第245話

岸元美晴きしもとみはる 視点◆


今日は冬樹ふゆきくんと春華はるかちゃんの誕生日会を行うということで、うちには冬樹くん達のお友達がたくさん遊びに来ていて、私は邪魔をしないように自室で出産や育児について調べていようと思っていた。

お友達が到着して『これから誕生日会が始まるかな?』と思っていたら春華ちゃんが部屋へやってきて『知った顔も多いんだし美晴お姉も参加してよ』と声を掛けられ、手を引かれるままにリビングへ行き初めましてのお友達を紹介され、その流れで私も冬樹くん達の誕生日会に参加することになった。

同級生達の中にひとりだけ大学生の私がいて気を遣わせないかと心配になったけど、むしろ冬樹くんとの関係や美波みなみ達の昔の話などを聞かれて話をしているうちに輪の中に溶け込んでいて私も楽しくなってきた。

みんな良い子で好意的なのだけど、梅田うめださんからは異様な圧を感じる・・・


「あの、梅田さん?」


「なんでしょうか?」


「私、なにか気に障ることをしたかな?」


「そんなことはないですよ?」


「それならいいのだけど、さっきから私のこと見てきてないかな?」


「申し訳ございません。いくら子供の時からの付き合いだからといって高校生と付き合う大学生というのが衝撃だったので・・・つい気になってしまって・・・他意はありません」


「そうだよね。外聞は良くないよね・・・」


その後も『もしかして冬樹くんのことが好きでライバル視されているのかな?』とも思ったけど、話を聞くと転校してきたばかりでそれほど交流をしていないからそんな付き合いたいとか思っていないということで、春華ちゃんが紹介の時に言っていた通り見た目に反して言葉遣い通り倫理観がしっかりしているなのかなと思った。

あと、梅田さんは今日が初めて会ったはずなのに、初めてではないような気がするんだよね・・・何でだろう?

他の女の子たちは、大山おおやまさんは冬樹くんに好意を持っているみたいだけど恋愛感情にまで発展してなくて冤罪事件の時の贖罪的な感情もある様に見えるし、春原すのはらさんや田井中たいなかさんは春華ちゃんの双子の兄妹という風にしか見てない感じで春原さんが冗談で冬樹くんと付き合いたいみたいなことを言ったけど、恋愛対象にはなっていないみたいで良かったと思う。

男の子たちは前に会った時と同様にローラン君と新谷しんたに君は春華ちゃんの事が好きみたいでアプローチが微笑ましい。特にローラン君はフランスの人だからか好意の伝え方が直接的で、逆に新谷くんは性格的に恥ずかしがり屋なのだろうけどローラン君に負けないようにと頑張っているので応援したくなってしまう。

江藤えとう君は酔っ払いに絡まれた時に助けてくれたので感謝しているのだけど、女の子に慣れていないのか私が話しかけても緊張させちゃっているみたいで申し訳ない気持ちになる。

・・・みんな良い子たちで冬樹くんと美波と春華ちゃんが心配していたより良い環境で学校生活を送れていることが感じられて、それだけでもこの誕生日会に参加させてもらって良かったと思う。


・・・それはそれとして、料理もケーキも冬樹くんの作ったものでパーティーをしているのは良いのかな?




食事があらかた終わって、残っているものをまとめ食べたい人が少しずつ摘めるようにして隅へ寄せてゲームを始めた。

短時間で終わるパーティーもののゲームを交代でプレイしてある程度慣れてきたところでリーグ戦にし、順位を競うようにしてますます盛り上がりみんな楽しんでいそうで良かったと思いながら私も楽しんでいた。

