12 四人パーティー結成

今日も留守を預かるオレとアムル。


そんな中、アムルが困り顔でオレの部屋を訪ねてきた。


「王様、嬉しい悲鳴ではあるのですが、人が少しずつ増えて来ましたので、金の収支が怪しくなって参りました」


うん。それはオレも心配していたところではある。


食糧は、南の農地の開墾によって、賄う目途が立ってきている。


だが、金の方はまだ手付かずだ。


収支と言ったって、収入の方がゼロで、今ある分を切り崩しているだけなのだから、近いうちに枯渇するのは目に見えている。


とにかく、金を稼ぐ方法を、至急考えなければならない。




「この国は、魔物に滅ぼされる前は、何で金を得ていたのか?」


と尋ねると、アムルは、「また昔のことをお忘れですか」と小さく溜め息をつきながら、


「国全体としましては、内陸の農業、港湾都市の漁業など、いろいろありましたが、特にこの都市周辺は、白銀の鉱山があり、それで大きな利益を得ていました」


と答えた。




「ほう、鉱山があるのか。ならば、それを掘れば資金源になるではないか」


アムルが口をへの字に曲げた。


「そう簡単にはいきません。噂では、鉱山は魔物の巣窟になっているようですから」


言わばダンジョンだな。


だが、こちらにも戦闘員が3名いる。現戦力で攻略できないか、皆が帰ったら議題にかけてみるとしよう。




夕刻。


戦闘員3名とアムルを招集して、鉱山攻略の可否を協議した。


白銀の鉱山は、北の山の少し先にあったので、その現状についてはバランが詳しかった。


「私は少し足を踏み入れたことがありますが、初級から中級モンスターが主体でしたので、四人パーティーを組めば、攻略は可能でしょう」




ダンジョンは、魔物の出現頻度が高い。だから、バランのような猛者でも、一人では体力を少しずつ削られ、先に進めなくなる。


回復系の魔法・アイテムや、こちらがダメージを受ける前に敵を倒し切る攻撃の頭数が必要なのである。




「階層は?」


それについてはアムルが答える。


「元の鉱山は三階層でしたので、そのままであれば、地下三階までと思われます」




「三人では厳しいか?」


オレの問いに答えるより前に、バランはルイに確認した。


「回復魔法は何回まで使えるのでしたかな?」


「初級回復が8回です」




バランは頭の中で、何かを計算かシミュレーションしている様子だったが、やや顔をしかめた。


「体力が持たぬでしょうな」




であれば、体力回復を補う物があれば良い。


幸いにも、秘密の地下室で発見した、回復薬などの戦闘用アイテムが大量にある。


「では、アイテムで回復を補助する要員がいたら?」


「非戦闘員で、ということですか」


バランは考え込んだ。


「成功するかどうかは、五分五分だと思います」




その時、石板より着信音が鳴った。


鉱山のダンジョンに、四人目としてどちらを参加させる?


