第213話

松本明良まつもとあきら 視点◆


「ごめんね、来てもらっちゃって。宅配便の受け取りを時間指定していたから午前中は出られないの」



「いいよいいよ。むしろ、周りに人が居ない方がいいし」



「ぼく達こそ昨日の今日で押し掛けて申し訳ない」



昨日の夜、雷斗らいとさんとのクリスマスデートの服選びを手伝ってくれていた玲香れいかとの話しの流れで男女の営みについて気になるという話題になり、経験者である美晴みはるさんに聞いたらどうだろうかという流れからアポイントを取っていたために訪問した。


その話をしていた時は玲香に言いくるめられていた感もあり聞いてダメならゴメンナサイで良いという感じだったけど、一旦冷静になってから考えると『彼氏との性体験について聞かせて欲しい』なんて友人同士でも中々聞きづらいことでバカなことをしていると思う。


美晴さんとは出会いからしてインパクトのあるトラブルが遭ったし積極的な玲香がいることもあって一気に関係が深まっているけど、付き合い始めて2ヶ月ちょっとで今更ながらそんなセンシティブなことを聞いて良い間柄になれているとは言えない様に思う。


本来なら最初から思い至って実行するべきではなかったのに、ここまで来てしまった・・・でも、まだ引き返せる・・・ここまで来ておいてやっぱりなしは失礼だと思うけど、それでも『性体験の話を聞きたい』よりはマシなはずだ。




そう思っていたのに・・・お茶とお菓子を用意してくれて、美晴さんが対面に、横には玲香といういよいよ話をするという態勢になってしまった。



「それで、玲香さん達が私に聞きたい事というのはどういった内容でしょうか?」



「いやっ、やっぱr」

「セックスについて聞きたいんだよね」



遅かった。もたついている間に場が整い、玲香が口にしてしまった。



「え!?

 何でそんな事を?」



「それがね、アキラくんが佐々木ささき先輩とクリスマスデートすることになったんだけど、経験がないから怖いって言うんで、経験者の話を聞いてイメージできたらと思ったんだよね」



「そ、そういう事ですか・・・私も経験するまでは漠然と恐怖心がありましたし、わからないではないですけど、流石に気恥ずかしいですし何を語れば良いのかという思いにもなりますね」



「あのっ、美晴さんゴメン。雷斗さんとのデートのことで頭が一杯で藁にも縋る思いで玲香の思い付きに乗っかってこんな失礼なことを・・・」



玲香から思いも依らぬ質問をされて困惑してしまった美晴さんに精一杯の謝意を込めて頭を下げた。



「そんな、頭を上げてください。驚きはしましたけど、別に謝るような事ではないですから」



「でも・・・」



「私だって恋する気持ちをいだいていますし、愛している男性ひとにどう接すれば良いのかとか不安になる気持ちだって痛いほどわかります」



「じゃあ、冬樹ふゆき君との経験を教えてくれる?」



「玲香!」



「まぁまぁ、玲香さんの言い方はちょっと配慮が足りないと思いますけど、そういう明け透けな話もガールズトークじゃないですか?」



「そうそう、みはるんもこう言ってくれてるんだし、拝聴しようよ」



「まったく・・・」



興味が先行してしまっているせいか玲香は配慮が欠けて暴走気味だけど、ぼくも聞かせてもらえるなら聞きたいという本音があるので強く言えない。



「高校の時でも大学に入ってからでも進んでる友達から聞く機会はなかったですか?」



「それがないんだよ。アタシとアキラくんってほぼ共通の友達しかいないんだけど、みんな女子校で男よりもアキラくんが良いってばっかりだから・・・むしろ、がある集団なんじゃないかって言うくらいいないね」



「流石にそれは言いすぎだろう」



「いーや、ホントだって。特にともみんとりーこはアキラくんを狙ってるよ」



「おいおい、冗談・・・だろ?」



別の進路へ進んだ中高からの友人である朋美ともみ梨衣子りいこを思い返すと・・・たしかに割りと冗談ではないアプローチをされていた様にも感じる・・・これ以上考えると良くない気がして話を逸らせることにした。



「ともかく、親しい仲では美晴さんくらいしか・・・その経験者がいなくて・・・お話を聞かせてもらえると助かるのです」



「協力するのはやぶさかではないですけど、私自身全然経験がありませんから期待しないでくださいね」



「良いんだよ、みはるんと冬樹君の初めて同士の経験談とか聞かせてくれれば!」



やはり暴走気味の玲香がまた失礼な話をしているが、美晴さんもにこやかに受けてくれているのでぼくもその流れを遮らずに傾聴することにした。



「えーとですね。まず、私と冬樹くんは初めて同士ではなかったです」

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