13 白銀の洞窟 前編
回復薬6、消麻痺薬1、万能薬1、石板1、虎の紋章1
消毒薬は戦闘中に使う必要はあまりないので、他の者に持たせている。
バランが、愛馬ロークにまたがった。
四人が隊列を組む。
バラン 騎士 レベル51 スキル使用可能回数5回
テヘン 剣士 レベル16 スキル使用可能回数1回
ルイ 回復魔導士 レベル12 魔法使用可能回数8回
王様 道具使い(自称) レベル無し スキル無し
隊列の前の方が敵の攻撃を受けやすく、後ろの方が受けづらい。
か弱い女の子より自分が後ろなのに気が引けるが、戦闘員と非戦闘員では基礎体力が違う。
それにルイは、魔導士用のローブも
「では、行こう」
オレの号令とともに、先頭のバランが洞窟に足を踏み入れた。
地下一階。
中は所々に松明が点灯していたが、全体的に薄暗く、冷たい湿った空気が漂っていた。
RPGゲームでよく聞く、不安を煽るようなダンジョンの音楽が聞こえてきそうだ。
いや、少なくともオレの耳の中には流れていた。
数歩歩くと、いきなり魔物が襲って来た。
これぞ、ダンジョンだ。
「テナガモグラ一体と、トゲネズミ一体だ」
最初に遭遇した敵は、見た目からも名前からも、いかにも下級モンスターだった。
戦闘は、敵味方の中で、ゲージが溜まった者から行動できるようになる。ゲージは俊敏性の数値が高い者から先に溜まっていく。
一番早く動いたのは、やはりバランだった。
騎馬ごと突進し、通常攻撃の一撃でテナガモグラをあっと言う間に葬った。
さすがに頼りになる。
次に動いたのはテヘンだった。
テヘンは、トゲネズミに剣で切りかかる。
トゲネズミは大きなダメージを食らったようだが、まだ生きていた。
テヘンの攻撃力では、まだ魔物を一撃で仕留めることは出来ないようだ。
続くトゲネズミの攻撃で、テヘンはわずかにダメージを負った。
その後、ルイ、オレとゲージが溜まったが、後方支援組二人は初めから防御姿勢をとっていた。防御をしていると攻撃が出来ない代わりに、受けるダメージを軽減できる。
次のターンのバランの攻撃で、バランは槍で軽く薙ぎ払うようにして、トゲネズミを倒した。
「テヘン、相手が下級モンスター2体の場合は、お前も初めから防御で良いぞ」
バランが言うように、今の戦闘の場合、テヘンの攻撃は意味を持たない。
いわゆるオーバーキル(過剰攻撃)というやつだ。
であれば、防御で少しでも体力の減りを抑える。
細かいようだが、そうやって回復魔法・回復アイテムを、なるべく強い敵との戦闘のために温存する。
それがダンジョン攻略の鉄則だ。
その後も、ルイとオレは出番が来るまで基本的に身を固め、バランがメインアタッカーとして敵を倒しまくる。テヘンはサブアタッカーとして、攻撃と防御を使い分けて立ち回る。
それが、このパーティーの基本戦略となった。
しばらく真っ直ぐ進むと、道が初めて左右に分岐した。
オレたちは、まず右の道を選んだ。
その後も、道は何度か分岐を繰り返した。
こういった場合は、初めに右に曲がった後の道を行き尽くす。
ダンジョンで道に迷って、同じところを何度も行き来する羽目になると、魔物との遭遇回数が増え、それだけ体力も削られる。
効率の良いルート選択も、重要な要素の一つだ。
その辺りはオレが慣れている。
道の選択は、最後方からオレが指揮した。
右のルートを網羅したので、初めの分岐に戻り、左のルートに入った。
ここまでは、至極順調だ。
戦闘も、最初にバランが一番危険そうな敵を倒してくれるので、だいぶ有利に展開できた。
左のルートに入っても、敵はアリクイを逆に食べるというアリクイクイアリや、植物型のチカカズラなど、やはり下級モンスターだったので、特に危ない場面はなかった。
おかげで、ルイの回復魔法はすべて温存。オレの回復薬も二本の消費のみだった。
しかも、途中の敵が回復薬を一本ドロップしたので、収支一本減らしただけである。
その状態で、地下一階の最奥部に到達した。
正面の先には、小さな祭壇のように、土が低く盛られた領域があった。
「この先にいるのは、おそらく地下一階のフロアボスです」
バランが慎重な声で言った。
フロアボスと聞いて、パーティーにも緊張が走る。
周りの空気も、ピリピリと震えている気がした。
消費した回復薬一本分は、他の仲間の袋から自分の袋へ補充してある。
