第十五話 『襲来』
「起きて、起きて天寺くん!」
「――――むにゃ?」
次に気が付いた時、どうやら僕はリビングで眠ってしまっていたようで
隣にいた秋里さんに揺さぶり起された。
「見て、彫刻がッ――――」
起きてすぐリビングに置かれた例の彫刻がガタガタと音を響かせ振動していた。
もちろん彫刻は念の為に高梨さんの手で簡易的な結界の中に置かれていたのだが
――――この反応はただ事ではない。
そう思いソファから飛び起き、高梨さんを呼ぶ。
「高梨さん!」
「私も気が付いたわ」
「怪異が来たの?」
「ええ、それもかなりの大物が」
庭先に顔を出し空を見やると暗雲立ち込める中に赤い渦がいくつも出現し
異様な風が吹きすさんでいた。
「あれは鳥?」
一瞬、雲間から見えたシルエットからそれが鳥型の怪異だということは
なんとなく想像できた。しかしその大きさが尋常ではなく、鳥類としては
クジャクやダチョウのサイズ感に近い。
「黒煙鳥」
「それが怪異の名前?」
「どんな怪異なの?」
「――――はるか昔、九州全域で猛威を振るっていたといわれる怪異。
分かり易く言えば不死鳥の類に近いものね」
「不死身ってこと!?」
「いいえ正確には火炎系に類する出自で当時は火口付近に出没した怪異で、
そこから派生して怨念に取り付くようになったってところかしら」
「祓える?」
「ハッキリ言うけど無理ね。私じゃ力不足」
「昼間言ってた助っ人は?!」
「もうすぐ来てくれるはずだけど仕方ないわね」
高梨さんは意を決し戦闘態勢を整える。
「天寺くん、助っ人が来るまで私たちで持ちこたえるわ。
秋里さんと中へ」
「分かった。行こう秋里さん」
「うん」
そして再び秋里さんを連れて二階へ。
高梨さんから受け取ったお札を各所に配置し部屋に閉じこもる。
不意に窓から高梨さんの姿を確認したが、
どうやら現実世界の影響を考慮して自ら境界を展開してくれたようだ。
これなら生きていればどれだけ家が壊れようと問題はない。
「大丈夫、秋里さん」
「ええ」
怪異の出現で秋里さんの身体に異変がないかと心配したが
杞憂にだったようだ。
「それよりも高梨さん平気かしら」
「こればっかりは彼女を信じるしかない」
その時、外では戦闘が開始されたのか激しい光と共に轟音が
響き渡る。
と同時にガタリと廊下から音が鳴る。
何かが倒れたような音だがこの家の廊下にはそういったものは
置かれていないのは確認済みだ。
「何かいるのか?」
僕は秋里さんに部屋で待機するように指示し一人廊下へと出る。
廊下は突き当りにある窓から光で部屋よりは明るく
置き物もないので異物があることにはすぐに気が付いた。
――――間違いない、怪異である。
形状からして蛇の様な見た目をしている。
「(呪いに使われた怪異は一体じゃなかったのかッ!)」
蛇型の怪異はチロチロと舌を出し入れし
這うようにしてこちらに狙いを定めじりじりと廊下を進んでやってくる。
柔らかく細身の体を器用に使い貼り付けたお札の間をすり抜けて。
「(蛇と言えば毒……だよな。御守りがあるとはいえ体に巻き付かれでもしたら
一巻の終わりか)」
廊下に張ったお札を一枚剥がし手に持ち直し怪異に合わせて腰を落とす。
「いやこれじゃ心もとないな」
そう思いすぐさま上着を脱ぎ捨てそこにお札を貼りつける。
そしてそれを怪異に覆い被せようとするも――――
シャァーと飛び跳ねた怪異に腕を絡めとられる。
「(しまった!!)」
噛まれる――――そう思った矢先。
「天寺くん!」
パシンッと横から現れた秋里さんの持ったお札により蛇型の怪異は消滅した。
「秋里さん…………」
「良かった。間一髪だったね」
「…………どうして」
「そりゃ私のせいで誰かが死ぬのは嫌だったから。
私にとって人を助けるなんてそれだけの理由だよ。悪い?」
「いや、助かったよありがとう」
「どういたしまして」
差し出された彼女の手を握り立ち上がる。
だがホッとしたのも束の間。
ドゴーンと今宵一番の轟音と衝撃がが家全体を大きく揺らす。
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