   ①王様      ②アムル


   制限時間:15分




今のこの城で非戦闘員といえば六人だ。


そのうち、ドグム、サン、タニ、クナは一般市民なので除けば、確かにオレかアムルのどちらかとなる。




今回は、危険な目に遭うのはアムルよりもオレだ、というような感傷的な判断はやめよう。


純粋に、どちらが参加すれば成功率が上がるか。




体力面では、少し若いのと、現実世界で生ぬるい生活をしていなかった分、アムルの方が一段優っている。


剣の扱いも、アムルが幾分上だろう。


だが、RPGゲームを愛してきたオレには、ダンジョンの進め方やアイテムを使うタイミングなどの、アムルには無い知識がある。


ゲームと現実とは勝手が違うかも知れないが、この知識と経験は大きいのではないだろうか。


オレが出ていくことの一つ懸念材料としては、オレを庇おうとし過ぎて、バランやテヘンが本来の自分の動きが出来なくならないか、ということである。




一長一短を見定めながら、オレは一つの結論を手繰り寄せていく。


そして、長く続いた沈黙を破った。


「四人パーティーの一人として、私が参加しよう」




皆がはっと顔を上げた。




「王様が行かれるくらいなら、私が行きます」


アムルがむきになって騒いだ。


まあ、予想の範囲内だ。


「アムルよりオレの方が、道具を使いこなせる」


「なぜですか?」


間髪入れず飛んできた質問に、オレは思わずたじろいだが、


「以前、道具屋の主人と懇意にしててな。そこでいろいろな知識を仕入れたのだよ」


取って付けた薄い理由を述べた。




「王様にもしものことがあったら、どうするんですかあ」


そう叫んだ後、アムルは独り言のように言った。


「王様が死んじゃう」


勝手に殺すな。


「王様なんて、戦闘で何の役にも立たないですよ…」


ちょっと無礼だぞ。




だが、アムルも分かっていた。


オレが行くと言い出して、行かなかったことは今までにない。


そう、自分と同じくらい、いや自分以上にオレは頑固者なのだ。


それで、アムルの言葉はだんだん小さくなり、最後は聞き取れないほどになっていった。




バランは、肯定も否定もしなかった。


ルイは、ただ成り行きを固唾かたずを飲んで見守っていた。




オレは、アムルの反対の意思が無くなったことを確認すると、①の王様を選んだ。




こうして、四人パーティーが完成した。


そして、白銀の洞窟シルバーダンジョンへのアタックは、二日後に定められた。




その準備期間に、オレは道具の選定を行った。


道具は、道具袋に入れて持ち運びができ、一人の道具袋には10個まで入れることができた。


10個×4人で40個のアイテムを、オレはこう選んだ。


回復薬 25

消毒薬 8

消麻痺薬 4

万能薬 1

石板 1

虎の紋章 1




他にも、敵に小ダメージを与える炎の球や氷の球もあったが、今回はサポート役に徹し、基本的にすべて体力回復と、ステータス異常回復のアイテムを選んだ。


麻痺は、その戦闘中、体が痺れて行動不能になるというステータス異常である。それを引き起こすモンスターは数少ないが、一度なると危険なので、一応人数分を持って行く。


一方、毒は、一番ありふれたステータス異常と言っていい。これも放っておくと体力がどんどん蝕まれるので、解除必須である。掛かる可能性が高いので、8枠も使うのは勿体ない気もするが、人数分×2は必要と判断した。


後は、全てのステータス異常を一瞬で解消できる万能薬と、やり直しが出来るという点で手放せない石板。それと、何の役に立つかは分からないが、ログインボーナスで手に入れた虎の紋章。


残りはすべて、体力を回復する回復薬とした。




最近気付いたのだが、例の石板の画面に、アイテム一覧という項目が追加された。手に入れたアイテムや装備が、イラスト付きで載ってくる。

そして、そのイラストをタップすると、回復薬は「体力を30~50回復します」と、効能が表示された。


だが、他のアイテムは、詳細画面にリンクしていなかった。


使途不明の虎の紋章などは、それこそ効能を知りたくて何度もタップしてみたが、反応は無かった。


おそらく、これは一度使ったアイテムの効能が表示されていくようだ。


便利なのか、便利じゃないのか、よく分からない機能だった。




この準備期間にもう一つ手に入れた情報があったが、これはもっと早く知るべきだった。


いや、以前から気にはなっていたのだが、聞くタイミングが無かった。


それは、バトルで死んだ仲間を生き返らせる、いわゆる蘇生系の魔法の存在である。


RPGゲームには当然付き物だが、ゲーム世界と現実世界の中間のようなこの異世界に、ちゃんと存在するのだろうか?


聞いてみると、一同皆、丸い目をした。


覚えるとしたら回復系魔導士のはずなんだが、と話を向けられたルイは、改めて首を強く横に振った。


「私がレベルが低いからということではなく、最上位の回復系魔導士でも、そのような魔法は使えません。私たちは息さえあればどんな深手の傷でも治癒することはできますが、死者をよみがえらせることはさすがに…」


戦闘に関して一番造詣が深いであろうバランも、真顔で言った。


「万が一、未知の魔物であればそのような魔法を使いこなす者も居るやも知れませんが、それは人がせるわざではありません」


「ということは、教会のような死者を蘇らせる施設もないのか?」


重ねて聞くと、


「王様ったら、またそんな冗談みたいなことおっしゃって…」


アムルが半分呆れたような顔をした。


つまり、話を総合すると、この世界で死者を蘇らせる術はないということだ。


それじゃあ、魔物との戦闘はまさに命懸けじゃないか…。


頭のどこかに、死を救済する手段があると甘く考えていたオレは、パーティーの四人目に自分を選んだことを後悔した。

だが、既に選択をしてしまった後だし、今さらアムルにバトンタッチという訳にもいくまい。


覚悟を決めるしかない。




瞬く間に二日が過ぎ、いよいよ白銀の洞窟シルバーダンジョンへのアタック当日。


一階に降りたところで、オレは木の兜と木の胴当てを受け取った。


この二日間で、アムルが設計し、バランが製作した物らしかった。


バランは不器用そうな風貌をしているが、こういった一人で物を作り上げるのが得意らしい。


現代であれば、間違いなくプラモデル愛好家になっていたことだろう。




有難い。オレは早速装着した。


決して格好は良くないが、防御力は幾分上がったはずだ。




「王様、よくお似合いです」


アムルが、誉め言葉かどうか微妙な掛け声を掛けた。




お返しという訳でもないが、オレは中身を分配して入れた道具袋を三人に手渡した。


「王様、無事のご帰還を、お待ちしております」


出発前なので必死に涙はこらえていたが、アムルの目はもうぐじゅぐじゅだった。




「開門!」


数少ない国民に見送られて、オレたち四人は出発した。


王様を差し置いて、自分だけ馬上にいるわけにはいきませんと、バランも馬から降りて歩いて向かった。


北の山を過ぎると、ついに白銀の洞窟シルバーダンジョンの入り口に到着した。


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