10 魔導士の選択

今日も今日とて、皆がせわしなく動いているから、すっかり忘れていた。


期待値が下がってきた、というのもその主たる要因だ。


そう、今日は一週間ぶりのログインボーナスの日。




着信音が鳴って、オレはようやく気が付いた。


そうだ、そうだ。そんなこともあったっけな、と。


しかし、祝福は突然やって来る。


運営がまた、我が手によって神に昇格した瞬間だった。




ログインボーナス 魔導士フェスタ開催


いずれかの魔導士が手に入ります。


   ①攻撃系魔導士 レベル30      ②回復系魔導士 レベル10


   制限時間:1時間


   ※ 次のログインボーナスは、30日後です。




初回ぶりの人的資源ボーナス。


しかも、魔導士だってーーー。


拝啓 運営様  やってくれましたね。


それが一番欲しかったっす。


そりゃあそうでしょ。バラン将軍を手に入れたことで、物理系の攻撃力は爆上がりしたところ。


じゃあやっぱり、次欲しくなるのは、魔法系のキャラだよねー。


一番欲しかった物が手に入るなんて、小6のクリスマスプレゼント以来かな。


だから、次のログインボーナスが30日後なんてところは、今はまったく気にならない。




んーー、なになに。


レベル30の攻撃系魔導士か、レベル10の回復系魔導士か。


良い選択肢ですな。


回復系魔導士は、長丁場の戦闘には必要不可欠だ。まさに、一家に一台の世界。


だが、レベル20の差もかなり大きい。


どちらを取るか。




ルンルンで考え始めたところに、城に残っていたアムルが駆け込んできた。


「王様。たった今、二人の魔導士が士官にやって参りました。玉座の間にて待たせてあります」


おや、まだ選択していないが。


今回は、面談をしながら決められるということか。




はやる気持ちを抑えながら、玉座の間に急ぐと、果たして二人の魔導士が椅子に腰かけていた。


オレは玉座に座して、二人を見下ろす。


一人は中年の男、もう一人は若い女の子だった。




「それでは、氏名、年齢、職種、レベルを、順番にお願いします」


司会役のアムルが、そう言って、まず男の方に促した。


「ダガ、35歳。攻撃系魔導士、レベルは30です」


男は痩身で目付きが鋭く、いかにも攻撃系という容貌だった。




続いて、アムルが女の子の方を指し示す。


「ルイ、20歳。回復系魔導士、レベルは10です」


女の子は対照的に、癒し系のオーラが滲み出ていた。


20歳か。どおりで、女というよりは、女の子といった方が似つかわしい。


少し垂れた目があどけなく、うん、かわいい…。




いかん、いかん。


そういう目で見てはいかんのだ。


ここは王として、平等に、公平に判断しなくてはならん。




「現時点で使える魔法を教えてください」


各魔法には、四つの階級がある。

すなわち、初級、中級、上級、最上級の四つである。

当然、職種のレベルが上がるほど、使える階級が増えていく。

最近アムルから、こういったこちらの世界の常識を、いろいろ教わっているところだ。




「炎系、氷系、電撃系、爆発系すべて、中級魔法まで使えます」


ダガが少し胸を張って答えた。


なるほど、なかなか使い勝手が良さそうだ。




「使えるのは、初級の回復魔法のみです」


ルイが少し恥ずかしそうに答えた。


レベル10なのだから、今は初級のみで当然だろう。


いいよ、構わない。レベルはこれから上げていこう。


回復魔法があるというだけで価値が高いのだから。




「実戦経験を教えてください。」




「私は、北のタウロッソ国出身です。これまでに、実戦は50回ほど。中級モンスターを数体、初級モンスターは数え切れないほど倒して参りました」


中級モンスターまで。そうか、上々。




「私は、南のカンナバル国出身です。平和な国でしたので、まだ実戦経験は…」


気にすることはないぞ。


よく実戦経験不問とかいいながら、結局経験者を優遇する会社があるが、うちはそういった会社、いや国家ではない。


経験などというものは、積み重ねていけば良いわけで、そのスタートが早いか遅いかは問題ではない。


もし経験で合否を決めるというなら、経験の無い者はいつまで経っても採用されないということになってしまうではないか。




「では、自己PRをお願いします」




「私は、既に中級魔法を網羅しているので、即戦力としてお使い頂けると思います。それに、魔法を覚える速度は、一般の魔導士よりも速いと思います。レベル50を待たずして、上級魔法も使えるようになる見込みです。王様の魔王討伐のお手伝いができると自負しております」


それは頼もしい。




「私はまだ駆け出しの魔導士で、出来ることは少ないですが、私に出来ることは精一杯やりたいです。それに経験もいっぱい積んで、メンバーから頼りにされる回復魔導士になりたいです」


自分が出来ないことを素直に認めることは大事だ。


自分を正しく知ることから、成長は始まる。


まだレベルが低いということは、これからの伸び代が他人よりも大きいということだ。


そういった若者を育てていくというのも、国としての責務である。




「王様より、何かお尋ねになりたいことはございますか?」


アムルの問いに、オレは軽く頷いた。


「では、そなたらが一番大切にしていることは何かを聞こう」




「魔法には四種類の属性があります。そして、魔物によって、弱点となり大ダメージを与えられる属性もあれば、まったく効かない属性もあります。中には、吸収されて相手の力になってしまう場合もあります。この属性を極めることを、私は何より大切にしています」


了解。




「私が大切にしていることは、他人が嫌がることをしないことです。自分がやられたら嫌だなと思うことはしません。反対に、自分がされたら嬉しいことを他の人にもしようと思っています」


戦闘の話ではないところが、この子らしいな。


人間的な幅がある、というやつだ。


確かに現時点での戦闘力は、ダガの方が数枚も上手かも知れないが、優秀な人材とこちらが欲しい人材は、必ずしも一致しない。


テヘン、バランという物理系攻撃2枚に、魔法系攻撃が加わっても、パーティーとしては安定しない。


やはり、ここはどうしても回復能力が欲しい。


回復能力を有しているジョブは数少なく、回復能力に特化しているジョブは回復系魔導士のみだ。


今後、戦士系のジョブ持ちが士官して来る可能性は高いが、回復系魔導士は今回を逃せば次いつ来るか分からない。




ということで、平等に、冷静かつ公平に判断した結果…。


「②の回復系魔導士ルイを採用とする」


そう宣言して、②をタップした。


「マルニ?」


いやアムル、そういう細かい所は突っ込まなくても良いのだぞ。




「ダガよ。そなたの有能さはよく分かった。しかし、我が国の欲するところとはやや合わなかった。そなたであれば、他のどの国でも、士官の道には困るまい」


ダガは悔しがる様子もなく、「ではこれにて」と、淡々と引き下がった。




どちらかしか採用されないのであれば、自分ではないと恐らく思っていただろう。


望外の採用に、ルイは頬を紅潮させて喜んだ。


「誠心誠意、仕えさせて頂きます」


まっすぐにこちらを見つめる。




きりっとさせた表情もなかなか良い。


これで待望のかわいい、あ、いや、駆け出しの回復系魔導士が陣列に加わった。


さあ、今日も宴じゃ。

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