第十一話 『露呈した秘密の先』
翌日。
僕は放課後、高梨さんに許可を取り滝谷と二人、屋上で話すことになっていた。
「よぉ」
屋上に着くと先に来ていた滝谷が静かに呟く。
さっきまで同じクラスで授業を受けていた僕たちだが、滝谷は僕に気を使ってか
いつものように気さくに話しかけてはこなかった。
それに対し僕も平然とした顔で過ごしていたわけで…………
なのでこれが今日、滝谷とのまともな会話となる。
「とりあえず隣座れよ」
「あっ、ああ」
滝谷に促されるがままにいつの間にか準備されていたカラーベンチに腰掛ける。
「飲むか?」
「あ、いや遠慮しとく…………」
「そうか」
滝谷は自身で差し出した缶コーヒーのプルタブを開け、そのまま中身を意へと
流し込む。その様子を横目に僕はどう話を切り出したものかと、頭の中のメモリを
目一杯に使って思考する。
そんな僕を見かねてか終始落ち着いた態度を続ける滝谷が先に口を開く。
「高梨さんに聞いたと思うが、あの少年。俺が無事に京条寺に届けておいたぞ」
「そうか。助かったよありがとう」
「――――それで昨日のことだが、宗はあそこで一体何をしていたんだ?」
「それは――――」
そうして僕は滝谷に今まで起きたことを全て話した。
まずは僕の身体の異変について。そして高梨さんとの出会いと八雲さんとの会話。
それらの話を滝谷は時折相槌を交えつつも最後まで黙って傾聴した。
「ということなんだけど――――」
粗方の事情を説明し終えた後。
しばらくの間、滝谷は黙り込み、熟考する様子をみせる。
当然だろう。僕とて自分で話してみてまるで現実味がない。
むしろ全部夢だった方が良かったのではないかと思わなくもなくはない。
しかしそこは僕の友人と云うべきか――――彼は予想だにしない返答を口にする。
「面白い」
「は?」
「面白いよ」
冗談だと思っているのか滝谷は顔色一つ変えずにそう言い放つ。
「作り話だと思ってるのか?」
「いいや。むしろこれが作り話ならこんな気持ちにはならないよ」
「――――どういうことだ?」
「これ、本当の話なんだろ?」
「あぁ」
「だからだよ。こんな奇天烈なことがこの現実にあるなんてな。
現実は小説よりも生成りとはよく言ったものだよな」
「信じるのか、今の話を――――」
「だって全部真実のことなんだろう?」
「それはそうだけど…………」
「俺は今、オカルトマニアとしてお前と友達をしていて良かったと
心から思っているよ」
「それは――――なんというか複雑な気分だな」
「ははは、だろうな」
僕的にはかなり覚悟のいるカミングアウトだったのだけれど、
滝谷はそんな僕の胸中を察することもなくいつも通りのテンションで
言葉を続ける。
いや、むしろ滝谷のこと裏表のなさが今はただ有難い。
「それでこのことなんだけど――――」
「もちろん誰にも言わないよ」
「付いてくるのもなしだぞ?」
「分かってるって。そもそもこんな突拍子もない話をブログに書いたところで
数字は取らないからな」
すると滝谷はニカッと笑顔を浮かべる。
「それに折角友達がクラスのマドンナと仲良くなったんだ、二人の邪魔をするのは
野暮ってもんだろ」
「おいおい、僕と高梨さんはそんな関係じゃないぞ」
「でも満更でもないだろ」
「まぁ、それは否定できないが」
放課後の屋上。
人払いの結界があるとはいえ人目も憚らず二人気楽に笑い合う。
友達の少ない僕にもわかる。
きっとこれがいい友人関係というやつなんだろうと。
「――――とはいえ丁度良かった。実はこういう話ができる相手を探していたんだ」
「? どういうことだ?」
そう尋ねると滝谷はふざけた態度をやめ、缶コーヒーをベンチに置く。
そして今度は先程とは打って変わって真面目な表情へと一変する。
「…………実はな、今ある人から相談を受けているんだ」
「怪異がらみか?」
「多分。ほら俺ってオカルトマニアってこと公言してるだろ。だから偶にそういった
相談とかも請け負うんだよ。といっても大体は冷やかしか勘違いで大した話では
ないんだけどな」
「今回は違うと?」
コクリと滝谷は頷く。
「宗は隣のクラスの秋里来海って分かるか?」
「秋里なら一年の時同じクラスだったけど――――もしかして相談者って彼女?」
「そう。とはいえ俺から話を広めるわけにもいかないからあとは
本人から聞いてくれ。彼女の方には俺から伝えとくよ」
「そういうことなら高梨さんには僕から伝えとく。きっと力になってくれるはずだ」
そうして滝谷も僕の秘密の共有者として加わると同時に、
僕は以前のクラスメイトであり怪異の相談者という秋里来海に
会うことになった。
◇
それから滝谷との話から日を改めたある日。
僕は高梨さんと一緒に学校近くのファミレスで秋里さんを待った。
「お待たせしましたー」
ファミレスに入って数分後。
パタパタと足音を立てながらおっとりとした女性が現れた。
今回の相談者、秋里来海だ。
「秋里さん久しぶり」
「天寺くん、一年の時以来だね」
秋里さんは僕との挨拶を済ませると
高梨さんにペコリと頭を下げる。
「こんにちわ高梨さん」
「こんにちわ秋里さん。話すのは初めてよね?」
「そうだね」
「もしよかったら何か注文する?」
「じゃあアイスティーを」
秋里さんが席に着き注文した飲み物が来たことでようやく
場に落ち着いた空気が流れる。
「滝谷から聞いたんだけど、何か悩んでるんだって?」
「そうなの。天寺くんと高梨さんはそういうの詳しいんだよね」
「僕がというよりは高梨さんがね」
「へぇなんだか意外」
「だよね、僕も最初はビックリした」
「そういえば最近二人仲いいけど、天寺くんも相談者なの?」
「一応ね」
「そっか」
するとタイミングを見計らってかズズ―とストローでジュースを飲んでいた
高梨さんが口火を切る。
「それで相談っていうのは?」
「あ、えっとこれなんだけど――――」
と秋里さんはスマホで一枚の写真を見せる。
そこには何の変哲もない人形が一体だけ映し出されていた。
「人形?」
「この人形、半年前に親戚経由でうちに来たんだけど、そのなんていうか」
「不幸が絶えない?」
「そう、それ! 実を言うとこの人形を持った人たちが次々に事故に遭ったり
病気になったりしてるの」
「呪いの人形ってこと?」
「可能性はあると思う」
「(――――ふむ)」
呪いの人形。
オカルト話だと呪いのビデオや絵画と並んで定石でありきたりな話ではある。
しかしありきたりだからと言って危険度が低いかといえばそうではないだろう。
それこそ今回のように実際に実害があるのなら尚の事だ。
「どう思う高梨さん?」
「こういうのは写真では何とも――――よければ実物を見せてもらえないかしら?」
「構わないわよ」
ということで僕たちはファミレスを後に秋里さんの家へと向かうことになった。
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