第十六話 『危機』
家全体が振動した後。
衝撃音の原因である屋上へと急ぎ向かう。
するとコンクリート仕立ての屋上に叩きつけられた状態の
高梨さんを発見する。
「高梨さん!」
咄嗟に駆け寄ろうとするも不意に現れた怪異の姿に
足が止まる。
怪異はまさしく不死鳥の如く鮮やかな炎を身を纏った
赤い鳥でありその大きさも相まってか威圧感が尋常ではない。
鋭い爪や口ばしはその形状からいとも簡単に人の皮や肉を引き裂くのが
想像でき、その身に纏う業火はまともに喰らえばきっと骨すら残らない。
そんなのを相手を未だ五体満足でいる高梨さんを尊敬すると同時に
目の前に広がる絶望が否応なく心を蝕む。
隣ではぺたりと秋里さんが地面に腰を付けていた。
「二人とも離れてて」
「高梨さんもういいよ! もうやめて!」
「バカ言わないで。私はまだ負けてないわ」
ボロボロの状態ながらも彼女は有無を言わさず立ち上がる。
決して万全とは言えない状態であるものの、その瞳からは一切の
諦めは感じられない。
今回ばかりは相手の力量を鑑みて、前回のように手助けをすることも
憚られる。
「(不甲斐ないばかりだ…………)」
「そう気に病む必要はないぞ少年。君はよくやっているよ」
「――――!?」
直後、突如として背後に現れた一人の男性の言葉に驚き、ピクリと身体を
飛び跳ねさせる。
「やっときたんだ、灯哉兄」
「遅くなって悪かったね藍華ちゃん」
高梨さんが兄と呼び、高梨さんを藍華ちゃんと呼ぶその男は
袈裟姿や持っている錫杖から京条寺関係者なのは間違いがない。
しかし長い髪の毛を後ろでお団子にしている見た目然り、
話し方や声色からその漂々っぷりが伺い知れ、
とてもじゃないが高梨さんが期待していたような助っ人とは到底思えなかった。
「さてとそれじゃあ、早速不出来な妹弟子を助けてやるとするかな」
そういうと彼は僕の心配を余所に特段警戒することなく
高梨さんを庇うようにして怪異の前に身を晒す。
すると怪異は先程の落ち着いた様子から一変、
羽を大きく左右に広げ威嚇の態度を取る。
「いい霊力だ。それに人が増えて対処する優先順位を見極めるために
数秒大人しくする思慮深さも持ち合わせている。流石は噴煙鳥をルーツに持つ
鳥だな」
その様子を横目に僕は満身創痍の高梨さんを連れ
秋里さんのいる屋内に戻る。
「…………。高梨さんあの人は一体?」
「あの人は私の兄弟子で、あの八雲さんの一番弟子だよ」
次の瞬間、巨大な火炎が空中に発生。
それが高熱の槍となって兄弟子、灯哉さんの上に降りかかった。
直撃すれば火傷では済まない威力。
現にコンクリートの床が熱で溶解しているのがいい証拠だ。
しかし不思議なことに灯哉さんは身動き一つしていないにも拘らず、
彼の身体には火の粉一つですら掛かっていない。
一体どういう原理なの素人の僕では全く理解できない。
「これで終わりか?」
すると灯哉さんはそのまま錫杖をぶん回し、
その先で黒煙鳥の顔面を殴打する。
その衝撃は只の打撃というには些か無理があり、
目には見えない衝撃が加えられているかのような
凄まじい威力を発揮する。
「それ!」
空中に逃げようとする黒煙鳥をものともせず、
屋上に設置された柵を足場に連続して打撃を加え続ける。
その姿はまさに圧巻であり、空気が振動するのを肌で感じつつ、
僕たちはただその光景を終始見ているしかできなかった――――。
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