第33話:脅迫外交
「公子殿下、国王陛下は何も知らなかったのです。
ヒューズ侯爵が勝手にやった事なのです!」
家宰のフラヴィオは、言葉通り国王を思いっきり脅しました。
御者騎士に慣れた輓竜を、十頭も王都に派遣して震え上がらせました。
王国の制止も詫びも聞き入れず、王都王城の城門を三つも粉砕しました。
輓竜は二・五トンの中型草食亜竜です。
地竜森林の中では、中型肉食竜に敵いませんが、人間界に出れば災厄です。
王家が誇る堅牢な城門であろうと、軽く体当たりするだけで粉々です。
そのような脅しをかけられた後で、我が家からの最後通牒が送られました。
滅ぼされたくなかったら、全面的に詫びるしかありません。
元主君に、いえ、家は伯国だから、国王は主君ではなく盟主になるのかな?
盟主に頭を下げて詫びてもらっているのに、問答無用で滅ぼすのは外聞が悪い。
こちらがそう思うのを期待して、特使を送って詫びているのです。
「国王陛下ともあろう方が、家臣に好き勝手されたから知らないと言われても、はいそうですかと納得できませんよ。
成功した時には侯爵から分け前を貰い、失敗した時には侯爵に罪を押し付ければそれですむ。
そう考えていたとしか思えません」
「そんな事は絶対にありません。
全てヒューズ侯爵が私利私欲から独断専行したのです」
「そんな権威も実力もない王家なら、なくても良いですよね?」
「公子殿下、フェルディナンド公子殿下!
多くの事情と思惑があり、親切心だけではなかった事ですが、王家はマクネイア伯王家に安住の地を与えました。
その旧恩に免じて、今回だけは怒りを鎮めていただきたい。
もう二度とマクネイア伯王家に迷惑はかけません」
これくらい脅かしておけばいいでしょう。
正使と二人の副使が心底詫びているのは分かります。
王都に残っている連中の事は、後で手を打ちましょう。
「旧恩に免じて怒りを収めろと言われても、ヒューズ侯爵が無罪放免されては、とても怒りは収まりません。
ヒューズ侯爵を滅ぼすのは当然として、途中にいる王侯貴族を全て滅ぼさないと怒りは収まりませんよ」
「ヒューズ侯爵には隠居させ、次期当主に幽閉させます。
毎年の税収の半分を百年間納めさせます。
ウェストベリー侯爵と同じ処分をしますので、それで怒りを収めてください」
「その処分が甘過ぎたと反省しているのですよ。
何をやってもその程度で済むと思うから、舐めたマネをしてくれる。
平民を使って準王族を騙そうとするなんて、絶対に許せません。
どうしても許せと言われるのでしたら、全面戦争です。
あ、いえ、同じ様に平民を使って騙して差し上げましょう」
「……平民を使って騙す、ですか?」
「我が家の平民の中には、竜が扱える者がいるのです。
竜を売ると言って王侯貴族や王都の民に近づき、王都の中に竜が入った途端に暴走させたら、王都王城の中にいる者はことごとく食い殺される事でしょう。
平民に騙されて竜に喰い殺され、情けなく滅んだ王家として、未来永劫馬鹿にされ、語り継がれる事でしょうね」
「公子殿下、どうかそのような恐ろしい事はお止めください。
王家も、王国も、できる限りの詫びを入れさせていただきます。
人質を送れと言われるのでしたら、第一王子でも王女でも送らせていただきます。
王に退位せよと申されるのでしたら、戻り次第退位していただきます。
どのようにすればお許しいただけるのか、はっきりと言ってください」
「そうですね、伯王家から盟主である王家に、退位しろとか人質を寄こせなんて言えませんが、家臣のやった事だから責任は取らないと言われては戦うしかありません」
俺の言葉を三人使者が食い入るように聞いている。
こちらの出す条件を一言一句聞き逃さないようにしています。
少し遠回しに話してあげましょう。
「家臣でない者が勝手にやった事なら、ゲヌキウス王家に責任は問えません。
家臣でない一族を皆殺しにしようが、領地を奪おうが、ゲヌキウス王家が文句を言わなくても、他国に恥をかく事もないでしょう」
「……何があっても、ヒューズ侯爵一族は皆殺しにされる。
領地も奪うと申されるのですね?」
「はい、温情をかけても、つけあがるだけだと思い知りました。
ゲヌキウス王国の王侯貴族には誇りも無ければ知恵もない。
文句はありますか?」
ギャアアアアアオン!
