第10話:親子鷹
「よくやってくれた、フェルディナンド!
領地を離れている間にこれほど良くなっているとは思わなかった」
俺が発見した塩場を見た父上が、また手放しに褒めてくれます。
家臣を前にして褒めちぎられると、思わず赤面してしまいます。
父上は塩場から一の村にまで岩塩を運ばれた後で、人工塩場を作った村から500メートルの所まで登ると言いだされました。
「お疲れではありませんか?」
「何もなさ過ぎて、魔力が余ってしまうほどだ」
父上にそう言われてしまったら仕方がありません。
塩場を深く掘り返して、父上でも全力を出さないと抱えられないとても大きな岩塩を一の村まで運ばれましたが、父上にとっては大した負担ではないのでしょう。
人工塩場についてからの父上は無双でした。
大きな赤茶熊が塩場を占領していたのですが、瞬く間に狩ってしまわれました。
しかもその大きな赤茶熊を独りで一の村まで運び下ろされたのです。
これで三頭目の赤茶熊ですが、一の村では初めての獲物です。
肉は村民に公平に分けられるのですが、とても強い滋養強壮効果があるのです。
毛皮は我が家で使う事になるでしょう。
熊胆も我が家の物として交易の商品にされるでしょう。
「もう一度行くぞ。
赤茶熊がいなくなったら、草食が集まっているかもしれない。
ついてくるのは気配を消せる奴らだけだ」
一度で満足される父上ではありませんでした。
確実に獲物が集まるのなら、何度でも狩る貪欲さを持っておられるのです。
こういう性格だからこそ、恐ろしく危険な地竜森林で、領民を養えるだけの獲物を狩り続ける事ができたのでしょう。
「うわっはっはっはっ、森でもないのに大猟だったな!」
父上はとてもご機嫌でした。
一の村についてから陽が暮れるまで、何度も人工塩場と村を往復されて、その度に大量の一角羚羊や大角鹿を狩られたのです。
熊胆に匹敵するくらい高価な鹿茸が結構な数取れました。
八の村に着くまで同じ調子で狩れたら、今回の長距離遠征買い出しで使った資金を、短期間で回収できるかもしれません。
いえ、実は、もう回収し終わっているのです。
父上の恐ろしさをよく知っている王侯貴族は、商人に対するような、理不尽な関所料を徴収する事ができなかったそうです。
それでなくても利益の出る塩なのに、普通の塩商人よりも含み益が大きくて、売れば売るほど大きな利益がでたそうです。
売った塩の量と、関所料代わりに支払った塩の量だけ、新しい商品を荷車に乗せる事ができます。
事前に調べていた価格差の大きい商品を運ぶ事で、大きな利益がでたそうです。
そもそも、この地を出発する時に乗せていた、地竜森林産の野草や香草、薬草や干茸、俺が調合した生薬が莫大な富に代わっているのです。
今更慌てて金を稼ぐ必要などないとも言えますが、働けない家臣領民を養ってこられた父上は、稼げる機会を絶対に見逃されません。
「お前達はもう部屋に戻って寝ろ。
宿直も不要だ」
今夜も父子二人で語り明かすと言って、護衛騎士を遠ざけました。
俺が言っても許されませんが、領主である父上が言えば別です。
レオナルドを筆頭とした護衛騎士が別室に戻って行きました。
交代で夜の護りにつく宿直もいなくなりました。
「フェルディナンド、眠くないか?
疲れていないか?」
「大丈夫です、父上」
「だったら力を貸してくれ」
「はい、何なりとお申し付けください」
そこで父上は塩場を地底奥深くまで掘り返すと言われたのです。
父上の魔法だけでなく、俺の魔法も使って!
ごく限られた者しか知らない俺の魔法ですが、当然父上は知られています。
俺の魔力がほぼ無限だという事も知っておられるのです!
転生する前は、東洋医学の治療家でした。
当然経絡経穴の事をよく知っています。
魔力を経絡に流して、経穴で貯める事を試しました。
思い込みなのか創造力の産物なのか、それは俺にも分かりません。
ですが、やってみたらできたのです。
インド医学、アーユルヴェーダのチャクラと重なる経穴に、莫大な量の魔力が溜められたのです!
