花様年華
シネマート新宿で一週間限定の再上映が行われている花様年華を観てきた。
入れ替わりでウォン・カーウァイ監督作品を上演してくれて、ポスターや作中のチャイナドレスの展示もあったり、コラボドリンクも販売していたり、香港のネオンのような「王家衛」の看板がデカデカとあったりと力が入ってるので行ってみてほしいな。
今年アカデミー賞受賞したエブエブでパロディがあったことで一部で結構注目されている本作。
あらすじだけ見ると大人の恋愛の不倫ものっぽく見えるけれど、そういうドロドロした感じは全くない。
プラトニックというには不器用すぎて、孤独な子どものごっこあそびのような触れ合いのように感じた。
舞台は60年代香港。騒がしいネオンと活気と動乱の街のアパートで、偶然同じ日に越してきた新聞社の男と社長秘書の女は、お互いの伴侶が不倫していることに気づく。
慰め合いか、当てつけか、ふたりはお互いの伴侶の好物を食べにレストランに出かけたりするうちに、一線は超えない特別な関係になっていく。
ふたりの交流が始まるまでの撮り方がすごくいい。
引っ越しで賑やかな廊下の隅から写していたり、棚の裏から電話している後ろ姿を見せたり。
会話にも常に雨音や近所の酔っ払いのカラオケが被ったりして不明瞭だ。
そして、お互いの伴侶の姿は全編通してほぼ全く映らない。
どこにでもあるアパートや街角でのひとびとを覗き見しているような感覚になる。
本作のタイトルの花様年華は人生が最も輝いていた時間という意味だけど、ドラマチックな恋愛劇になる訳じゃない。親密な友だちより少し特別くらいの割り切れない関係が続き、ちょっとの時間と出来事のすれ違いでそれは終わりを迎える。
作中でも少し触れられていたけど、60年代の香港は動乱の時期だった。
英国統治下ながら中国の文化大革命の煽りを受け、移住者が増えたり、デモの激化で香港を出るひとびとも増えたり。
時代に押し流されて生活がどんどん変わり、ちょっとの選択で永遠に会えないひとや戻れない場所ができてしまう。
主人公ふたりの他にも、出会いと別れに翻弄され、後悔を抱えていきていたひとはごまんといただろう。
一介の市井のひとびととして間接的に撮られ続けたふたりは、まさに揺れ動く香港でありふれたどこにでもいるそういうひとの一部だったと思う。
エブエブでオマージュされていた「あのとき一緒に行かなかったら」「結婚していなかったらもっと幸せだったかも」という問いも選択と後悔にまつわるものだ。
時間と場所をいくつも重ねた後悔と、それでも確かにあった大切な時間をテーマにした本作だからオマージュ元に選んだのかな。
ふたりも、その周りの雑踏でしかなかった人間たちも、戻れない花様年華を持っている。
時間の流れのように残酷な距離があるけれど、切なさとひたすら綺麗だった時間が残るいい映画だった。
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