インターホンが鳴ったのだけど私はゲームをやっているところだったので、冬樹くんが応答してくれて、ドアホン越しに来訪者と何か話をしたあとに玄関へ向かっていった。


冬樹くんが戻ってくると、後ろには玲香れいかさんが着いてきていた。


「みはるん、アポ無しでゴメン。

 ちょっと話しておきたいことがあって近くへ来たついでに寄らせてもらったんだけど、冬樹君と妹さんの誕生日会をやってたんだね」


「それは構いませんが、この試合が終わるまでちょっと待っていてください」


「うん、気にしないで」



私の参加していた試合が終わってから、玲香さんを連れて自室へ戻った。


「みはるんの部屋は初めてだけど、物が少ないね」


「そうですね。必要がないものは空いている部屋へ置いているのもありますけど、あまり物を増やすのが好きではないので少なくなってしまいますね。

 それで、今日はどういった用件で来られたのですか?」


自室を見られることに気恥ずかしさを感じつつ本題を促した。


「それはね、頼まれていた子育てしながらでもできそうな仕事の件で紹介できそうな案件があってね・・・」


休みの日だと言うのに精力的に仕事をしている玲香さんは今日も伝手のある先輩のところへ行ってビジネスの話をしてきていたらしく、その先輩が働ける人を探していて、スキルや条件が合えば私を紹介しても良いのではないかと思ってすぐに来てくれたとのことだった。

アポ無しになってしまったのは電話やメッセージで連絡をしてくれていたものの私が遊んでいて気付かなかったからで、スマホを確認すると玲香さんからの着信履歴と簡潔に用件があるからうちへ訪問するという旨のメッセージがあり申し訳ない気持ちになったし、話を聞く限り悪い話ではなくて、それを少しでも早く伝えようと気を遣ってくれた玲香さんには感謝しかないです。



話が終わると、玲香さんは誕生日会の邪魔しては悪いからとすぐに帰ろうとされましたけど、ちょうどそのやり取りをしている時にお腹の音がなって、朝からご飯を食べていないということを聞き、冬樹くんの用意したご飯を食べていってもらうことにした。

玲香さんは最初は遠慮されましたけど、後で処分に困るから食べて欲しいと話をしたらそれならと応じてくれた。



「美晴さん、津島さん、お話は終わったんですか?」


「うん、それで玲香さんが朝から何も食べてなかったって言うから、残り物で悪いけど食べて行ってもらおうと思って」


玲香さんを連れてリビングへ戻ると冬樹くんが声を掛けてくれた。


「そうですね。

 冷めてしまっていますし、ちょっと手を加えますから少し待ってもらえますか」


「え、良いよ。このままでも十分美味しそうだし」


「じゃあ、それらを食べて待っていてください。

 こっちのはササッと火を通してアレンジしますから」


そういうと早々に冬樹くんが、そのまま食べるものをまとめて玲香さんに差し出して、これから手を加えるものをキッチンへ下げた。

冬樹くんが料理をしている間に玲香さんをみんなへ紹介する流れになり、冬樹くんの友達たちを紹介し玲香さんも交えて交流が始まった。


玲香さんが冬樹くんが再び手を加えた料理を食べ終えた頃には玲香さんも誕生日会のメンバーとして違和感がなくなっていて楽しそうに加わってくれて夕方のお開きまで付き合ってくれた。


先に冬樹くんや春華ちゃんの友達たちが帰っていって、家には冬樹くん、春華ちゃん、美波、玲香さんと私だけになった。


「玲香さん、ごめんなさいね。結局最後まで付き合わせてしまって」


「いや、いいよ。むしろ楽しませてもらったし。

 改めて、冬樹くん、春華ちゃん、誕生日おめでとう。

 知らなかったからプレゼントとか用意してないけど、今度何かさせてね」


「いや良いんですよ。僕らのためにそんな気を遣わないでください。

 むしろ、美晴さんのためにわざわざご足労いただいたのに申し訳ないです」


「そうですよ。あたしなんか美晴お姉やフユのおまけみたいな存在なんだし気を使わないでください。

 でも、これからも仲良くしてくれると嬉しいです」


「あはは、わかった。

 じゃあ、今回はこれで終わりにさせてもらうね。

 アタシも春華ちゃんや美波ちゃんとも仲良くさせてもらいたいし、よろしくね」


「「はい!」」

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