第11話:天日製塩と地熱製塩
「昨晩、塩場を掘り返したら岩塩の層と鹹水の層があった。
我が家の有望な産業になるはずだ。
全ての塩場を探してからの話だが、一の村には総出で開発してもらうだろう」
「「「「「はい!」」」」」
それなりに有望な岩塩層と、とても有望な鹹水層が発見できたことで、伝令の驢馬が一の村から竜爪街道北砦に送られました。
父上と俺は、朝早く一の村を出発すると、そのまま塩場がある一帯にまで下りて、再度丹念に塩場がないか探しつつ、以前に発見した塩場を掘り下げました。
ただ、護衛騎士や荷運び役がいる前では、俺が魔法を使う訳にはいきません。
当然父上だけが魔法を使う事になります。
蓄えられる魔力が十倍になった父上ですが、何時敵が攻め込んで来るか分からないので、魔力を無駄遣いするわけにはいきません。
もう、最低限必要な岩塩層と、ラッキーと言える鹹水層を発見しているのです。
夜になれば俺の魔法で掘り下げる事ができるのです。
無理をする必要はありません。
ある程度塩場の位置を確かめたら、早々に二の村に向かいました。
二の村に着いて直ぐに、父子で疲れたと言って仮眠しました。
護衛騎士や駱駝を操る輸送係達は、父上が夜多くから明け方まで、多くの塩場を掘り返していたのを知っています。
彼らには、俺はただの案内役だと言ってあります。
有望な塩場を教えられるのは、塩場の存在など誰も知らない状態で、神の啓示を受けて塩場を発見した俺にしかできないと言ってあります。
だた、困った事があるのです。
とても役に立つ前世の知識はあるのですが、身体は七歳児なのです。
眠くなると、どうしようもありません。
いきなり電池が切れたみたいに意識を失ってしまうのです。
特に、大切なだと思って集中している時ほど危ないです。
熱中してしまうと、疲れている事や眠くなっている事が分からないのです。
ここぞという時に倒れるように眠ってしまいます。
今夜も父上と二人で塩場を掘り返すなら、お昼寝は絶対に欠かせないのです。
「今日もフェルディナンドと語り明かす。
護衛は不要だから、よく寝て明日に備えろ」
「しかし男爵閣下、今夜も塩場を掘り返されるのですよね?
それが分かっていて、護衛騎士が眠るわけにはいきません。
我々も同行させてください!」
父上の言葉にレオナルドが反論します。
「そうです、黙って寝てなどいられません」
「僕達にも何かさせてください」
「男爵閣下を護衛するなんて偉そうな事は言いませんが、側に居させてください」
「我々だって、少しくらいは掘るお手伝いができるはずです」
俺の護衛騎士全員が同じように反論します。
ですが、父上の護衛騎士達は何も言いません。
その表情からは、言っても無駄というようなネガティブな感情は見られません。
心から信じていて、言われた通りにした方が良いという感情が読み取れます。
「俺の言う事が信じられないのか?」
「いえ、そうではありません。
実の父とも慕う男爵閣下と若のお役に立ちたいだけです」
「だったら黙って言われた通りにしろ。
神の啓示を受けたフェルディナンドが、我ら二人で掘り返さなければいけないと言っているのだ!」
「はっ、余計な事を口にして申し訳ありませんでした。
そういう事でしたら、しっかりと休んで非常時に備えさせていただきます!」
父上の一喝で俺の護衛騎士達も反省してくれました。
侮られている訳ではないとは思うのですが、父上の比べると、どうしても命令に威厳が加わりません。
神の啓示だと口にすれば、何も言わずに命令に従ってくれるのでしょうが、地獄の官吏がミスした事で死んでしまったので、神や仏を信じきれません。
そんな神仏を使って人を説得するのが嫌なのですよね。
「寝不足と魔力の使い過ぎで少々疲れた。
フェルディナンドと一緒に八の村まで戻る。
塩を運び終えた者達は、岩塩を持って北砦まで戻れ。
北砦に戻ったら、駱駝に腹一杯水を飲ませて、一の村に岩塩を取りに行かせろ。