ラノベで学んだ方法は全て試しました。
布団圧縮器のように魔力を圧縮する事から始め、圧縮した魔力を奇麗にたたむ事で、さらに多くの魔力を貯める事ができました。
次に試した魔力の貯め方は、煮詰めて濃くするという方法でした。
これもラノベで知った方法ですが、見事に成功しました。
最後に試したのは、年齢を重ねた鍼師だから思いついた事かもしれません。
今では使い捨てのディスポーザブル鍼が主流ですが、昔はオートクレープで高圧蒸気滅菌して再利用していました。
そうです、魔力を煮詰めて板状にして、それを重ねて空気を抜いて貯めた後に、丈夫な魔力貯蓄器の中で高圧を加えて圧縮できると想像したのです。
やってみたら、見事にできました。
父上にも試してもらいましたが、知識と実践と創造力が必要なのでしょう。
高圧をかけて圧縮する方法は習得に失敗されました。
しかしながら、魔力を煮詰めて濃くする方法は、煮込み料理を作ってもらったり、薬草を煮詰めて濃くしてもらったりした事で、取得に成功されました。
濃くした魔力を折りたたんで余計な物を除いてコンパクトにする方法は、衣類を畳んで木箱に入れやすくするのを何度もやってもらう事で、取得に成功されました。
畳んでこれまで以上に溜める事の出来た魔力を、更に上から蓋をして体重を掛けて押し潰して無理矢理木箱に入れる。
何度も父上にやってもらう事で、取得に成功されました。
父上は俺から魔力を蓄える方法を学ばれた事で、今までの十倍もの魔力量に成られたのです。
以前から、この世界最高の身体強化魔法の使い手だった父上ですが、魔力が尽きたら歴戦の傭兵になってしまうのです。
自分一人なら生き延びられても、家臣領民まで守り切れるかといえば、不可能だったのですが、今は違います!
魔力量を気にする事なく戦えるようになられたのです。
魔力が尽きる前に休む事ができるので、戦闘継続時間は十倍ではきかないのです。
「さあ、有望な岩塩層を発見できるまで、諦めずに掘り続けるぞ!」
「はい!」
そんな父上よりも魔力の多い俺が、家臣の目を気にする事なく魔法が使えます。
父上が掘った事にできる状況になったのです。
父上は魔力器官が複数あるという想像ができませんでした。
だから魔力貯蔵器官は一ケ所だけです。
俺は、八つのチャクラを魔力貯蔵器にする事ができました。
百気圧を想像できる俺は、最低に見積もっても、今の父上の八十倍以上の魔力を蓄える事ができるようになっています。
昔の父上に比べると、八百倍以上の魔力を蓄える事ができるのです。
その魔力を惜しむことなく使って、一の村の下にある塩場を全て深く深く掘ったので、何とか岩塩層にたどり着く事ができました。
「オオオオオ!
流石フェルディナンドだ!
本当に塩がでてきたぞ!」
「成功です、父上。
大発見です、父上。
これで大遠征をする事なく塩を確保する事ができます。
量と純度を確かめなければいけませんが、砂や石の混じっていない、純度の高い岩塩がたくさんあるのでしたら、輸出できるかもしれません」
「そうか、だったらもっと掘らないとダメだな」
「はい、父上」
明日からの事も考えて、睡眠不足にならない範囲で塩場を掘りまくりました。
ですが、一の村の下方にある塩場には、石や砂がかなり混じった岩塩層しかなかったのです。
そんな岩塩でも、一度水に溶かしてから石や砂を除去して、炎竜砂漠の熱気で水を蒸発させれば、石や砂の混じらない純度の高い塩を作り出す事ができます。
ですが、それをすると、貴重な水を飲み水や農業用水以外で失う事になります。
どうしても必要なら断じてやりますが、今回に限っては必要なかかったです。
「父上、やりました、鹹水です、この下に鹹水層がありました!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます