第164話

神坂春華かみさかはるか 視点◆


美波みなみちゃん経由で二之宮にのみやさんからもたらされた塚田つかだ先生のストーカー疑惑は、話を聞いた翌日にお姉と美波ちゃんと3人で朝早く登校して探りを入れることになった。とは言っても、美波ちゃんには無理をさせられないのでお姉とふたりで付き合わないで良いと言ったのだけど、美波ちゃんはそれでもできる事をしたいからと言って一緒に登校した。


夏休み前に察知していたのにその直後のアダルトサイトや裏サイトへの美波ちゃん達の動画が投稿される騒ぎとそのまま前倒しで夏休みが始まってしまったことやフユの事もあって記憶の彼方へ追いやってしまっていたし、それはお姉も美波ちゃんも同じだろうからお互いにその事は責められない。特に美波ちゃんは当事者だし、お姉も普段は冷静沈着で隙がないタイプだけどそれだって完璧ではない。


ただ、それを失念していたことで高梨たかなし先生に危険が迫っていたことを野放しにしてしまっていたことは申し訳なく思う。



そして、学校へ着くと美波ちゃんと別れてお姉とふたりで職員室を訪問した。



神坂かみさかさん、おはようございます。それにお姉さんも一緒でどうされました?

 まだ転校生と留学生は来ていませんよ?」



いきなり本命の塚田先生から声を掛けられて思わず悲鳴を上げてしまいそうになったけど、それはなんとか我慢して平静な態度を取れたと思う。


昨夜から気持ちがそれどころではなくて言われるまで忘れていたけど、今日はもう12月なので留学生と二人目の転校生が初登校する日だった。



「いえ、転校生と留学生は関係なくて高梨先生に用事があって来ました」



「高梨先生はまだ登校なさっていませんよ。どういった用件ですか?」



塚田先生は高梨先生の名前を出すと微妙に反応を示した。そもそも、わざわざ高梨先生を名指ししているのに用件を聞いてくるのは不自然極まりない。


隣のお姉もその違和感に思うところがあるのか援護してくれた。



「すみません塚田先生。先生とは言え、男性には言いづらいことですので・・・」



「そうでしたか。それはデリカシーがないことを言ってしまい申し訳ないです」



「いえ、こちらこそ気遣っていただいたのに申し訳ありません。

 そう言えば、塚田先生。昨日は普段と違う方向の電車に乗っておられましたけど、何かあったのですか?」



「え?あ、ああ。ちょっと用があってね」



「その出先で職質されたんですよね、塚田先生」



あたし達の会話に学年主任の田中たかな先生が混じってきて驚くべき情報を与えてくれた。



「ええ?塚田先生、職質されちゃったんですか?」



「そう、出先で先方の帰りを待っていたら怪しい男がいるって警察に通報されちゃって、そこで警察官が出向いて職質されたんだって。

 学校の名前を出して用事でって塚田先生が答えたから学校まで確認の電話がかかってきて応対させられてびっくりしたんだよ」



「そうですよね、いきなり警察から電話がかかってきたらびっくりしちゃいますよね」



「そうなんだよ。一応、騙りの可能性もあると思って塚田先生に確認の電話をしたんだけど、やっぱり本人でね、塚田先生には悪いけどちょっと笑っちゃったんだよね」



「田中先生・・・生徒にそんなペラペラと言わないでくださいよ」



「おっと、すまんすまん。たしかに、聞こえが良い話じゃないから神坂たちの胸に秘めておいてくれな」



「「わかりました」」



お姉とハモって田中先生に返答したところで、ちょうど高梨先生が入ってきた。



「おはようございます」



「おはようございます。春華はるかさんに、夏菜かなさんまで一緒に、朝早くからどうしたのですか?

 まだ留学生と転校生が来る時間ではないですよね?」



「はい、実は先生に折り入ってお話したいことがありまして、あたしとお姉に、あと美波ちゃんと4人で放課後お時間をいただけませんか?」



「良いですよ。何でしたらお昼休みでも大丈夫です」



「それでは、お昼休みに部室・・・はフユが使うかな?」



「それでしたらわたしの音楽準備室でどうでしょうか?」



「では、それでお願いします」



「承知しました。それでは、お昼休みに音楽準備室でお待ちしてますね」



「はい、よろしくお願いします。

 それでは、塚田先生、あたしは転校生と留学生が来る頃にまた新谷しんたに君と来ますね」



「私はこれで失礼いたします。それでは高梨先生、またお昼によろしくお願いします」




お姉と職員室を出て少し離れたところで声を潜めて話しかけた。



「あの職質されたっていうのは、二之宮さんの家まで尾行して外で待っていたってことだよね?」



「おそらくそうだろう」



「昼まで待ってて良いのかな?」



「今更だし学校内で急ぐ理由はないから昼で良いだろう。

 それより、お前は留学生と転校生の出迎えがあるんだろ?

 まずはそのことを考えておけ」



「ごめん、そうだよね。じゃあ、またお昼にね」



「ああ」




教室へ戻り、美波ちゃんへ簡単に職員室での状況を話している間に新谷君も登校していて、出迎えの時間になったのでまた職員室へ向かった。

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