03.27|眼科

 

今年二月の中頃くらいから、劇場で映画をみたあとや家で部屋を暗室にして云々しているときなどに(映画鑑賞、起床時など)右目の端っこのほうでときたまぱっぱと光がちらつくようになった。ほんとうに不意に現れるので出るときは大変にびっくりする。のでかなり不快だったし、何故こうなるのだろうという漠然とした不安があった。


光の見え方の雰囲気として近いものを挙げるなら、自分の後方から突然、強い光をわーっと浴びせられたときの感覚が似ている。出る際に痛みだとか目の見え方がおかしくなるとか直後頭痛が発生するとかではないから大丈夫とは思ったのだが、いかんせんどうしても気になるし、自己判断で放っておいても不安のままだなと感じた。


ので、今日、三十歳になってからはじめて眼科を訪問することにした。ということで予約したのだが、予約として取れた時間が朝8:30~になってしまった。はやい。はやすぎる(地元にある眼科がそこしかないため、ぽかった)。


眼科だが、初診かつ目の症状故にしっかり検査を行ったため、診察に結構時間がかかった。疲弊だった。診察待ちをしている最中、いろいろな年代の方々がわーっと店内へ這入ってきては受付でいろいろを話してらっしゃるお声が環境音としてあったのだが、そのときの音の質感には妙な緊張感があった。アクリル越し+マスク越し+年代が上の方々が来者の主となるために、喋るお声がどうしても大きくなりがちだったからと思う(大きい音をわたしが苦手に思うせいであって、来者さんのせいではない)


途中、ちびっこが母親とやってきて、看護師さんに自分の有するチョコレートタブレットを自慢していたときの音だけが妙に可愛らしかった。じゃらじゃらと物品をみせていて、漠然と懐かしい心理になった。


そんなこんなで待った挙げ句、とうとう自分の番がやってきたのでわーっと看護師さんについてゆき、そこでわたしははじめて「ああ、目の検査のときにみる気球ってこれのことなのか」と自覚した。


ほんとうにこう、なんというか、一本の道のその先にぽつんと気球があって、浮かんでいて、上はびっくりするくらい青空で、といういかにもな丸い画像だったからびっくりというかたのしかった。例のあれだ、となった。こうしてわーっとなっている隙に、わたしの目のなんらかの画像を技師さんは撮っていたのかなと思う(間違っていたらすみません)


気球をわーっと眺めたあとは、目の眼圧を計った。こちらの機械に座った際、技師さんが「目に風を吹きかけますので」といわれたから「ほう」となった。目に風を吹きかける?吹きかけるってどういう感じだろう?いつくるのだろう、いつ、いつ、と思っていたら急に「プシュ」と風がきた。


あまりにも突然のタイミングだったので、身体がめちゃくちゃビクンビクンした。恥ずかしかった。ので、そのあとはせめてどうにか「ビクンビクンしないぞわたしは」と思いつつ風を待ったのだが、身構えたところでなんにもならず結局最後までビクンビクンした。完敗である。


なんともいえない気持ちのまま、次のお呼びがかかるまで待機することになったのだが、ちょうどそのとき、待合室にあるテレビの画面で「ラヴィット」という番組がやっていた。TL上でこの番組をみている方がいらっしゃるゆえになんとなく存在は知っていたのだけれど、実際に放映しているのをみたことがなかった。だから、「どういうノリなんだろう」と、ぼーっと画面内での一部始終をじいっとを眺めてみることにした。


そのとき番組内でやっていたのは「カラオケ対決」だった。歌の点数で競ってだれが一番であるかをわーっとした感じのふんわりしたノリで決めているらしい。この時点でなんというか、ヒルナンデスよりもゆるくて、よりバラエティよりなのかなと感じた。


正直、朝から芸人さんのカラオケ歌唱を眼科の待合室で眺めることになるのはなかなか胆力が必要だった。待合室に流れるリラクゼーションBGMと、芸人さんのお歌それも「奇跡の星」というチョイスかつ上手いのか上手くないのかわからない絶妙な塩梅のお声とがわーっと重なり合って、なんともいえない待合空間が生成されたのは間違いない。


その時点で個人的にはだいぶこってりな気分だったが、そのあと突然にドラゴンボールのバビディと魔人ブウとダーブラのコスプレをした三人衆が画面内に現れたからもうカロリーがすごかった。そのクオリティがまたなんというか、朝のこのちょっとした時間内で登場するにはもったいないくらいのものだったからいけない。ダーブラさんの似合い方がちょっともう異様だった。逆三角形のフォルムが非常に好印象で、おもしろかった。


途中、症状の聞き取りがかかって、その後の詳しい検査のために目の瞳孔を薬で開いている最中だったわたしは、状況が状況だったのもあり妙な気持ちになってしまった。そのあとに登場した悟空のコスチュームが、なぜか三者に比べると異様な程にクオリティが低く、ドンキで買ってきたのかしらと思うくらいの布の質感だったのがまた、味の濃さを加速させていた。しんどかった。


かつその方が悟空として「おまえがナンバーワンだ」と仰られたときのズレ感がまた絶妙に気まずくて、しんどかった。眼科にいって検査のために瞳孔を開いている最中に、やたらとクオリティの高いダーブラのコスチュームをみてはいけないと思う。白昼夢というのはこういう光景をいうんじゃないかとすら思えた。


この時点でだいぶ疲弊だったが、そのあともわたしはしっかりと追加の検査を行った。赤い十字の中心にでる緑の点を眺めつつ、技師さんと阿吽の呼吸でリズム天国がごとく瞬きを止め、目の中の写真を撮ったり、めちゃくちゃまぶしい、「ぼくらの太陽」にでてくるおてんこさまを目の中に「たいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」とぶち込まれているんじゃないかというくらいにやばまぶしいなにかを浴びせられつつ目の中の写真を撮ったりでまあもう、ほんとにしんどかった。


そうしてしんどかった挙げ句に告げられた診断結果は「異常なし」だった。光がちらつく理由があるとすると、映画鑑賞後の疲弊か、目の中の水晶体の、生理現象由来で発生するなんらか、とのことだった。異常がなさすぎて、症状を告知する先生の表情もどこか困惑していた気がする。


「ううん、ああ、その、そうねえ」となる先生にわたしはとりあえず「ありがとうございました」と云った。タイミング的にありがとうございますを云うタイミングでなかったので、とても気まずかった。良い感じのメガネの女医さんだった。真面目な先生だった。よい病院だった。瞳孔が開いたままゆえのまぶしさにやられつつ、歩いて帰った。自室でぼうっとするなかで眼科体験を思い返し、一番最初に浮かんだ感想は「あのダーブラはなんだったのだろう」という、光景に対する不理解だった。


という感じの眼科体験だった。なにもなくてよかったのだが、なんだかとにかく申し訳ない気持ちになった一日だった。なんにせよ異常なしでよかったので、以降は安心して過ごしたい。

 

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