14 白銀の洞窟 中編
二階フロアボス:古代樹の化身
現れたのは、巨大な人面樹だった。人面を
一階の四本腕の骸骨は、攻撃力特化で守備力は高くないように見えたが、今度の敵は太い幹でずっしりと構えて、守備力も体力もあるようだった。
これは、長丁場の戦いになるかも知れない。
先制は安定のバラン。
続いて、テヘンも物理攻撃を与える。
古代樹の化身は、余裕の笑みを浮かべながら、茂った枝の一つを大きくしならせて、テヘンに向かって叩きつけた。
テヘンは少しよろめいたが、体力を半分以上残して耐えた。
オレが、回復薬1つを使って、ほぼ全快まで回復する。
守備にもバランスをとったせいか、どうも骸骨ほどの怖さがない。
このままお互い物理攻撃で体力を削り合っていけば、こちらに回復の手段がある以上、それほど危険な目に遭わずに、今回は勝てそうだ。
次のターンも、バランとテヘンが確実に通常攻撃をヒットさせ、古代樹の手番となった。
さあ来い。お前がダメージを与えても、オレかルイが回復する。その繰り返しだ。
どこの枝を伸ばしくるかと見ていると、古代樹はやおら、炎の全体魔法を唱えた。
こいつ、魔法が使えるのか。
ゴウゴウとうなり声をあげる巨大な炎の柱が、先頭のバランから順にダメージを与えていく。
ルイは魔導士で魔法への耐性が強いらしく、それほどダメージを受けていないように見えた。
そして、オレの番。
オレは大ダメージを受けて、瀕死状態になった。
「王様ーーー」
ルイの悲痛な叫びが、洞窟内にこだまする。
薄れゆく意識の中で思った。
しまった。この鎧、炎属性による被ダメージが2倍だった…。
ルイが魔法でオレの体力を半分以上回復させ、正気を取り戻したオレが、自らに回復薬を使い全快させた。
くそー、油断したぜ。
ちょろいフロアボスかと思ったが、物理攻撃と魔法攻撃の二刀流か。
まあ、次が物理攻撃なら問題ない。今度は回復をルイに任せて、オレも攻撃をお見舞いしてやろうか。
だが、古代樹の化身は、知性が高い魔物のようだった。
効く攻撃を見極めたようで、今度も炎の全体魔法を仕掛けてきた。
さっきの勢いもむなしく、オレはすぐまた、ヘナヘナバタンとなった。
「王様ー」
ルイの今度の叫びは、悲痛というよりは、
先程と同じように、ルイの魔法とオレの回復薬を使用する。
更に、バランとテヘンも炎攻撃によるダメージを負っていたので、回復する必要があった。
1ターンに同じ道具なら複数個の使用は出来るので、更に回復薬2個を消費して二人のダメージを回復した。
だがこれで、マズいことになった。オレの手持ちの回復薬は、残り1個になってしまった。
戦闘中の道具の受け渡しや、装備の脱着は出来ない。
オレが回復薬を使い切ったら、後はそれぞれが持っている回復薬を、自分のターンを消費して使わなければならない。
その分、攻撃が遅れることになる。
オレの鎧の装備がここでは完全に裏目に出た。あの選択は間違いだったか。
皆の足を引っ張ってしまっている罪悪感に、居たたまれない。
本当ならバランのスキルは温存したかったが、バランは
凄まじい勢いで古代樹の巨体を押し込んで斬り付けたが、古代樹の化身はまだ生きていた。瀕死状態にもなっていない。
バランのスキルを後一回発動すれば、さすがに倒せるだろうか?
