六月

06.05|抜歯

 

切開して親知らずを抜くことになった。


横倒しになった親知らずとわたしはもう、だいぶ長い付き合いだが、わたしはそんな親知らずのことをちゃんと認識したことがない。認識というか認知というか、なんにせよ「ああ、そこにあるんだな」くらいの感覚でしかない。生えている位置的にどうしてもときたま虫歯になってしまう野郎と。


そんな彼と今日お別れをする。


わたしの胴体からそれが抜き取られる以前/以後が今日発生する。


などと、わざわざこんな風なせりふ回しで云々を書いてみたが、書いたところで別にそんな特別な関係性でもないわけだから、わざわざ言及することもない。とりあえずいま気になるのは、治療を受けた結果として支払う料金がいくらかだ。


あごはどのくらい腫れるのだろう。いろいろ気になる。抜いた歯は持ち帰れるのだろうか。持ち帰れるのであれば、一応、保管はするかもしれないが、保管したところでどうなのよ、みたいな気持ちにも正直なる。「これが宮古遠の親知らずでございます。ほれ、ここにあるのが虫歯でございまするよ。黒点であります」などと変な云々を解説すればなにか、それっぽいか。たぶんそんなことはない。


わたしの親知らずというのはわたしにとって唯一無二の親知らず野郎であるが、親知らずはこの世の中に腐るほど存在しているのだ。俺って人と違うことやりたいんだよね、と語る人間が世界中にいるようなものだ。親知らず。さらばだサラダバー。そこになければないですね、くらいの精神でさっさと抜けてしまえよや親知らず。


いや、酷いことを言った。許せ親知らず。許せ。許すな。朝の適当なテンションのわたしに困惑するんじゃない親知らず。たぶんお前は喋らないが。わたしは喋るぞ親知らずゆるせ。すまない。とまあ結局のところ、適当をぶっこいただけであった。漠然としている。お昼なのに。

 

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