第134話

神坂冬樹かみさかふゆき 視点◆


美晴みはるさんが大学の同じ学部の人に誘われて飲み会に参加していて、美晴さんが終わると思うと言っていた時間から1時間以上経っているのに連絡がない。


美晴さんからは『飲み会が終わったらすぐに連絡するからそんなに心配しないで』と言われていただけに逆に不安が募る。今回は女性のみの飲み会ということらしいけど、普段交流がない人からの誘いということで悪い想像をしてしまい不安になる。


メッセージを送ってみたものの返信はなく、焦れて電話を掛けても出てくれず、居ても立ってもいられなくて繰り返し何度も発信し何度目かわからないくらい繰り返した時にやっと繋がった。



「もしもし美晴さん!

 今どこ!?

 大丈夫!?」



『もしもし彼氏君?

 美晴ちゃんならオレの隣で寝てるよ。

 今日は美晴ちゃんで最高に楽しませてもらったから、ごちそうさま。

 明日にはちゃんと返すから心配しないで待ってて・・・』



声が高いテノールボイスの男が出てそんな事を言い放ってそのまま切られた。


すぐさま掛け直してみたものの電源を切られてしまったようで呼び出しすらしなくなってしまっている・・・



悪い想像がどんどん強くなり胸が苦しくなってくる。


自分の心臓の音がとても強く大きく聞こえてきて、目には自分の部屋が映っているものの真っ暗な闇の中に居る様に感じる。



とは言え、こんなところに居たところで美晴さんの窮地・・・手遅れかもしれないけど・・・から救うことはできない。さっきの電話だけでは警察に相談してもすぐには動いてくれないだろうし、そもそもその時間が惜しい・・・こういう時に頼りになる人を思い出し、電話をしたらすぐに出てくれた。



「もしもし、姉さん?」



『冬樹、どうした?こんな夜遅い時間に』



「それが・・・」



先程までの事を簡潔に説明した。



「事情はわかった。なら私は岸元きしもとの小母様たちに美晴さんのスマホを探すサービスを使って電波が切れた場所の特定をしてもらう様にお願いしてくる。

 わかったらすぐ連絡するから少し待っていてくれ」



姉さんは僕が頼もうとしていことを先回りしてやってくれると言ってくれた。やはり頼もしい人だ。



「わかった。僕は美晴さんの大学の最寄り駅へ移動するから、小母さんから場所を聞けたら連絡してね」



「了解だ」




もう手遅れなのかもしれないと言う不安もよぎるけど、黙って待っていることはできないので最低限の準備をしてすぐに家を飛び出し美晴さんの大学の最寄り駅までの移動を開始した。




◆神坂夏菜かな 視点◆


冬樹から美晴さんが大学の飲み会で不審な男に連れられてしまったらしいという連絡を受け、岸元の小母様に連絡し美波みなみには気取られない様に小父様とふたりで我が家にお越しいただいた。



「・・・と言うことです。

 つきましては美晴さんのスマホを探すサービスで電源が切られてしまった場所の照会をお願いします」



「夏菜ちゃんに言われるまでもなく照会はするよ。

 えーと、どうすれば良いのかな?」



「小父様、それは携帯会社のサイトから位置情報を照会できる様になっています。

 『携帯 探す サービス』でネット検索をしてもらえばそのサイトに繋がると思います」



「夏菜ちゃんはよくそんな事を知っているわね。感心しちゃうわ」



春華はるかや美波がトラブルに巻き込まれる事があるかもしれないと心配で前に調べたことがあったのです」



「ほんと頼もしいお姉ちゃんで・・・」




小母様やお母さんとそんな会話をしている間に小父様が場所を照会できて、すぐに共有してもらった。



「ありがとうございます。これでだいぶ絞り込めました。

 お母さん、それでは行ってきます」



「ちょっと待って夏菜ちゃん。うちの娘のことなんだから俺が行くよ。

 こんな遅い時間に女子高校生おんなのこが出歩くのはダメだよ」



「ご心配をおかけして申し訳ありませんが、美晴さんだけでなくうちの冬樹も心配なので私も連れて行ってください」



ひかるさん、申し訳ないのですけどわたしも一緒に行かせてください。

 夏菜むすめも家でじっとしているより一緒に行った方が気が楽だと思うので連れて行っていただけませんか?」



「わかりました。穂奈美ほなみさんと夏菜ちゃんも一緒に行きましょう」



「すみません、ひかるさん。穂奈美つま夏菜むすめをよろしくお願いします」



「いえいえ、こちらこそ岸元うち美晴むすめのために裕一郎ゆういちろうさん達にまでご迷惑をおかけして申し訳ないです。

 俺が責任を持っておふたりをお連れします」



「あなた、夏菜ちゃん達おふたりのこと、よろしくお願いしますね。

 それと夏菜ちゃん、美波のことを考えてくれてありがとう。

 普段は普通に振る舞っているけど例の事件をまだ引き摺っているし、今の段階では知られたくなかったから、美波に聞かれない様に私たちを呼び出してくれて助かったわ」



「いえ、当然のことです。

 春華、お前も美波に気取られない様に気を付けるんだぞ」



「わかってるよ、お姉。それと、美晴お姉とフユのことお願いね。

 あたしは足手まといになるだけだから家で無事を祈ってるよ」



「ああ、よろしく頼む」




そこからは話が早く、岸元の小父様が車を出してくれてお母さんと3人で美晴さんの大学の最寄り駅近くのスマホの位置照会で出てきた場所へ向かいつつ冬樹とも連絡を取り現地で合流することとなった。

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