自らの心臓、世界の心臓。

-N-

自らの心臓、世界の心臓。



 心臓が二つある人がいた。

 その人は自らの心臓が二つあることを知っていて、そしてそれぞれに名前を付けていた。

「自らの心臓、世界の心臓」であった。

 副たる臓と主機能たる臓とであり、副たるものを自らの心臓とした。

 世界の心臓は乱暴に言って神的な存在で、自らが文字通り世界とつながるのに必要であって、これは生来備わっているはずなのに、自分の臓器でないと思っていた。

 対して自らの心臓のなんたる小さな事か。サイズにして十分の一。身体にほとんど機能していなかた。だが、その人にとって、その心臓こそがまさに自分の心なのだと周りに話していた。

 なぜか?

 それは極めて世界に対して余りに自らが小さいのを自覚しているからだった。今にも消えてしまえる存在こそが自分であり、それこそが世界とのバランスのあり方なのだと。

 さて、いつか世界の心臓が動かなくなったら? その時は、宇宙に放り出された飛行士のように揺蕩うのみだと、小さな心臓は鼓動する。

 今日も二つの心臓は動く。

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