第86話:嗅覚

 炎竜とは上手くやれていますし、人集めも順調です。

 ただ、あまりのも順調過ぎて、このままでは農地が余り過ぎます。


 今は一つの農地にかける手間を減らして、面積当たりの収穫量あh少ないですが、広い農地を管理するような農業をやらせています。


 子供が生まれて人手が増えたら、面積当たりに投入する手間を増やして、面積当たりの収穫量増やす事もできますし、新たな農地を開墾する事もできます。


 問題は、これ以上人を集められない状況となった時に、子供が育って農民として一人前になるまで、炎竜に何をしてもらうかです。


 何もしなくても酒がたらふく飲める状況を十年以上も許してしまうと、それが普通になってしまって、改めて開拓をさせようとしても従ってくれるかどうか……

絶対にやってくれなさそうです。


「父上、母上、炎竜に何をさせるのが良いと思われますか?」


「莫大な農地を開拓させて、収穫だけを人間にやらせるのはどうだ?

 酒造りはできないが、促成栽培はやれるのだろう?」


 確かに、それが一番効率的かもしれません。

 保存用の超大型倉庫も炎竜に造らせればいいです。

 問題は、そんな事ができると知った人々が怠惰になる事ですね。


 いえ、その点は大丈夫でしょう。

 炎竜を何時までも意のままに操れると思う者などいません。

 酒好きの炎竜が、自分が飲みたくて人間を扱き使っていると思うでしょう。


 僕がやる分は、人間の寿命では長くても百年未満で、子孫が同じように楽できないのは明らかですから、普通の人なら子供や孫のために頑張るでしょう。

 普通でない身勝手な人は、厳しい環境に隔離してしまいましょう。


 それに、地竜森林と東竜山脈の間にある農地に送った人達は、基本そこから離れられなくなります。


 そこで知った情報を、ゲヌキウス王国やカルプルニウス連邦だけでなく、大陸のどの国にも誰にも伝えられません。


 俺が炎竜を操っていると勘づいたとしても、誰にも伝えられないのです。

 だったら全力で食糧を備蓄しても良いのではないでしょうか?


 田植えや種蒔きのような細かい作業は人間がやればいいのです。

 それが終わったら、炎竜に促成栽培させるのです。


 収穫して脱穀するまでを人間がやらなければいけませんが、多少は農具を進化させた方が良いですね、江戸時代ぐらいの農機具を作りましょう。


 穀物保存用の強大なサイロですが、二酸化炭素を加えて密封させたら、三十年は保存できるでしょう。


 どうせ保存するのなら、少しでも涼しい所の方が良いですから、東竜山脈と西竜山脈の永久凍土地帯にサイロを造ってもらいましょう。


 問題は二頭の飛竜が許してくれるかどうかですが、その点は炎竜に見逃してもらえる範囲を教えてもらえばいいですね。


「でもディドの話だと、酒の方が保存期間が長いのよね?」


「はい、酒精が強いほど長く保存できます。

 エールなら百日くらいで飲み終えないといけませんが、ワインなら三十年くらい、酒精の強い穀物発酵酒も三十年くらい、蒸留酒なら数百年保存できます。

 ただ、風味が失われてしまいますので、数年で飲んだ方が美味しいです」


「長期の保存用食糧として酒にするのなら、風味が落ちても構わないだろう。

 酒を美味しく飲めるくらい豊かなのなら、新酒を楽しめばいい」


「そうですね、そのようにします」


 俺はひとまず炎竜に農地を造ってもらう事に専念しました。

 最初は最低限の水田、一人一反の農地を考えていましたが、今は一人二十反の農地と考えていますから、一日で二千人分の農地しか造れていません。


 二千町(二万反)の農地に千人の農民が住む事になります。

 最初考えていた、酒蔵に付属した住居が二十倍の広さを持つ豪邸になりました。


 共同食堂に個室がつく、独身寮のようにしていたので、人数が二十分の一になってしまって、とても使い勝手が悪いです。


 将来的には酒造りの専従者が住む場所にするか、ある程度大きくなった子供達の寮にするしかないですね。


 なので、新しく造る酒蔵の住宅部分は大幅に減らしました。

 酒造人員用と独身労働者用以外は、家族で住めるマンションタイプにしました。

 一日二千人分を、二十五日かけて五万人分炎竜に造らせました。


 俺はその間、炎竜に見つからないように、アルコール度数八十パセントくらいのウオッカを造りました。


「余に隠れてコソコソやっているようだが、何をやっている?!」


 酒を飲む事にしか興味がないと思っていたのですが、伊達に何万何十万年も生きていないですね、俺が隠れて動いている事を見抜いていました。


「炎竜様が人間を手助けしてくださり、俺が生きている間に、何百年も保存ができる食糧を開発しようと思ったのです」


「何百年も保存できるだと?

 そのような物があるのなら、余にも食べさせてみろ」


「長く保存できるだけで、美味しい訳ではありません。

 炎竜様に飲み食いしていただけるようなモノではありません。

 それに、今は造ったばかりなので、数百年後の味にはなっていません」


「ふん、そのような事は分かっておる。

 数百年もつという食糧が、どのような味をするモノなのか、食べてみたいだけだ」


「どうしてもと言われるのでしたら用意させていただきますが、人間用と炎竜様用では量が全く違います。

 十日待っていただけないと、量が用意できません」


「ふん、言い訳ばかり口にしおって、だが、嘘ではないようだな。

 しかたがない、十日だけ待ってやる、当日になってもう少し待ってくれと言っても、絶対に許さんぞ!」


「分かっていますが、場所に問題があります。

 炎竜様が試されるとなると、炎竜砂漠の方が良いでしょう。

 毎日造って頂いている水田や酒蔵以外に、炎竜砂漠に俺の言う通りの酒蔵と蒸留所を造ってもらいます」


「なに、俺様にこれ以上働けというのか?!

 それに何だ、酒蔵と蒸留所だと、数百年もつ食糧と言うのは酒の事か?!」


「それを言われるのなら、炎竜様のような偉大な方が、人間のような卑小な存在に、いつも以上に働けと言われているのですよ。

 どちらの方が、負担が大きいか、考えてみてください。

 数百年もつ食糧が酒かと言われるのなら、酒です。」


「ぐっぬぬぬぬぬ、ああ言えば、こう言いおって、減らず口の多い奴だ!

 それに新しい酒を造っているのなら余にも言っておけ!」


 炎竜はガタガタブツブツと文句を言っていましたが、事が酒造りとなると目の色を変えて造ってくれます。


 俺は自分が造り出した炎竜砂漠の酒蔵と蒸留所に加えて、炎竜に造らせた酒蔵と蒸留所を十ケ所も確保しました。


 酒蔵は一時的に保管するだけの場所です。

 乾燥しているとはいえ、こんな灼熱地帯に酒の保存所を造る気はありません。


 半数は人間用に詰め替えるまでの一時保管場所です。

 もう半数は、炎竜がウオッカを気に言ってしまった時に、万が一にも悪酔いして暴れ出してもいいように、人間の居住地域から離したかったのです。

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