道具は誰でも使うことは出来るが、他の三人は戦闘中それぞれやる事があるので、基本的に道具を使うのは、道具使いたるオレ一択だ。
準備が整っているのを確認すると、バランはゆっくりと歩を進める。
祭壇の領域に足を踏み入れた瞬間、戦闘が始まった。
一階フロアボス:シュラスケルトン
出現したのは、腕が四本ある大きな骸骨だった。
四本の腕はそれぞれ長剣を握り締め、見るからに攻撃力は高そうだ。
フロアボスの名に恥じず、今までの敵とはまるでオーラが違う。
「相手は攻撃特化のモンスターです。攻撃をまともに食らわないように注意してください」
バランがパーティーの皆に注意を与えた。だが、そう言われても、あの四本の剣撃を避ける自信はオレにはない…。
先行したのはバランだった。
相手の四本の剣にもひるまず、騎馬ごと突進してダメージを与える。
しかし、そこはさすがフロアボス。
一撃でやられるはずもなく、まだまだといった様子で反撃に出る。
右腕二本の剣を振りかぶって突撃した先は、バラン、テヘンをすり抜けて、ルイの目の前だった。
強力な斬撃を受けて、ルイは防御姿勢のまま両膝から崩れ落ちた。
瀕死の重傷を負っている。
「大丈夫か?」
オレはゲージが溜まると、すぐさま防御姿勢を解除して、ルイの元に駆け付けた。
回復薬を二本使って、ルイの体力を最大近くまで回復する。
ルイは生気を取り戻した。
「あら、私は、どうなったのでしょ?」
どうやら切り付けられた時の記憶は飛んでいるようだ。その方がいい。もしその瞬間の記憶が残っていたら、怖くて同じ敵に対峙できないだろう。
そのターンの最後に、テヘンの通常攻撃が、スケルトンにいくらかダメージを与えた。
恐るべきは、シュラスケルトンの物理系攻撃の破壊力。
ルイは防御姿勢をとっていたからなんとか一命を取り留めたが、そうでなければ一撃で即死だったはずだ。
いや、相手がオレだったら、防御姿勢の上からでも殺られていたかも知れない。
そして、今度のターンは、オレは防御姿勢を解いている。
先に狙われたら、確実に一刀両断だ。
それはバランも分かっていた。
自分の攻撃で仕留めなければ、オレを失う可能性は充分ある。
迷わずスキルを解放した。
「
人馬一体となった黒い塊が、嵐を巻き起こしてスケルトンに突進した。
骸骨を洞窟の壁に叩きつける。
大ダメージを受けたスケルトンだったが、体力はわずかに残ったようで、めりこんだ壁からユラリと立ち上がった。
倒し切れなかった…
次にスケルトンのターンになり、オレが標的になれば終わりだ。
最後尾だから攻撃を受ける確率は低いとはいえ、先程は三番手のルイが襲撃された。
ボスは隊列を無視する能力を持っているのかも知れない。
だが、次にターンが回ったのは、テヘンだった。
ゲージの溜まる速さは、ある程度のランダム要素がある。
テヘンが恐らくボスをギリギリ上回って、攻撃権を得た。
瀕死状態のシュラスケルトンに、剣撃でとどめを刺す。
フロアボスの骸骨は、たまらずバラバラに崩れ去った。
「間に合った」
「よし」
「危ねえーー」
「ナイスでーす」
四人の歓声が一度にダンジョン内にこだました。
バランのスキル一回と、回復薬を二個消費したが、なんとか一階のボスを倒した。
目の前に開いた通路を下り、オレたちは地下二階へと向かった。
地下二階。
バラン 騎士 レベル51 スキル使用可能回数4回
テヘン 剣士 レベル17 スキル使用可能回数1回
ルイ 回復魔導士 レベル12 魔法使用可能回数8回
王様 道具使い(自称) レベル無し スキル無し
一階の戦いを経て、テヘンのレベルが1つ上がった。
「ダンジョンは、やっぱり怖い所ですね」
テヘンが額を拭うような仕草で言った。
二階になると、これまでの敵に加えて、人型の魔物や、魔法を使う魔物が増えてきた。
物理攻撃に強いバランやテヘンも、攻撃系の魔法にさらされて、一階の時よりも体力の消耗が大きくなってきた。
そんな味方を見ていると、最後方にいながら防御ばかりしている自分が、申し訳なく思えてくる。
ふと、バランが足を止めて、前方を指差した。
見ると、毒の沼地が横たわっている。
しかも、通路全体に広がっているため、前に進むにはそこを必ず通らなければならず、四人全員が毒に冒されることが確定している。
「王様、どうなさいますか?」
バランの質問と同時に、石板の着信音が鳴った。
ここで選択か。
目の前の毒の沼地にどう対処する?
