第十二話 『秋里家訪問』
ファミレスを出てしばらく。
僕たちは秋里さんの家へとやって来ていた。
「ここ本当に秋里さんの家?」
「――――? そうだけど」
高級住宅街の一角。
その中でも一際目立つ大きな建物に入る彼女を見て
僕と高梨さんはあんぐりと口を開ける。
「どうしたの二人とも。さ、入って入って」
そうして秋里さんに促されるがままに両開きの門扉を通り、
玄関から家の中へと入る。
「お邪魔します」
そう言葉にする高梨さんもまた僕と同様にこの大きな家に対して
少し緊張した様な雰囲気を滲ませる。
「秋里さん家ってすごいお金持ちだったんだな」
「んーまぁそうだね。普通の家庭よりは多少裕福かもね」
「ご両親は?」
「両親は今、二人とも入院中」
「入院って何かあったの?」
「ついこの前交通事故に遭ってね。あ、でも命に別状はないからそこまで
心配しなくても大丈夫」
「それじゃあこの家には今、不知火さん一人で住んでるの?」
「そういうことになるね。とはいえ元々二人とも家を空けることが多かったし
生活自体はほとんど変わらないんだけどね」
そうして僕たちはリビングへ通されるとそこにあった高級そうな
ソファの上に腰を掛ける。その間、秋里さんは例の人形を取りに行くと言って
一人二階へと向かった。
秋里さんがいなくなり一時的に二人きりとなったこのタイミングで
僕はチラリと高梨さんの方を見る。
なんというか普段よりソワソワとしていて落ち着きがない様子だ。
「もしかして緊張してるの?」
「え! あ、いや、そういう訳じゃないけど!」
と一瞬取り繕うとするも、思った以上に上手くいかなかったからか
高梨さんは数秒ほどアワアワとした後、観念したかのように口を小さくすぼめる。
「実は私、同級生の家って来たことなくて…………」
「そうなの?」
「うん」
「一度も?」
「一度も」
「へぇ」
これまた意外な事実に僕は内心驚きの声を上げる。
何故ならクラスのマドンナである彼女には僕とは比べ物にならない程に
男女ともに友人が多い印象がある。
だがよくよく考えてみれば、夜な夜な祓屋としての仕事をしているのなら
友達と遊ぶ時間はほとんどないのだろう。
そう考えると彼女がソワソワしているのもなんとなく納得ができる。
「(というか普段あれだけカッコよくて頼りになる高梨さんがソワソワしている
のってめっちゃ可愛いな……!? これぞギャップ萌えというやつか!)」
なんて不純なことを考えているとリビングに面する階段から
秋里さんが例の人形を持って現れた。
それを見た瞬間、僕は言いようのない悪寒が全身に駆け巡り、
その場にとても嫌な感覚が押し寄せて空気が重くなったのを感じとった。
そしてそれは高梨さんも同じだったようで、彼女もまた表情を強張らせていた。
「「――――!?」」
そしてそれは高梨さんも同じだったようで、唐突な空気の変化に
二人で顔を見合わせる。
「やっぱり二人とも分かる人なんだね」
「というと秋里さんも感じるのか?」
「霊感っていうのかな。そういうのは昔から強い方だと思う」
「これは――――」
秋里さんがテーブルに置いた人形を見て高梨さんが目の色を変える。
「秋里さん、この人形触ってみてもいい?」
「ええどうぞ」
秋里さんの許可を取り高梨さんは人形に触れる。
すると彼女は唐突に人形が着ていた洋服を脱がせ始める。
「ちょ、高梨さん何してるの!?」
僕の制止を意にも返さず彼女は洋服だけでは飽き足らず人形の外郭を外し
内部を露にし、そして人形の中から何かを取り出した。
それは木彫りの小さな彫刻であった。
「これは?」
「恐らくこれが呪いの元ね」
「…………人形自体が原因じゃなかったんだね」
「――――秋里さん、これ親戚から譲り受けたんだよね?」
「ええ」
「入手元って分かるかしら?」
「多分分かんないと思う。結構古いものだし元の持ち主も亡くなってるから」
「そう」
「でもこれって供養とかすればもう安心なんじゃないの?」
「いいえ残念ながらそれはダメね」
「どうして?」
「これが呪いの類なのは間違いないとしても、これは単なる媒介物でしかない。
そうなるとただ供養やお祓いをしても意味はないわ」
と、高梨さんは続ける。
「それにこれは推測だけど、取り付いているのは秋里さんの家系そのものだと
思う」
「私の家系…………?」
「それってどういうこと?」
「――――これは憶測なんだけど。例えば秋里さんのご先祖様が何か呪術的な
禁を犯したとか、もしくはそれに類する呪いを受けたんじゃないかと思う」
高梨さんのその言葉に秋里さんは先程とは打って変わり消沈した表情を浮かべる。
その心中は察するに余りあるものだった。
「大丈夫だよ秋里さん。何か方法があるはずだ。そうでしょ高梨さん」
「助ける方法はあるわ。ただ――――」
「ただ?」
「かなり危険。それこそ私一人では手に負えない」
「なら八雲さんにでも相談すれば」
「生憎、師匠は今県外」
「そんな――――」
「けれど助っ人となら一人心当たりがあるわ」
そうして高梨さんはスマホを取り出し早速何処かへと連絡を入れる。
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