第85話:緑化13

 父上と母上の提案を全面的に受け入れました。

 誰にも分からないように、深く静かに国造りを行いました。


 とはいえ、誰も炎竜砂漠や地竜森林と東竜山脈の間に農地を造り、建国の準備をしているとは思いません。


 全ての人間が既存の領地、ゲヌキウス王国人は連邦を、連邦人はゲヌキウス王国を開墾すると思っています。

 だから人目を気にせず、小作人と奴隷を集めました。


 ゲヌキウス王国の王国貴族は内心激怒しているでしょうが、何の文句も言ってきませんでした。


 カルプルニウス連邦の侯王達も、内心では腸の煮えくり返る怒りを感じているでしょうが、何も言わずにいます。


 王侯貴族が我慢するような状況ですから、我が家の領地に住む地主達が文句を言えるはずがなく、黙って小作農のいなくなった農地を耕す人間を探すしかありません。


 騙して人々を集めてきたら、俺達が絶対に許さない事くらい、滅ぼされた貴族を間近に見てきた地主達はよく知っています。


 当然ですが、他の領地よりも好条件を提示して集めるしかありません。 

 我が家では奴隷を認めていませんから、ほとんどの地主は最初から奴隷を買う事を諦めていましたが、中には俺達を舐めるような馬鹿な地主もいました。


「それほど奴隷が好きなら自分が奴隷になればいいのです。

 そうすれば寝食も奴隷と一緒にできます。

 貴男方は領主の定めを破った罪で奴隷に落します。

 ただ、我が家では奴隷を認めていませんから、他領に売って差し上げます」


 俺はもちろん、父上も母上も、領主一族を舐める領民を許しません。

 身勝手な領民に舐められていたら、弱くて善良な領民を助けられません。

 だから、罰する時には徹底的にやります。


 殺すのは簡単ですが、それでは見せしめになりません。

 一生苦しみ悶えるような罰として、奴隷落ちを選びました。

 方針に違反していると言う方がおられるでしょうが、そんな事は覚悟の上です。


 俺達に隠れた奴隷を買って働かしていた地主一族は、男は鉱山奴隷として、女は性奴隷として他領の貴族に買われていきました。


 炎竜が酒蔵のワインを毎日飲み干すたびに、四万人分の耕作地が造られます。

 二十五日で百万人が食べて行ける農地が出来上がります。


 人を移動させるたびに、俺が稲作の手本を見せますので、刈り入れまでに必要な食糧も確保されます。


 俺は父上母上と相談したうえで、有り余る農地の貸与面積を変えました。

 炎竜が思っていた以上に約束を守る性格だったので、とんでもなく広大な農地が、とても早くできたのです。


 奴隷に自分自身を買わせると決めた時から分かっていた事ですが、ギリギリ食べて行ける収穫の農地では、何時まで経っても自由民には成れません。


 領内の税が四割で、地主として払わせる賃料が二割で、奴隷から自由人になるために支払う分が二割で、奴隷の手元に残るのが二割になります。


 人間が一年間生きていくのに必要な米は、大雑把に計算すると一石だと言いますが、一石の米を収穫するのに必要な農地は一反です。


 不作も凶作も考えず、自然災害も害獣害虫も考えず、一年一収穫だと考えると、最低でも一反の農地が必要になります。


 俺の知っている歴史上の江戸近郊中流農家は、水田十反、畑五反を夫婦で耕していましたが、収穫は米二十石、麦六石、大根二万五千本でした。


 大根は船賃を払って江戸で売り、銭百三十五貫文を手に入れていました。


 年貢に米五石と銭三貫文、地代に米五石が必要でした。


 次の年の作付けに米一石分の種籾を残しておかなければいけません。

 先に書いた収穫を得るのに、五十貫文支払って肥料を買わなければいけません。


 江戸まで大根を運ぶ船賃や大八車、荷役に銭四十貫文、金二両二分が必要です。

 農繁期には手伝いを雇わなければいけないので、米五升麦二石弱で飯を食わせ、賃金として金一両二分が必要になります。


 自分達と子供一人が生きていくのに必要な食糧は、米二石弱と麦四石弱、自給自足用の野菜が必要です。


 薪や炭といった燃料に金一両、農具や家具に金二両、衣服に金一両二分、塩や茶や紙や油に金二両が必要になります。


 それと、人間は社会的な生き物なので、自由民になるために村を作って暮らすとなると、交際費が必要になってきます。

 

