第140話
◆
学校では姉さんやハルが気にかけて様子を見に来てくれたけど、
美波は空元気に見えるくらいずっとテンションが高い様子で僕にも話しかけてくる。
さすがに一時期のような無視をするつもりはないけど、以前のような恋慕はなくなっているので鬱陶しく感じることもある。
違和感があるし恐らく何かあったのだろうと思うのだけど、そこへ踏み込むのは失礼なので困ったことがあったらいつでも協力するので頼って欲しいとだけ言うに留めた。
そして、早い方が良いということで今日の僕の帰宅に合わせて連れてくる事になった。
家に着くと美晴さん達が先に着いていて、玄関には美晴さんの物の他に見慣れない靴が2足あった。ただ、どちらも先週会った時の津島さんと松本さんのイメージから離れているもので別の人も来ているのかもしれないと思いながらリビングへ顔を出した。
「すみません、お待たせしました」
「おかえり、冬樹くん。急がせちゃってごめんね」
「いえ、いつも通りの時間ですから」
「え!?高校生だったの!」
美晴さんとやり取りしている横から大きな声で呼び掛けられた。
「そう言えば、年下とは言ってたけど、高校生とは言ってなかったね」
「そうよ、みはるん。てっきり1個か2個下くらいだと思ってたわよ。
ましてや、このマンションを買ったんでしょ?
そんなの高校生だなんて思わないわよ」
「たしかに、事情を知らなかったらそうなるよね」
いきなり会話を始められてしまったので、まずは紹介をしてもらいたいと思い口を挟んだ。
「あの、申し訳ないのですが、まずは挨拶をさせていただけませんか?」
「そうよね。ごめんなさいね。
先週会った時と見た目が変わっちゃっているけど、こちらが津島
「すみません。ずいぶんと印象が違ったので気付けませんでした」
「何言ってるの、アタシ達が謝りに来たのに冬樹君が謝ったらダメでしょ。
・・・そして、今日はお時間を作っていただきありがとうございます」
立ち話も難と言うことで、リビングのテーブルに僕と美晴さんが隣り合わせで座り、反対側に津島さんと松本さんが座って相対した。
「先程も少し触れましたけど、この度は大変なご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
「申し訳ありませんでした。そもそも、ぼ、私がふざけたことが原因です。玲香は美晴さんを飲み会に誘っただけで悪いのは私です。
自分自身女だと言うのに浮ついて冗談にならないことを言って不安にさせてしまい情けないです」
津島さんと松本さんはそれぞれ深く頭を下げて謝罪の言葉を述べてくれている。
「あのね、冬樹くん。私も雰囲気が楽しくてつい飲みすぎてしまったから私も悪かったの。
だからふたりのことを許してあげて欲しい・・・」
「まずは、お二人とも頭を上げてください。そんな姿勢では話しづらいです」
そういうと津島さん達は遠慮がちに頭を上げてくれた。
「松本さんの話にしたって、スマホのバッテリーが切れなかったら冗談で終わっていたことですし、そもそも津島さんは松本さんのご友人で美晴さんに紹介しただけですし、美晴さんが量を弁えずに飲みすぎて寝てしまったのも悪かったと思います。
それなのに、口だけでなくそんな畏まった格好と女性らしい格好をされているのですから、真面目で誠意のある対応だと思います。
僕から言うまでもなく同じ事が起きないように気を引き締めていらっしゃるのだと思いますし、それ以上言うことはありません。
ですが、言葉にした方が良いと思いますので言わせていただきます。
津島さん、松本さん、僕はあなた達を許します」
そこまで言うと、津島さん達の顔の緊張が少し弱まった。
「あのね、冬樹くん。津島さんとアキラさんなのだけど、これからお友達として親交を深めていこうと思うのだけど良いかな?」
「もちろん、良いですよ。
今回は間が悪くてトラブルになりましたけど、その
津島さん、松本さん、僕が言うのも変ですけど美晴さんと仲良くしてもらえると嬉しいです」
◆津島玲香 視点◆
アタシは初めて失恋した。
今まで恋とか愛とかわからないと思っていたけど、これが恋に落ちると言うことかということを実感した。
ただ、相手が悪かった。既に相思相愛でお似合いのカノジョがいるからだ。
今日は男女問わず顔を合わす相手にいちいち姿をおちょくられていたというのもあるけど、みはるんへ悪い事をしたという反省の気持ちを汲み取ってくれて、更には気遣ってくれて本当に嬉しかったし、またそのやり取りをしている時の表情がとても優しく柔らかいもので気持ちは完全に掴まれてしまった・・・一人相撲だけど・・・
今はアタシの新しい友人のカレシが最高の男性なことを喜ぼうと思う。
◆松本明良 視点◆
僕は10年ぶりくらいにワンピースを着たと思う。
小学校の時、1人だけ背がグングン伸びていった時に男子達にバカにされてなんとなく女っぽい服を避ける様になり、その頃からスカートを全然履かなくなっていた。
その後も順調に身長が伸びて俗に言う女の子らしい格好よりも男の子らしい格好の方が似合う様になり、周囲の目もあって男の子らしい格好をする傾向が顕著になった。
それでも、女なのだから女の子らしい格好をしたい気持ちは当然あった。
そういう憧れの気持ちもあって中学へ進学する時は中高一貫校の女子校を希望し無事に入学することができた。しかし、義務だからと制服を着ることは抵抗感なく受け入れられていたけど、それ以外の時は男の子らしい格好をすることを求められ続け、それに応えるように男の子らしい格好をし続けて感覚が麻痺していた。
そして、トラブルを起こし美晴さんへの謝罪をするのにどうしたら良いかと考えた時、男の子らしい格好ばかりしていて求められるがままに男の子っぽい言動をし続けていた事が原因のひとつだろうと思い至り女の子らしい格好をすることにした。
憧れていたはずなのに、自分でも違和感があり大学でも玲香をはじめ男女問わず『似合わない』とか『変』とか言われそんなものかと思い込んでいたところで、謝罪で顔を合わせた神坂君にも自虐で「似合わないでしょ」と言ったら「そんなことないですよ。モデルさんみたいで見惚れてしまいます」と本心からと思える雰囲気で言ってもらえて心の底から救われた思いがした。
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