第215話
◆
クリスマスイブの日、休日にしては朝早い時間から
美波さんにプレゼント選びを手伝ってもらった時に、お菓子コーナーの前を通った時にケーキを見た拍子に何気なく『プラスアルファでケーキを作れたら良いのに』と言ったところ、春華さんがケーキ作りを得意としているから一緒に作ってもらえば良いと提案してくれ『春華さんが応じてくれるなら』と返したところ、春華さんとの約束を取り付けてくれたため決行できることになった。
直前になって春華さんの友人の
むしろ春華さんは先約とは言え含むところがあるであろう私との約束を反故にして、春原さん達とだけでケーキ作りをしても私は文句を言えないのに筋を通してくれたことには感謝しかないし、そんな私が先約だからと春原さん達を拒む気はなく、春原さん達から苦情を言われても仕方がないと思っている。
本当なら私は辞退して春原さん達だけでやってくださいと言うべきなのだろうと悩みもしたけれど、那奈さんへ手作りしたケーキを食べてもらいたいという気持ちの方が勝ってしまい恥を忍んでお邪魔させてもらった。
この状況で一番恐れることは私が春原さん達と春華さんや美波さんの関係を悪化してしまうことで、それだけは起こさないようにと気を張っている。
本当に不思議なもので、以前の気持ちも覚えているし今でも好意的には思っているけれど、付き合いたいと思うどころかそう思っていたことを他人事と感じるくらいには次元が違うものになっている。
「春原さん、田井中さん、始める前に謝罪させてください。私のような問題を起こした人間が一緒で申し訳ありません」
「二之宮さん、頭を上げてよ。むしろ先約があったのにわがままを聞いてもらったのは私らなんだから。
第一はるちゃんが敷居を跨がせた相手にどうこう言うつもりはないよ」
春原さんは特に気にしていないと語りかけてくれ、その隣りの田井中さんも小刻みに首肯を繰り返し私へ否定的な感情がないと意思表示をしてくれました。そして、更に今日初めましての梅田さんの方を向き話しかけました。
「初めまして。元
春華さん達から聞いているかも知れませんが、大きな問題を起こしたために学校を退学しています」
「こちらこそ初めまして、わたくし梅田香織と申します。
詳しくは存じ上げませんが、今では美波さんのご友人になっているということで承知しております。
わたくしとも仲良くしていただければと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
梅田さんは見た目が派手な割には言葉遣いが丁寧でどこかのお嬢様なのではないかと思わされるほどで、更に言うと発声がしっかりしていて演劇か声楽といった声を鍛える何かを行っている様に感じます。
春原さん達には問題になるほどの蟠りがなさそうということで少し気が楽になり、ケーキ作りを始めました。
梅田さんは料理が得意でケーキ作りも得意だけれど、友人と一緒に作る機会がなかったので参加したかったそうで、春華さんと同じくらい手際がよく私や春原さんのフォローをしてくれます。
そして、春華さんも梅田さんも私や春原さんの自分だけの力で作り上げたいという気持ちを理解してくれていて、慣れない作業に手間取ってしまい手際が悪いのに決して自分がやるとは言わずに見守ってくれています。
焼く時だけは美波さんの家のオーブンを借りるけれども、それでも2つしか同時に焼けず、最初に春原さんと田井中さんの分を焼き、それが終わってから梅田さんと私の分を焼き、最後に美波さんと春華さんの分を焼いて、焼けて冷ました順でデコレーションまでしたケーキが完成した人から順に帰っていく流れになっている。
オーブンで焼くところまで工程が進むまではひたすらケーキ作りに集中していて周囲へ気を回せずにいましたが、春原さんや田井中さんも同じ様に慣れない作業に集中していた様でお互い様だったようです。
最初の2個をオーブンで焼くところになってやっと手が空き、雑談を交わすようになった。春原さんと田井中さんは大変だけど楽しかったし、どう焼き上がるのかが楽しみと言っていて話題の中心になっている。
しかし、美波さんは作り始める前に自信がないと言っていたのに実は過去に何度もケーキ作りをしていた経験があって私から見て手際がよく騙された気分になりましたが、話をよくよく聞いていくと春華さんや冬樹が上手すぎて自分は下手だと思っていたらしい・・・気持ちはなんとなくわかります。自分自身にそれなりの力量があって、更に圧倒的に力量がある人が近くに居ると目が肥えてしまい、自分が大したことがないと思い込んでしまうというのはよく聞く話です。
特に美波さんと付き合う様になって感じるのはお姉さんの
割りと何でも器用にこなせる自負がある私から見ても遜色がないくらいには色々なことができて頭も良いのに自己肯定感が低いように見えるし、今になって思うとその事が神坂
ケーキの第一弾が焼きあがって、春原さんと田井中さんの分のケーキを冷ましながら梅田さんと私の分を焼き始めたところで料理の話になり、お昼ごはんを作りながら教えてくれるという事になった。
梅田さんが料理上手と言うことで、春華さんも含めて梅田さんから教わる様な状況になり、ちょうど神坂家と岸元家にあった材料で作れる中華風オムライスと中華風スープを作ることに・・・春原さん以外はそれぞれ力量に差はあっても全く料理をしないということもないので特に問題もなくスムーズに完成させることができた。
簡単に作れて美味しかったので、レシピも教えてもらおうという事になり、その際に今日の6人でメッセージアプリのグループを作ってそこで共有してもらえた。
春原さん達は始める前に言っていた様に私へ対しての忌避感はないようで、その流れで個別にも『よろしく』とメッセージを送ってくれ、それが思いのほか嬉しく思えた。
最後の美波さんと春華さんの分のケーキを焼き始めてから春原さんと田井中さんの分のケーキのデコレーションの準備を始め、春華さんと梅田さんのフォローを受けながらデコレーションを行っていき、完成したところで春原さんは『彼氏に食べてもらうのが楽しみ』と言い残し、田井中さんと一緒に嬉しそうにに出ていかれた。
次に私と梅田さんの番になり、手際の良い梅田さんがササッと完成させた横で春華さんのアドバイスを受けながらデコレーションをしていたら、梅田さんのスマホに通話着信があって、それに合わせて席を外して通話が終わって戻ってきたら『申し訳ありませんが、緊急の用事ができてしまいましたので、このまますぐに帰らせていただきます。ケーキも美晴さん達で召し上がってください』と言い、急いで出ていかれてしまった。
梅田さんも帰ってしまい、私のケーキが完成したところで私もお暇させてもらおうと帰り支度をしていたら、ケーキ作りをしていたダイニングキッチンへ見ず知らずの中学生か高校生くらいの男子が姿を表しました。
「春華!今日から世話になるからよろしくな!」
その男子は春華さんへ気安く声を掛けました。
「あれ?ユッキー?どうしてここにいるの?」
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