パーティーでは納得がいかない、ということですな? 正々堂々の勝負で白黒つけたいということであれば、我々に反対する手はないと思いますが」
そう言って、オレの方に視線を投げた。
オレは、「テヘンが受けるのであれば認めよう」と言うしかなかった。
それを聞いたテヘンは、かなり気乗りしなかったようだが、「王様がそうおっしゃるなら」と受け入れた。
こうして、テヘンとクバルの一騎打ちが、三日後に決定した。
その日の夕刻。もう一つの選択があった。
石板が着信の水色のランプを点滅させた。
ログインボーナス。どちらかのアイテムが手に入ります。
①龍の実 ②鳳凰の実
制限時間:1時間
※次のログインボーナスは30日後です。
久しぶりのアイテムゲットのボーナスだ。
ネーミング的には、何かのステータスをアップさせるための物だろうか。
だが、いかんせん、今回も何の効果があるのか、さっぱり分からない。
前回の虎の紋章は、ダンジョン戦で最後の切り札として効果を発揮したが、事前にその効果が分かっていれば、もっと楽にラスボスを攻略できていた。
なんとかアイテムの効果を事前に知る方法はないものだろうか。
しかしながら、今のオレは、テヘン対クバルの一騎打ちが気になって、それどころではなかった。
とりあえず、指運で①の龍の実を手に入れた。
それから三日間、オレは何をしていても手に付かない、心がざわざわする数日を送ることになった。
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