第201話

神坂冬樹かみさかふゆき 視点◆


二之宮にのみやさんのお見舞いに行ってきた美波みなみが僕らに呼び掛けを行なって、岸元きしもとの家に美波と姉さんとハルの3人とこちらは僕と美晴みはるさんの5人でビデオ会議通話を行なった。


二之宮さん側からは特に隠し立てするようなことはないから僕らに共有して良いということで許可をもらってきたということだけど、あくまで内輪の話で留めて欲しいということでもあった。


話を聞くと軽々けいけいに他人へ言い広めて良い内容ではないと思ったし、あくまである程度関係がある僕らにだから言っても良いと思ったのだろうと察した。手前味噌にはなるけど、僕らの中にはそう言ったことを軽々かるがるしく言う様な人間は居ないので、それぞれが胸の内に留めると思う。美波もそういう信頼があって話してくれたと思うし、それは裏切りたくない。



『それでね、凪沙なぎささんや鷺ノ宮さぎのみや君のお姉さんに何かしてあげられることはないかなって思うのだけど・・・』



『たしかに同情の余地はあると思うが、私達もずいぶんと酷い目に遭わされたんだぞ・・・まったく、美波は甘いな』



『でも、凪沙さんは反省してるし、話せばいい子だってわかるよ』



『それはそうかも知れんが・・・』



画面の向こう側で美波と姉さんが問答を始めてしばらく眺めながら考えてみた・・・僕の中に二之宮さんへの蟠りはあまりない。騒動を引き起こした原因とは言え、直接されたのは冤罪の演出の時で、しかも本人としては事実を否定していたし、それで作られてしまった空気に乗って僕を批難したのは美波やハル達で、しっかり誤解を解こうとせずに見切りを付けすぐに家を出たのは僕だ。それ以降も直接なにかしてきたことはなく、むしろクラスメイトの醜悪さを浮き彫りにしてくれて良かったとすら思う。


その上、那奈ななさんのお陰で落とし所を定めて決着ができているのもあるし、その立役者である那奈さんのためになんとかしたいと言う思いもある。それに、最後に会った時の二之宮さんは憑き物が取れたかの如くの変わり様だったし、本人が変わる意志があるというのであれば過去のことを持ち出して水を差す様な事もしたくない。



「姉さん、美波、ちょっと良いかな?」



『すまん、美波とふたりでエスカレートしてしまっていたな。何か思い付いたか?』



「何かを思い付いたというわけではないけど、二之宮さんの事なら那奈さんと高梨たかなし先生も交えて相談した方が良いと思う。

 もっとも、何かを求められているのだとしたらだけど・・・美波の立場でできることもして良い事も限られると思うし、現実的には高梨先生に話してみることかな?」



『たしかに、高梨先生もすごく気に掛けてくれてた・・・うん、明日学校へ行ったら高梨先生に相談してみる』



『それだったら、あたしも付き添うよ!』



「ハルも二之宮さんの事を気に掛けてるの?」



『フユも前に言ってたけど、二之宮さんが前と変わってて、美波ちゃんが仲良くしたいっていうから、あたしも仲良くしたいかなって思ってる』



「なるほどね。美波とハルが気に掛けているのなら僕も協力しないわけにはいかないね」




赤堀あかほりみゆき 視点◆


冬樹と因縁がある元教え子のお見舞いに行ってきたと言う百合恵ゆりえの表情が優れない。



「どうしたの?お見舞いで何かあったの?」



「今日お見舞いに行ってきたなんだけど、一時的に記憶喪失になってね」



「それは大変じゃない!?」



「うん・・・それはすぐに記憶が戻ったから良かったのだけど、それで記憶喪失になったままの事にしてそれを理由にお世話になっているかたの元から居なくなろうとしたのよ」



「またどうして?」



「そのが今お世話になっている人って、そののやったことの影響で加害者になってしまったところがある男の子のお姉さんで、家族として色々大変だったみたいなのね。

 それで迷惑をかけたのに、今回みたいに恨みを持つ人に報復される事があった際に巻き込んでしまいかねないと危惧して身を引こうとした様なの」



「ずいぶんと殊勝な心掛けじゃない」



「そうね。そのお姉さんが良い影響を与えてくれているみたいで、雰囲気が変わっているわ」



「話を聞く限りでもすごいわね。自分の弟が巻き込まれた被害者なのにそのの親が駄目だからって引き取ってあげた話よね?

 ・・・それで、改心までさせちゃうなんてさ」



「それは私も思うわ。まだ数回しか話したことがないけど、聞いている話だけでもご自身とお父様が職場を辞めさせられて、お母様はノイローゼにかかってしまったとか言うらしいし、人格者なのだと思うわ」



「そうね。でも、今はそのお姉さんとの二人暮らしなんでしょ?

 仕事へ行っている間にいなくなるかもとか心配になっちゃうわよね」



「たしかに心配になるわね・・・」



「ねぇ、そののために何かしてあげたいって考えてる?」



「それはもちろん考えてるわよ」



「それに私も乗ってあげる。

 なんなら、そのとそのお姉さんと同居したって良いわよ」



「ふふっ、さすがにそういう事にはならないでしょうけど、気持ちは受け取らせてもらうわね」



「ちゃんと受け取っておいてちょうだいね。

 まぁ、考えるまでもなく先生と知らないオバサンとの同居じゃ落ち着かないわよね」

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