それと、一の村の鍛冶には手押しポンプを作るように伝えろ」
俺は父上は、二の村の下方にある塩場を掘り返しました。
一の村の下にあった岩塩層と同じくらいの場所を一ケ所発見できました。
ですが、柳の下の泥鰌は二匹もいませんでした。
二つ目の鹹水層を発見する事はできませんでした。
三の村から八の村に戻るまで、もう夜中に塩場を掘り返したりしませんでした。
体力と魔力に問題はありませんでしたが、睡魔には勝てませんでした。
何より、父上と俺は、別行動をする事にしたのです
「父上、俺は六の砦に行って色々試してみます。
母上には宜しくお伝えください」
「そうか、神の啓示を受けたのならしかたがない。
パトリツィアには事情を話しておく」
父上は、各村にいる狩人に塩場を案内してもらう事になっています。
俺は、一の村管轄の塩場から汲み上げた鹹水を使って、製塩実験をするのです。
製塩にも色々な方法があります。
揚浜式と入浜式の塩田が江戸時代の代表的な製塩方法ですが、それでは貴重な水が無駄になってしまいます。
火山島で作られている塩は、地熱で水を蒸発させて塩にしています。
炎竜砂漠なら、地熱と日光で簡単に鹹水から塩を作れるでしょう。
ですができる事なら、一旦蒸発させた水を再利用したいのです。
塩分濃度のとても濃い鹹水がありますから、北砦まで運んで、地竜森林で切り出した材木を使って製塩する事もできます。
その方が簡単だと分かっているのですが、諦めたくないのです。
六の砦は、昼間の強烈な日差しと地面の熱気に耐える為に、岩と日干レンガを厚く重ねた造りになっています。
雨が全く降らないので、雨、水分に対しての抵抗力がありません。
雨が降ってきたら、日干レンガと隙間を埋めた土が溶けで無残な姿になります。
いえ、内部で大量の水蒸気を作っても悲惨な事になります。
基礎となっている岩以外は溶けてなくなってしまう事でしょう。
本格的な製塩場にしようと思ったら、耐水性の強い建物にしなければいけません。
ですがそんな建物を今直ぐ用意する事はできません。
そこで、撥水能力の高い皮を張り付けた部屋を作りました。
色々な皮を試したのですが、毛皮では衛生面や撥水性で問題がありました。
一番有望だったのは、赤茶棘竜の皮でした。
毛が無く、水を全く通さない性質がよかったので、天井に張りました。
天井に張る方法は、真ん中を下げて蒸発した水分を集める形にしました。
蒸発した水分が集まって、ポツンポツンと落ちるところに貯水甕を置きました。
部屋の周囲には、赤茶棘竜の次に水分を通さない大岩蜥蜴の皮を使いました。
前世では、逆浸透膜を使って塩分を取り除き、真水を作る方法がありました。
海水淡水化事業が結構な規模で行われていました。
ですがここには、塩分を除去する逆浸透膜はないのです。
それに俺は、真水も塩も利用したいのです。
だから、鹹水を蒸発させて塩を作る広くて浅い岩板皿を作りました。
蒸気となった水分を集める深い貯水甕も作りました。
それらを組み合わせた部屋で、鹹水から塩と真水を作る実験を繰り返しました。
「どうだ、実験は成功したか?」
「父上、成功です、大成功です!」
「そうか!
よくやった!
万が一地竜森林を失う事があっても大丈夫になったのだな?!」
「はい、父上、もう地竜森林に頼らなくても大丈夫です。
塩や燃料が手に入らなくなっても、炎竜砂漠の砦と東竜山脈の村だけで、十分暮らしていくことができます」
三十日ほど試行錯誤を繰り返して、ようやく満足できる形になりました。
「ただ、大々的に行うには、できれば竜種の皮、最低でも大岩蜥蜴の皮が必要です。
砦の造りも水気に強いものにしなければいけません。
地竜森林がなくても何とかなりますが、できれば確保し続けたいです。
或いは、東竜山脈か西竜山脈に伐採用の林を作るかです」
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