 餓死しないだけの食糧さえあれば良いという話にはならないのです。

 近郊に大都市などないので、商品作物を作って売る事などできません。

 野菜は自分達が食べる分だけ、多くても塩蔵や日干しで保存できる量までです。


 穀物なら不味くなるのを覚悟すれば三十年は保存できます。

 食糧不足の時代なら、炊くと新米より量が増える古米の方が二割高かったくらいなので、元奴隷なら保存がきく穀物を優先するでしょう。


 不作凶作、自然災害に害獣害虫、年貢賃料自由料を考えて、独り二十反の水田を貸し与える事にしました。

 奴隷でも夫婦なら四十反の水田を貸し与えました。


「これからできるだけ多くの収穫を得られる農業を教える」


 俺は奴隷や小作人に輪作を教えました。

 魔術で品種改良した作物は渡しませんでしたが、輪作術だけは教えました。


 ただ、肥料が不足すると思うので、ずっと二毛作は無理だと思います。

 今は大丈夫ですが、将来農地が不足して寒い高所まで開墾するようなら、立毛間播種を取り入れなければいけません。


「肥料が確保できるのなら」毎年2作

1年目早春:稲作(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (田植え前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

   早秋:小麦(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (種蒔き前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

2年目早春:稲作(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (田植え前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

   早秋:甜菜(砂糖を絞ったかすは家畜の飼料にする)

     :  (家畜の飼料に余裕があれば絞り粕を焼いて肥料として撒く)


「肥料がほんの少し足らない」3年5作

1年目早春:稲作(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (田植え前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

   早秋:小麦(収穫後は腐葉土や雑草を焼いた肥料を撒く)

     :  (種蒔き前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

2年目早春:稲作(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (田植え前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

     :小麦(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (種蒔き前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

3年目早春:稲作(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (田植え前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

   晩夏:クローバー(刈り取って乾燥させ焼いてから畑にすき込む)

 

 「肥料がほんの少し足らない」3年5作

1年目6月:大豆(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (種蒔き前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

  10月:小麦(収穫後は腐葉土や雑草を焼いた肥料を撒く)

     :  (種蒔き前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

2年目6月:大豆(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (種蒔き前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

  10月:小麦(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (種蒔き前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

3年目6月:大豆(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (田植え前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

    秋:クローバー(刈り取って乾燥させ焼いてから畑にすき込む)


「ある程度肥料が足らない」2年3作

1年目早春:稲作(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (田植え前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

   早秋:小麦(収穫後は腐葉土や雑草を焼いた肥料を撒く)

     :  (種蒔き前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

2年目早春:大豆(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

     :  (種蒔き前に人糞や獣糞を肥料として撒く)

   晩夏:クローバー(刈り取って乾燥させ焼いてから畑にすき込む)


「肥料が足らない」4年4作

1年目早春:稲作(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

2年目早春:甜菜(砂糖を絞ったかすは家畜の飼料にする)

     :  (家畜の飼料に余裕があれば絞り粕を焼いて肥料として撒く)

3年目早春:稲作(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

4年目早春:クローバー(刈り取って乾燥させ焼いてから畑にすき込む)


「圧倒的に肥料が足らない」三圃制農法

1年目早春:稲作(根などを掘り起こして乾燥させてから焼いて畑にすき込む)

   早秋:畑を休ませる。

2年目早秋:小麦(収穫後は腐葉土や雑草を焼いた肥料を撒く)

3年目春 :小麦の収穫後畑を休ませ放牧地とする

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