①通過して進む ②引き返す
制限時間:5分
これは確かに悩ましい。
まず、②は至って無難な選択だ。
なにも自らダメージを負い、しかも消毒薬を消費する行動をする必要はない。
危険を避けて何が悪い、という健全な考え方だ。
だが、RPG的には、この毒の沼地を抜けた先には、レアなアイテムか、ダンジョン攻略に有用な情報が手に入る可能性が高い。
あえて危険を冒した見返り、というやつだ。
たまに、「え、これだけ?」という期待外れがあることはあるが…。
だから、できれば前に進みたい。
ただ問題になるのは、消毒薬の消費だ。
四人全員が毒に冒されるということは、行くだけで四つの消毒薬を使う。
そして、行った先が行き止まりで、別のルートがなければ、もう一度この道を通らなければならない。
つまり、ここで手持ちの消毒薬8つをすべて使い切ることになる。
そうなると、この先の戦いでの毒攻撃への対応力が著しく低下する。
場合によっては、今回の選択が原因で、一度ダンジョンを離脱しなければならなくなるかも知れない。
ダンジョンは、この世界でも一度出ると内容がリセットされるようなので、またあの手強いフロアボスと戦う羽目になる。
残り時間1分
時間が経つのは速い。決断の時だ。
リスクを承知で、やはりここはRPG的テンプレに従おう。
この先には、きっといいことが待っているはずだ。
オレは、①の通過して進む、を選択した。
「このまま進もう」
オレの言葉に頷くと、バランはずかずかと毒の沼地に入っていった。
毒の瘴気で、四人のステータスは瞬く間に毒状態に変わった。
もし、行き止まりがすぐあれば、沼地を引き返すまで、毒に冒された状態で歩き続ける、といった
だが、道は更に続きそうなので、セオリー通り消毒薬を使って全員の毒を解除した。
しばらく進むと、果たして2つの宝箱を発見した。
ここまで来て、中身が回復薬1個ずつということはあるまい。
期待して宝箱の蓋を開ける。
1つの宝箱には、とげとげの付いたムチが入っていた。
もう1つには、
どちらも非常に軽く、非戦闘員のオレでも装備できた。
そもそも、非戦闘員の人間が装備できる武器・防具は、ごくごくわずかで初歩的な物ばかりだ。
金属が入ると大概重くてダメだし、ルイが着用しているローブなどは、その専門職でなければ身に着けることは出来ない。
だから、オレが装備できること自体、貴重と言うほかない。
しかも、石板のアイテム一覧から確認すると、
「とげとげのムチ」 攻撃力+30
「
とあった。
特に鎧の方は、中級クラス並みのバフ(数値上昇)である。ただし書きが少し気にはなるが…。
これはまさしく、掘り出し物を掘り当てたようだ。
やはりというか、一本道の行き止まりだったため、また毒の沼地を通過して消毒薬をすべて使い果たすことにはなったが、それを上回る収穫を得られたと思う。
実際、その後の戦闘では、攻撃力と防御力の上がったオレは、行動の幅が広がった。
相手の斬撃を極度に恐れる必要がなくなったので、攻撃にも積極的に参加できるようになった。
時には、テヘンとオレで一体の魔物を倒すこともできるようになり、攻撃陣に掛かる負担を少し緩和することができた。
オレたち四人パーティーは、強くなってきた敵にも対応力を見せ、回復魔法1回、回復薬4個の消費で、地下二階のフロアボスまで辿り着いた。
地下一階のフロアボスの恐怖がよみがえったが、オレたちは意を決してボス戦に突入した。
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