第34話:テレポートかゲートか
「少し気が重いですが、仕方がありません。
毎日戻ってきますが、留守の時間は頼みましたよ」
俺は仕方がなしにヒューズ侯爵家を滅ぼす遠征にでました。
あれだけ王家を脅して、強制的に叛臣を粛清させたのです。
今更ヒューズ侯爵家を滅ぼすのは止めた、とは言えません。
国王はよほど怖かったのでしょう。
王子を含む十四人の王族と、侯爵を含む三十八人の貴族を粛清しました。
酷い抵抗を受けないように、当主が責任を取って死ねば、その他の罰は与えずに後継者に爵位と領地を継がせる条件でした。
国王がそこまで譲歩しているのに、二十三家もの貴族家が叛旗を翻しました。
絶対王政と言えるほどの権力集中ができていないのです。
貴族連合の盟主的な王家なのです。
ただ、叛旗を翻した貴族のほとんどが王都よりも北に領地をもっていました。
前回俺が竜を率いて遠征した行程の貴族家は、一家もありません。
竜を率いた我が家の使者が使った行程の貴族家も、一家もありません。
それどころか、王家が謀叛貴族を討伐するために集めた貴族の主力は、我が家の竜を間近に見た事のある貴族家ばかりでした。
王家に従った貴族は、我が家の竜に蹂躙されるのは嫌だったのでしょう。
死力を尽くして戦ったようで、謀叛を起こした貴族家はほぼ滅ぼされました。
唯一残ったのがヒューズ侯爵家です。
周辺貴族が全て王国軍に滅ぼされたのに、ヒューズ侯爵家だけが滅ぼされなかった理由は簡単です。
我が家が併合を宣言しているからです。
勝ち組は、我が家を心底恐れる王家と貴族ばかりです。
勝ち戦で領地が増えるのに、自滅を選ぶわけがありません。
「この辺で良いでしょう。
一里塚を埋めてください」
「「「「「はっ!」」」」」
今回は次期伯王として公式に王都を訪問します。
俺だけではなく、士族級の従者や騎士も同行しています。
脅迫用の中型肉食亜竜だけでなく、中型草食亜竜の輓竜と走竜もいます。
それ以外にも平民の雑用係もいるのですが、彼らに一里塚を埋めさせます。
普通なら王都を基準に一里塚を埋めるのでしょうが、この国にそんな知識の考えもないので、伯国を中心として一里塚を埋めるのです。
ただ、日本でも昔はそうだったのですが、正確な距離によって埋めるのではなく、旅する者が一定時間で歩ける距離によって埋めるのです。
馬車が速度を出せるような、道幅が広く整地されている街道と、細く荒れた上り坂では、一定の時間に歩ける距離が全く違います。
正確な距離を知らしたいのではありません。
実際に道を歩いている人が、陽が暮れる前に次の村に着けるように、安全に移動ができるように、一里塚を埋めるのです。
ただ、人々のためにだけ一里塚を埋めているのではありません。
自分の為にも埋めているのです。
毎日領地に戻ると言って出てきましたが、身体強化で帰るのではありません。
亜空間魔術の一種、テレポートやゲートを使って通うのです。
身体強化だと、領地と旅先を移動できるのは俺だけです。
テレポートやゲートだと、他の人も移動させられます。
家臣領民なら無理に移動させる必要ないのですが、中型肉食亜竜だと、移動させられないと食事が問題なのです。
中型肉食亜竜には肉を与えなければいけません。
我が家が家畜を買い占めた影響で、王都までの領地に余分な家畜はいません。
我が家から大量な家畜を連れて移動しているのですが、これは中型肉食亜竜の餌ではないのです。
今回の懲罰遠征は、ヒューズ侯爵家を滅ぼして併合するのが表向きの理由です。
ですが、他にも大切な目的があるのです。
ゲヌキウス王国の王侯貴族を脅す事ではありません。
カルプルニウス連邦の領邦国家との友好を深める事です。
カルプルニウス連邦の領邦国家が、我が家を畏怖して従属してくれれば言う事ありませんが、今はまだそこまで欲張ってはいません。
先ずは友好国になるために、直接交易を行うのです。