その後は、古代樹が炎魔法を唱え、オレとルイが回復する一連のやり取り。
ルイはもはや、声も出さずに無言でオレの回復作業を行った。
と、そのターンの最後に、テヘンが思わぬ行動に出た。
攻撃ではなく、自分の回復薬を使って、バランを回復させたのである。
「ん?」
回復を受けたバランも、思わぬ声を出した。
バランとテヘンの魔法への耐性はほぼ同じなので、ほぼ同等のダメージを受ける。だが、レベルが高い分、バランの方が体力の値が大きい。
だから、回復させるにしても、本来なら体力の少ないテヘンの方であるべきだ。
皆が自分に視線を向けたことに気付いたようで、テヘンは照れた。
「なに、バラン将軍に保険をかけたのですよ。もし次のターンで古代樹を倒せなかった場合、バラン将軍の体力が残りわずかになっていたら、パーティーとして極めて危険な状態になります。それを事前に防いだのです」
「だが、お前の体力は大丈夫なのか?」
バランの問いに、テヘンは小さく笑った。
「あと1ターンは持ちますよ。たぶん」
そう言ったって、与ダメージにも被ダメージにも、ある程度のランダム要素はある。体力的に常に安全圏に居たいと思うのが人情というものだろう。
皆が黙り込んだのを、テヘンが笑って払拭した。
「嫌だなあ。私は何も自殺行為をしているわけではないんです。次のターンでバラン将軍が先行してフロアボスを倒してくれる可能性が高い。でも、万一の時のために、最善の手を打っただけです」
次のターン。一体誰が先に動き出すのか、皆ギリギリした気持ちで待った。
バランは、早く我が体動けよ、とばかりに前のめりに体重をかけていく。
次の瞬間。
愛馬ロークの脚が動いた。
バランは今までに聞いたことのないような雄叫びをあげて突っ込んだ。
「うおおおーー、
スキルの発動と共に、古代樹の巨体を粉砕して仕留めた。
結果、
バラン 騎士 レベル51 スキル使用可能回数2回
テヘン 剣士 レベル17 スキル使用可能回数1回
ルイ 回復魔導士 レベル13 魔法使用可能回数4回
王様 道具使い(自称) レベル無し スキル無し
ルイのレベルが1つ上がった。
ここで、半分以下に削れていたテヘンの体力を、回復薬1つで回復した。
よって、残る道具は、
回復薬 10
消麻痺薬 4
万能薬 1
石板 1
虎の紋章 1
という状態で、地下三階に向かうこととなった。
ところが、通路を抜けて地下三階に到達した途端、問題が発生した。
洞窟の天井が急に低くなり、バランが騎乗のまま進めなくなったのである。
やむを得ず、ロークをそこに置いていくことになった。
気になるのは、バランのスキル発動である。
人馬一体となった
だが、威力は少し劣るが、自分一人で繰り出せるスキルが別にあるという。
それを聞いて一安心。優秀なアタッカーだ。
三階の敵は、攻撃力・防御力ともに、安定して高かった。
とりわけ苦戦したのが、サーベルタイガー。
敏捷性も併せ持つこの魔物は、馬を失って俊敏性が落ちたバランよりも先行することがあり、体力を削られた。
オレは、前半だけで回復薬4個を消費することを余儀なくされた。
そして、距離的にはここから後半だろうという所で、もう1つの問題が追い打ちをかけた。
目の前の立派な石柱に、文字が刻まれている。
読むと、
ここから先しばらく、道具使用禁止領域。
とあった。
いやいやいやいや、それは酷い仕打ちですよ。
道具が使えない道具使いなんて…。
泳げない水泳選手、山に登らない登山家に等しい。
チャーシューの無いチャーシュー麺と言っても良い。
存在意義の根幹に関わる問題だ。
時間が許すなら、オレはそこで延々と文句を言い続けていたことだろう。
だが、そこに留まれば、それだけ魔物が寄って来る可能性が高まる。
オレたちは、与えられた条件の中で、前に進むしかないのだ。
ここで、先のオレの選択がまた脚光を浴びることになる。
もし、前の装備のままだったら、道具を使うことを奪われたオレは、ただの
手に入れた攻撃力と防御力で、オレは物理攻撃の3枚目のカードとして、わずかだが機能できた。
やはり、オレの選択は間違っていなかったのだ。
ただ、回復薬が使えない以上、体力回復はどうしてもルイの魔法に頼らざるを得ない。
残り4回のうち、3回の魔法の使用は避けることができなかった。
そして、道具使用禁止領域の終了と同時に、オレたちは広い空間に出た。
前方には、今までの中で一番大きな祭壇が、白く輝いて見える。
間違いない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます