第128話
◆
下校時間まで残り僅かだったけれども
校門を出たすぐのところでタクシーに乗ることができたので移動しながら姉さんとハルにも美晴さんの事情と病院の場所をメッセージで送ったら、ふたりとも後から来るということだった。
美波はご両親へ連絡をし小母さんがやってくる事になったとのことだけど、到着までは少し時間がかかりそうとのことでそれまでは美波と僕に任せるとのことだった。
道がスムーズだったこともありあっという間に病院へ着いた。病室へ入るとまず付き添ってくれていたみゆきさんが目に入いりものすごく落ち込んでいたのが気になったけど、まずは美晴さんの様子を知りたくてその点は目をつぶり声を掛けた。
「みゆきさん、美晴さんは大丈夫なのですか?」
「ああ、冬樹。美晴ちゃんは大丈夫よ。ちょっと疲れてしまって気を失ってしまっただけみたい。
どこも悪いところはないって。点滴を打っているけど病気とかではないから心配しないで。
それと、今は寝ているから静かにしてあげて」
そう言われて、声が大きかったことに気付かされ声量を絞って返答した。
「そうですか、わかりました。
それとみゆきさんも顔色がとても悪いですよね。
そんな状態なのに美晴さんに付き添ってくださってありがとうございます」
「あら?私の顔色、そんなに悪い?」
「はい、いつもとは全然違う感じですよ」
「そっか、気遣ってくれてありがと。でも大丈夫よ。
そうそう、妹ちゃんとはちゃんと挨拶したことがなかったわよね。
私は
みゆきさんは大丈夫というジェスチャーをしながら、美波に向かって自己紹介をした。
「あっ、姉のこと、ありがとうございます。
「こちらこそ、よろしくね」
美晴さんの状況を知り、安堵からか急に喉の乾きを覚えた。
「でも、良かったです。美晴さんの顔を見てホッとしました。
急いでて喉が渇いたので飲み物を買ってきますね。
ふたりの分も買ってきますけど、何が良いですか?」
「悪いわね。お言葉に甘えて、私はお茶が良いわ」
「わたしは・・・冬樹と一緒に行って選ぶ。
赤堀さん、申し訳ありませんが、また姉のことをお願いします」
「わかったわ。それじゃ、いってらっしゃい」
今の病室を出てすぐのところに待合室があり、その入口のところに自動販売機があったのを見ていたので、そこで飲み物を買った。
近くではあるけど、自分と美波とみゆきさんの分に、美晴さんや他のお見舞いで来る人様に多めにお茶を買っておいた。
「目と鼻の先なんだから買っておかなくてもいいんじゃない?」
「たしかにすぐ買えるけど、お見舞いできた時って意外に気が回らないからサッと出せると良いんだよ。
それに買ってすぐはけっこう冷たいから、常温で置いておいた方が
病室へ戻って、一息ついたところで美波が病院の手続きをすると言って部屋を出ていった。
病院に到着するまで時間がかかるからと小母さんから頼まれたとのことだ。
そうして寝ている美晴さんとみゆきさんと僕だけになり、ふたりで話すことがなくなってしまったタイミングでもう一度お礼を口にした。
「繰り返しになりますけど、今日はありがとうございました。
みゆきさんが居てくれて本当に良かったです」
「あのさ・・・美晴ちゃんがこんなになったのって、私が原因だと思うんだよね・・・」
とても言いにくそうでいて、囁く様な声量でみゆきさんは続ける。
「私が美晴ちゃんに甘えて聞かせてはいけないことを聞かせてしまったから・・・」
「そうですか・・・みゆきさんが言いにくいならその内容は聞きませんけど、そんな気に病まないでください。
何を聞かされたのかわかりませんけど、美晴さんだってみゆきさんからどんな事を聞かされたって倒れるほどの負担になる事なんかないですよ。
僕の学校のこととか大学の夏休みが明けて久しぶりに忙しくなったとか、たまたま悪い要因が重なっただけですよ」
「違う・・・」
みゆきさんは急に大きな声を出して否定した。
「違うのよ!」
◆岸元美波 視点◆
お母さんからできたらやっておいてと頼まれていた病院の手続きは書かないといけない書類が多く、しかもわたしではわからないこともたくさん有ったので書類を受け取ることしかできなかった。
病室へ戻ろうとしたところでちょうど
「ふたりとも、お姉ちゃんのためにありがとうね。
疲れが溜まっていただけで病気ではないみたいだから安心して。
さっき病室を出た時は寝てたから、今もまだ寝てるかもしれないけど・・・」
「それは構わない。美晴さんが倒れたと連絡をもらって気が気でなかったから来ただけだ。
寝ていてもその姿を見られればそれだけでも安心できるし、変に長居しても迷惑だろうからすぐに帰るよ」
「そうだね。お姉の言う通り、居ても立っても居られないって感じで来ただけだから。
っていうか、水臭いよ!
美晴お姉だってあたし達にとってもお姉ちゃんなんだから、美波ちゃんに負けないくらい心配しているんだからね。
こんな時だけ他人行儀に区別なんかしないでよ!」
「そうだよね・・・たしかに、わたしも夏菜お姉ちゃんが入院した時は心配したし、今の言い方は良くなかったね」
「わかればよろしい!」
「はいはい、それで病室はこっちだよ」
病室へ入ろうとすると奥の方から冬樹とみゆきさんの声が聞こえてきた。
「違うのよ!」
それまでは何か話しているなという感じで聞き取れなかったけど、みゆきさんの悲鳴とでも言う様な強い否定の言葉が聞こえてきてわたし達は足を止めた。
「私が冬樹の子供を妊娠したなんて相談したから!」
「ええ!僕の子供ですか!?」
「それ以外に相手はいない!
・・・って、静かにしないとね・・・それで・・・」
わたし達は音を立てないようにそっと病室を離れて、病室のすぐ側の待合室へ入って互いの顔を見合わせた。
「今、冬樹の子供を妊娠したって言ってたわよね?」
「ああ、美晴さんではない女性の声だったな」
「それは、今冬樹の家に居候しているという赤堀みゆきさん」
「ああ、たまに冬樹達の話に出てくる高梨先生のご友人だな」
「ちょっと待って!?
フユ、美晴お姉と付き合っているんだよね?
浮気してるってこと?
いや、美晴お姉もいるから公認二股?」
「でも、あの感じだとお姉ちゃんが倒れた疲労?心労?の原因が妊娠したことを聞かされたからってことだよね?
冬樹はみゆきさんと浮気していたんじゃないの?」
などと三人で話しながら頭はパニック状態だった。
「とりあえず、冬樹たちが何か言ってくるまでは私たちからは何も言わず知らないことにするぞ。
美波が遅くなっては心配をかけるだろうし戻るとしよう」
・・・冤罪の時は本人に確認しなくてつらい思いをしたし、今度こそはっきり判るまでは信じていようと思った。
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