領民が大量餓死しかねない状況の領邦国家に、大量の家畜と穀物を持ち込み、高値で売る事から始めます。
友好国になるのが目的なら、食糧は支援か貸与すべきだと思われるかもしれませんが、それでは我が家が軽く見られてしまいます。
国と国、貴族と貴族の関係は、常に勝負なのです。
今我が家は強大ですが、何時弱体化するか分かりません。
長期保存ができる食糧を無償で支援するなど、絶対に許されません。
領民のために保存しておくのが領主の務めです。
貸与していても、我が家が弱体化すればネコババされてしまいます。
どのような状況になろうと損をしないようにするのが貴族です。
追い詰められたとしても、できるだけ損を少なくするのが貴族なのです。
話がそれましたが、肉にしても牧草にしても、無駄にはできません。
特に中型亜竜が食べる量は物凄く多いのです。
魔素の影響で成長の早い地竜森林を利用するのが一番良いのです。
「ここと地竜森林の近くをゲートで繋げますから、順番に戻りなさい」
「「「「「はい!」」」」」
俺は一瞬で野営先と領地の間にゲートを繋ぎました。
簡単にやっているように見えるでしょうが、本当は物凄く難しいのです。
現在いる場所は何の問題もないのですが、繋ぐ先をイメージするのがとても難しく、失敗すると全く違う場所とつないでしまうのです。
それが地中だったり海中だったりすると、命の危機です。
もっとも、普通はそんな失敗をする事はありません。
足の着く地面と、ある程度広さのある場所をイメージしますから、失敗したとしても似たような場所と繋がります。
ゲートで間違えないのが、出先から領地のどこかに繋ぐ時です。
よく覚えている場所を間違えたりはしませんから。
間違えて繋ぎやすいのが、あまり行った事のない場所です。
急いで領地から遠くに行かなければいけない時に、間違いやすいのです。
だからこそ、一里塚を敷設しているのです。
今いる場所から某街道の何里塚までゲートを繋ぐと思えば、その場所を明確に思い浮かべなくても、ゲートをつなげられる事が分かったのです。
そういう事情なので、俺は行程にある貴族や領主騎士家に滞在しませんでした。
一里塚を敷設する野外でキャンプを張りました。
それに、腹に一物も二物もあるような貴族や領主騎士の家など、絶対に泊まりたくありません。
命を狙われるならどうとでも対処できます。
いえ、それこそ一族一門を瞬殺できます。
問題なのは、俺に媚び諂う連中の相手です。
いえ、俺を色仕掛けで骨抜きにしようとする女達が嫌なのです。
敵が男なら、何の躊躇いもなく殺せます。
女でもどうしても必要なら殺しますが、できればやりたくないです。
特に、自分の欲望を満たす為ではなく、家のために意を決して身を任せようとする令嬢は、殺したくもなければ恥をかかせたくもないのです。
「公子殿下、お風呂の用意ができているそうですが、いかがなされますか?」
「竜の餌やりが終わったら入ります」
「はっ!」
最近家臣達が俺の事を公子殿下と呼ぶようになりました。
男爵家の当主よりも、準王家の後継者の方が地位が高いと思っているようです。
伯王家は、とてもあやふやな存在で、認めてくれない人も多いでしょう。
特に旧教徒の勢力圏では、完全に無視されると思います。
ですが、家臣領民には誇りなのでしょうね。
だとすると、少々無理をしてもヒューズ侯爵領は確保しなければいけません。
王家に、伯王家の時と同じように、完全独立権を認めさせれば、カルプルニウス連邦の領邦国家と同じように、侯王を名乗る事ができます。
ただ、ゲヌキウス王国内だけの認定では教皇はもちろん旧教国家も認めないでしょうから、カルプルニウス連邦にも認めさせなければいけませんね。
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