使者達が恐怖に打ち震えます。
タイミングよく竜が威嚇してくれました。
嘘です、俺が威嚇するように心の中で命じたのです。
謁見の間には俺が飼いならした竜達がいるのです。
中型亜竜では大き過ぎますが、小型亜竜なら入れるように造ったのです。
今日はブレイン男爵領にある領主館で謁見をしています。
マクネイア伯王家としての謁見ですが、北砦や八の村では謁見しません。
両方とも以前とは比較にならない状態で、他家には見せられません。
それに、今回の件は俺に一任されています。
俺はマクネイア伯王家の次期当主ではありますが、ブレイン男爵家とマーガデール男爵家の当主なのです。
ブレイン男爵家の領主館も、以前の領主館から一変しています。
北砦、中砦、南砦の防衛力を強化する意味でも、大量の大理石を切り出しました。
多くは東竜山脈の村の発展拡大に使いましたが、一部は領主館にも使ったのです。
全大理石製の白亜の宮、それが今のブレイン男爵家領主館です。
王家の城としてはとても小さいですが、美しさと上品な豪華さでは負けません。
炎竜のブレスで焼かれて出来たという大理石は、角度によって七色に光るのです。
その美しい姿だけで、ゲヌキウス王家の使者を圧倒できます。
長年ゲヌキウス王国の王城で務めていたからこそ、ブレイン男爵家領主館の凄さ美しさ異様さが分かるのです。
「あ、あ、あ、あり、ありません」
「ありません」
「な、なんの、異論もありません」
正副三人の使者がガタガタと震えながら俺の意見を受け入れました。
「では、戻ったら直ぐにヒューズ侯爵家を追放するのですね」
「はい、追放の使者を送らせていただきます」
「あの、追放しても領地から出て行かない時に、王家に処分はあるのでしょうか?」
少し度胸の有る副使が確認してきました。
俺に更なる難癖をつけられないようにでしょう。
「王家に家臣を従わせるだけの威がないのは仕方がありません。
ヒューズ侯爵家が追放命令に従わなくても怒ったりはしませんよ」
使者達が安堵の表情を浮かべますが、これで終わりではありませんよ。
「ただ、俺がヒューズ侯爵家の討伐に行く途中で何かあれば、王家にも責任を取っていただきます」
「あの、何かあればと申されましても、ヒューズ侯爵が一か八かの襲撃を行うかもしれませんので、責任を取れと申されましても……」
「本当にヒューズ侯爵家の攻撃ならば、王家に責任を求めたりはしません。
ですが、ヒューズ侯爵家の攻撃に見せかけて、王族や貴族が襲ってきた場合は、王家にも責任を取っていただきます」
「それは……」
「やはりですか。
王族や貴族の中には、いまだに俺に勝てると思っている馬鹿がいるのですね。
使者の方々もその事を知っているのですね?」
「「「……」」」
「認められないのなら、襲撃は国王の陰謀としますが、それでいいのですね?」
「それは違います、愚か者が勝手にやっているだけです」
「公子殿下もご存じだから、今指摘されたのですよね?!」
「知っていて陛下に責任を求められるのは、いかがなものでしょうか?」
俺を怒らせたくないので、はっきりとは言わないですが、力を背景にした酷い脅迫だから、考え直してくれと伝えていますね。
ですが、この程度の圧力は、ずっと我が家に与え続けてきたと聞いています。
力関係が逆転したのですから、復讐するのは当然です。
「そうでしょうか?
父上達はずっと同じような事を求められていました。
同じことを求めるのを、恥ずかしく思う事などありません」
「公子殿下、これまでの事は、この通り、お詫びさせていただきます」
「陛下にも詫びていただきます」
「どうか、寛大なお心で詫びを受け入れていただけないでしょうか?」
やっと俺が本気で王家を滅ぼす気だと思ってくれたようです。
年齢と言葉遣いで舐められてしまうのでしょう。
もう帰ってもらってもよさそうです。
「もう王都に帰られた方が良いでしょう。
俺が王都を経由してヒューズ侯爵家を滅ぼすまで時間がありません。
それまでに国王陛下の命に従わない叛臣を滅ぼしておかないと、陛下だけでなく、王都に住む全ての王侯貴族が喰い殺される事になりますよ」
ギャアアアアアオン!
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